米国で始まる製造業のルネッサンス
天然ガスの一形態であるシェールガス(Shale gas)の実用化が米国で進むと見られ、楽天的な観測として同国で製造業のルネッサンスが起きると言う人もアメリカの友人の中には出て来た。このセミコンポータルでも既にシェールガスの記事が出ている(参考資料1)。
シェールガスは、地下の深い地点で存在する頁岩(ケツガン)に含まれるものを言うようだ。掘削のために穴を掘るが、地上から縦穴で始まり頁岩に達するなら次には直角に曲げて穴は横穴になる。そして頁岩の中で横に展開する坑道は終端する。こうして地上から水を主体とした注入液を坑道に入れて強い圧力をかける。この時、その終端が閉じているので地上から強い圧力をうまく加えることが出来る。圧力は、頁岩にも均等に加わる。この作業で坑道に接する頁岩の露出面の細かな裂け目には強力な圧力で注入液が入り込み、そして頁岩の組織が破壊する。頁岩は破壊して、中に閉じ込められていたシェールガスが放出される。こうして坑道の中に満ちる注入液と頁岩の破砕片と中に閉じ込められていて解放されたシェールガスの混合物を地上に引き上げる。それからガスを分離して集め、液体その他の混合物は捨てる、即ち坑道に戻して埋めて地表の部分はセメントで蓋を作り地中に閉じ込める。この一連の作業は英語でFrackと称する。水平に展開する横穴、3,000メートルもの長い坑道を掘削する技術を米国企業は駆使する。当然のことながら、参考資料1にあるようにノウハウがあって知的所有権で固められていると想像される。
エネルギー源としてのガスの量は燃やして得られる熱量で計られ、100万BTUを一つの単位として使う。シェールガスの値段はこの単位当たり約3ドルと大変に安い。この安さが大きなメリットになっている。ちなみに我が国がオーストラリアやインドネシアなどから輸入する天然ガスの価格は、同じ熱量の場合15ドル程度なのでシェールガスを輸入して諸経費を加えた後の値段が15ドルを切ればメリットは出て来る。
図1 シェールガス採掘に反対するFrackマーク
想像に難くないが、Frackは環境にダメージを与えるため、嫌う人が多い。日本からの友人がニューヨーク市の北をドライブしたときに遭遇したFrack反対のマーク(図1)は、我が国では全く知られていないので友人も最初は何だかわからなかったらしい。ドライブを休んで店に寄って訊いてみて初めてわかったようだ。
日本は自然に起因する素材を欠く国なので将来ともFrack問題はないだろうが、エネルギーの産地における環境問題は、ますます深刻になるだろう。Frackに際して汚れた水が発生する、頁岩の破砕物が大量に出て来る、野原だった現場には大きな縦穴が開く、などが起きる。地下水の汚染も問題だ。
しかしながら、米国では環境問題が優先して、そのためにFrackを止めてシェールガスをギブアップするだろうか?筆者はその答えはNOだと思う。日米欧いずれも先進国は経済問題を抱えて疲弊している。例えば米国政府は、我が国よりも国債による政府の負債が小さいのだが、国債の金利は日本を大きく越える。負債の金利が高いと返済は苦痛だ。その他もろもろの経済的理由で米国はシェールガス開発を止めることはしないはずだ。
以下に述べる製造業のルネッサンスを謳歌するためには多少の不具合には目をつぶるだろうと思っている。地政学的に近く米国と状況が似ているカナダもシェールガス開発では米国に追随する動きを見せている、報道では、我が日本はカナダからシェールガスを輸入する商談を進めている。
では、米国の製造業ルネッサンスとはどんなものか見てみよう。米国ではシェールガス事業に対する先行投資が進むだろう。エネルギー投資に注入されるネットマネーはGDPを押しあげる。事業計画に基づき投資金はシェールガスの精製などプロセス施設に宛てられ、労働者が雇われて雇用が増す。人々は安定した職を得て消費を増やすだろう。中長期的には米国はエネルギーの純輸出国になり覇権国になる。覇権とは取引などで相手国に対して上位のポジションが取れる状態だ。中東から石油を輸入していた米国は180度立場を変え輸出国になる。中東と深く係ってきた米国は従ってこの面で変わって行くだろう。
メタノックス社はチリ国にいくつかの工場を操業しているが、その第2工場を移転すると公表している。メタノールを海外で量産するメリットはなくなった。従って第2工場は解体され建材をルイジアナ州バトンルージュ港に陸揚げすべく船で運ぶのだ。同州に同じ建材で工場を組み立てて、2014年までに操業を再開すると報じられている(参考資料2)。同社はフラットTVのパネルや化学繊維の原料を量産する。もちろん、チリで操業するよりもコスト的に長期で圧倒的に有利と見たのだ。産経新聞9月22日号によればルイジアナ州に立地する信越化学の米子会社も5億ドルを投資し生産量を拡大する。
半導体製造においても米国はリードを保つ姿勢を見せている。エネルギー価格が圧倒的に下がるので米国のポジションは今よりも更に強化されよう。IHSグローバル社の2012年半導体売上ランキングでもわかるが10位以内にインテル、クアルコム、TI、ブロードコムそして、マイクロンなど米国メーカーが5社入っている。その上、次世代の量産スキームである450mmウェーハの実用化プログラムであるG450C、(Global 450 Consortium)を主導している。かつて、日本企業がランキングでNEC、東芝、日立など、トップ10の中で6社を占めた1986年のような状況が、米国に再現するかもしれない。
参考資料
1. シェールガス革命で利益を得るニッポン企業は多い〜IT/半導体分野も追い風 (2013/07/08)
2. Methanex moving 2nd plant from Chile to Louisiana (2013/04/26)