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シェールガス革命で利益を得るニッポン企業は多い〜IT/半導体分野も追い風

シェールガス革命の波が世界の経済、政治、社会を変えようとしている。1kW/時あたりのコスト6円という驚異的な低価格エネルギーのシェールガスは、石炭、石油といった化石燃料が枯れていくという状況下で登場し、瞬く間に世界の次世代エネルギーの主役の座に就こうとしている。埋蔵量は既存の天然ガスと合わせ400年以上と言われており、原子力のようなリスクは全くなく、ちなみにCO2排出量も石炭・石油に比べて非常に少ない。

何よりも重要なことは、アメリカがこのシェールガスの採取に関する知的財産権を固め、どこの国よりも早く技術を確立し、あらゆるインフラが有利に作用していることでほぼ独占状態にあることなのだ。世界で最も安いエネルギーを手に入れたアメリカは、当然のことながら製造業復活を高らかに打ち出した。シェールガスは、プラスチック、自動車材料、繊維、電子材料の元になる素材の原料にもなるわけであり、石油由来に対し、20分の1のコストで作れてしまう。このことで、アメリカはぶっちぎり最強国に復帰することは間違いない。

日本経済に与える正のインパクトも限りなく大きい。シェールガスは一種の天然ガスであるが、このプラント技術は日本勢が最先行しており、日揮、千代田化工建設、東洋エンジニアリングなどが圧倒的なシェアを持つ。シェールガスを詰め込む圧力容器には炭素繊維が採用されるが、この分野は東レ、帝人、三菱レイヨンで世界シェアの約70%を押さえている。

シェールガスの登場が加速の要因となるのが、航空機産業であり、ここ数十年のうちには現在の最大産業の自動車と同規模の300兆円マーケットを確立していくだろう。ボーイング787は少しくトラブルがあったものの、この後850機以上を作ると言われており、1機200億円と計算しても、実に17兆円の売上になる。787の重要素材、必要部品のうち、3〜4割は日本企業に発注されるとみられ、これだけで5〜6兆円のマネーが我が国に落ちるのだ(編集室注1)。ちなみに半導体産業新聞によれば、花形とされた日本の半導体メーカーの生産額は、現状で4兆円を切るところまで縮小してしまった。まさに産業構造の変化の潮目がシェールガスによってもたらされている。

鉄道ビジネスもシェールガスの普及拡大による燃料費低下による影響で加速する。この分野は新幹線を擁する日本のお家芸だ。日立は、イギリス高速鉄道500両の受注に成功したが、これは総事業費5000億円の大プロジェクトだ。もちろん日立の得意とするIGBTをはじめとするパワー半導体が大活躍するのだ。ワシントン―ニューヨーク間の高速鉄道整備計画にはJR東海が進めている超電導リニアモーターカーの技術提供が検討されている。オリンピックやW杯を予定しているブラジルでも初の高速鉄道が走ろうとしている。総事業費2兆円というこの大型プロジェクトには、三井物産を中心に、日立、東芝、三菱重工業、JRが手を結んだ連合軍が入札を予定している。車両のドア開閉装置も日本勢が段違いの技術力を持ち、新幹線向けで絶対的有利を持つのがナブテスコだ。ブレーキを掛けるときにエネルギーを蓄えて再び電力に使う回生システムも日本が断トツに強く、卓越した技術を持つのは明電舎だ。

シェールガスからは高純度の大量のメタノールが取れることがわかっている。メタノールは水素の原料となるものであり、水素エネルギーを駆使する燃料電池車には多くの追い風が吹く(編集室注2)。この分野はトヨタ、ホンダなどがぶっちぎりの技術を持っており、世界に大きな差をつけている。ちなみに、燃料電池で世界最高の技術を持ち、発電効率35%を達成し、家庭向けで最先頭を行くのがパナソニックなのだ。

自動車の排ガス分析器で世界シェアトップの堀場製作所は、半導体関連企業としても高い実績を上げてきたが、アメリカ企業から石油や天然ガス化学プラントなどの生産プロセスの計測設備の事業部門を買収した。シェールガス向けの分析器を強化するためだ。また、半導体の表面を平坦化する装置で世界シェア35%を持つ荏原製作所は、LNG基地で使用されるコンプレッサの出荷を大幅に拡大していく考えだ。

日本が培ってきた半導体技術、省エネ技術、素材技術が米国発のシェールガス革命に今後大きく貢献していくことは間違いないのだ。

編集室注1) この計算はあくまでも航空機を設計製造する金額であり、化石燃料の一種であるシェールガスは出来上がった航空機に使われる可能性のあるジェット燃料となる。次のパラグラフも同様、鉄道事業そのものの製造金額についての議論である。JX日鉱日石エネルギーのホームページによると、ジェット燃料の国内需要は、現時点で石油全体1億7203万klに対して516万klしかない。ガソリンの1/10以下である。
編集室注2) メタノールは、パソコンやモバイル機器で使われる燃料電池の水素発生燃料であるが、燃料電池自動車用にはメタノールは使われていない。水素は、むしろ高温下で化石燃料に水蒸気との還元反応や、水の電気分解などによって発生させている。水素ボンベをクルマに搭載する。

産業タイムズ株式会社 代表取締役社長 泉谷 渉
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