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世界をリードする新製品をどう輩出するか?

ウォークマンやウォシュレットそしてFlash Memoryは、世界をリードしたわが国の製品である。だが以降、ずっと最近まで日本発の世界的な独創的な商品は出ていないとの指摘がある。2012年は、期待が高い電機業界においてシャープなどの経営問題が浮上した。一方、IT関連では検索技術やSNS、タブレット、スマホに向けたアンドロイドOS、iPadなど、相変わらず米国のリードが大きい。新製品や技術開発の活気がわが国から失われているとの危惧を抱かずにはいられない。

世界最大の消費市場は米国だが、IFI CLAIMS®社が示す米国特許の2012年の登録ランキングは、1位IBM社で6,478件、2位三星で5,081件そして3位がキャノンの3174件だ。トップ50社の中では米国籍の会社が16社そして日本国籍の会社は19社で韓国は5社の順になっている。このことからわかるが、日本は米国市場での特許取得企業数は世界一と悪くはない。2012年のみならず2002年でも同様であった(参考資料1)。日本は米国市場で1~2位と健闘して来たが、この10年間、世界をリードしたわが国の新製品、即ちホームランは出て来ることはなかった。

電子版、SankeiBiz2013.7.26は、産業革新機構が「知財ファンド」を設立した、と報じた。知財ファンドは国内のベンチャー企業を支援するのが目的だ。わが国の各界が保有する休眠特許を所有する団体や個人からファンドは重要なものを選んで買い上げ所有する。そして特許の利用を希望する国内のベンチャー企業などに安価に使用することを認める制度を確立する狙いだ。休眠特許は有効に活用されれば技術の海外流出を防ぐこともできる、との狙いがある。スタート時のファンドの資金は30億円、90%以上は産業革新機構が拠出するが、他にパナソニックと三井物産が残りの資金を拠出した。もちろん、休眠特許といえども公開されるので、海外の企業が知ることは容易だ。このため、わが国の有力な休眠特許が海外勢に買い漁られることも珍しくない。新設された知財ファンドはそのような特許を、外国に先んじて実用化したいと願う国内のベンチャーなどに有利なように考えられた戦略的な仕掛けだ。

我々は、次の事例を学ばなくてはならない。英字紙Japan News 7月29日によると2004年、ある国内のトップ企業がOLEDディスプレイの開発と生産事業から撤退して、持っていた特許やノウハウを韓国企業に85億円で売却した。買った方の企業は更に開発を進め大型のOLEDディスプレイを実用化して成果を今年発表している。発表されたOLEDディスプレイは緩やかに湾曲した大型のデザインで大変に見やすく楽しめそうだ。もちろん当時、知財ファンドはなかったのだが、仮に知財ファンドの創立が間に合っていて韓国企業でなく、わが国のベンチャーが有利な契約で同じ特許やノウハウをファンド経由で手に入れていたら、この湾曲大型OLEDディスプレイは日本企業が実用化し、韓国を含む世界中に売りまくることになったと思う。そして、輸出がその分伸びて外貨の蓄積に貢献したはずだ。知財ファンドの狙いは、この例に見るように休眠特許を生かして国内のベンチャーを活性化することにある。ちなみに知財ファンドを立ち上げた産業革新機構は、2009年に政府が設立した株式会社であり資産約900億円、資本金460億強の組織だ。

新技術を開発し実用化するベンチャー事業の振興の重要性は言うまでもないのだが、わが国において、最近の成果が乏しいことから多いに問題があると思う。日本のベンチャー企業数は、経団連のベンチャー企業会員一覧では約7,700社とされる。この数をどう評価したらよいのだろうか。社団法人日本半導体ベンチャー協会はそのホームページで法人会員数を43社としている。

米国ではベンチャー協会などなく、したがって統計もない。あるのは、ベンチャーキャピタルであって、これは投資するサイド、即ち投資銀行の一種だ。ベンチャーキャピタルが2010年に投資した会社の数の統計数は、National Venture Capital AssociationのFAQページによると2,749社だ。これ等は投資銀行からお金(資本金)を得て事業を始める会社の延べ数だ。仮にスタートから10年で成否の結論が出るとすると、10年間に、27,490社が参戦することになる。人口2.5倍の米国と比べて日本のベンチャー企業数の上記、7,700社はそれほど少ないとはいえない。

米国のベンチャーキャピタルは、ビジネスのプロ集団であり、有力な小企業を自分の力で探し出す。ビジネスプランを出してもらいプレゼンテーションで議論を尽くす。結果が良さそうな会社と契約を交わし投資金を入れて株主になる。この段階の株価は単なる「紙切れ」であって高くない。ビジネスプランに従い、有力なベンチャー企業は開発などを進めて、ある時点でIPOを実施するのが典型だ。IPO(Initial Public Offering)では、ナスダック(NASDAQ=National Association of Securities Dealers Automated Quotations)などの株式市場に上場する。ここは、立会場がなく、ITネットワークを利用して株を売買する「店頭銘柄気配自動通報システム」で運用する形式だ。上場が成功して高い株価がつくと、初期の株価は10倍以上になることもある。ベンチャーキャピタルはこのようなギャンブルをプロとして厭わずに営業する。わが国ではこのようなビジネス慣行はあり得ない。わが国では実績ゼロで名もない小さな新しい会社は、投資銀行で門前払いにされてしまいオフィスの中に入れない、ましてや面会等は不可能に近い。「石橋を叩いて渡らない」のが立派な日本の投資家の考え方でリスクは全く採らない。投資してもらえる機会の少ない日本のベンチャー企業をとりまく環境は大変に厳しい。

最近、日本の電子部品産業の投資意欲が強いという記事がセミコンポータルに掲載された(参考資料2)。新ファンドが事態を打開できるのか?見守って行きたい。 

エイデム 代表取締役 大和田 敦之

参考資料
1. Patenting Trends Calendar Year 2012, U.S. Patent and Trademark Office
2. 電機産業の低迷下で電子部品の設備投資一気増大〜モバイル端末好調を背景に (2013/09/05)

(2013/09/12)
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