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期待される有機ELテレビの実用化

本年6月22日付の日本経済新聞電子版によるとソニーとパナソニックが有機EL(エレクトロルミネッセント)パネル技術で提携することになった。ELは液晶画像に比べて高精細で低消費電力のパネル技術を目指し、将来は量産も視野に入るものと期待する。ソニーは既に台湾のLCDパネルメーカー友達光電と提携しているので、日台協力のもと台湾で有機ELパネルの量産もあり得る。

我が国の電機大手はこの2社に加えて日立製作所、東芝、富士通、三菱電機、NECそしてシャープと計8社も存在し、テレビ事業だけではなく総合的にさまざまな電気製品・部品に関して互いに熾烈な競争を広げている。ただ、半導体事業においては日立、三菱、NECが合併してルネサスエレクトロニクスとして協業している。ソニーとパナソニックの有機ELパネルにおける連携は半導体に続く大がかりな提携に発展するのだろうか?現時点ではその将来を予測できない。

ソニーとパナソニックがここまで深く互いに踏み込む背景には韓国サムソンの存在が見える。連携の背景にある要因は以下のような事情があると筆者は見る。両社は、今年三月の決算(2011年度)で赤字になってしまった。一方、競合であるサムソン電子とLGの韓国勢がTVの製造販売において力をつけてきたのも事実だ。サムソンは絶好調で今年の4-6月の四半期ベースでは過去最高益(円換算で4,690億円)をあげた。ソニーとパナソニックは韓国勢などに対してTVで勝てる新たな製品を迅速に開発することを考えているのだろうか?

まず有機ELディスプレイパネルについて理解を深めて見たい。TVへの応用を考慮してパッシブではなくアクティブマトリックス型の有機ELディスプレイパネルについて述べてみよう。ピクセル(画素)は発光素子から成る。そして発光は、電子を伝導帯にかつ正孔を価電子帯に注入し、両者の量子力学的な再結合によって起きる。有機発光層を形成する化合物素材は、ガリウムリン等の無機化合物ではなく炭素を含む有機化合物を使うのが有機ELディスプレイパネルの特徴だ。有機ELディスプレイはLCDに比べ、輝度、効率、DC駆動、カラー特性などの面で優れているとされる。輝度が高いのは自己発光をするためでLCDとは異なりバックライトは不要だ。その上、LCDディスプレイの最大の欠陥である視野角問題がない。ただ、耐久性についてはこれからの改良が必要とされる。

ELのピクセルは電子注入のための金属カソード膜、発光層、正孔注入輸送層、ITOアノード電極の積層構造を持つ。これらの層をガラス基板上にITOを下にして積層するとITO電極は透明なのでガラス基板を通じてEL発光を通過させることができる。ディスプレイパネルにおいては走査が必要なので一つのピクセルは図のような回路(図はWikipediaから引用)で構成されている。このピクセルをマトリクス状に並べる。レイアウトではTV信号を送る縦の信号線2、走査するために横に送る走査線1が走る。信号線2から信号を引出すスイッチTFT4を設け走査線からの信号をTFT4のゲートに入力する。別に画素に直結するドライブ用のTFT5を設け、発光用EL素子6に電力を電力線3から供給する。EL発光素子6の一端は接地されている。


図 ELピクセル回路の代表例 出典:Wikipedia

図 ELピクセル回路の代表例 出典:Wikipedia


セルの加工にはLSIプロセスを応用することになるだろう。試作品では300 ppiの解像度が十分に可能とされる。このppiは1インチ長当たりのピクセル数を意味するが簡単のためにやや少ない254 ppiで計算するとセルのサイズは100μmである。今の実力でも、10μmのセルサイズなら加工は容易であろう。その2,540 ppiという線密度ならTVパネル応用上は十分と考えられ、開発上の加工の難しさは少ないと考えてよいだろう。

さて有機ELの先駆者は誰だろうか?初めての本格的な論文は、1987年7月、米国のJournal of Applied Physics Letters誌に掲載された。著者は、TangとVan Slykeの二人で、当時は全盛だったコダック社の研究員だった。コダック社の破綻については、筆者も以前、セミコンポータルに原稿を書いている(参考資料1)。JAPLの論文を読むとELの発光素材は厚さ750オングストロームの芳香族ジアミンなどをITOとMg-Ag合金で挟んだ構造だったが、論文は鮮やかなグリーン光を放ったと述べた。

ELテレビの利用シーンはどのようになるだろうか。NECが2012年夏モデルとして発表したバリュースターWパソコンで考えてみよう。この機種はPCながらTVチューナを3基も搭載している。それでTVを見ながら放送画面の隅にツィッタの小画面を表示できる設計になっている。これで家族が甲子園野球を観ながらその場面に興奮してツィッタも楽しんでいる状況を想像してみる。この際、母がそばで見ている長男に頼んでツィッタに飛び入りをして何かをつぶやく。ただ通常の一人ツィッタと、異なるのは周りの皆が一斉にツィッタ読めてしまうのでさらに盛り上がる。そうすると、別な所で観戦していた、どこかの高校生の母親が同じように普段はやらないツィッタに飛入りをしてつぶやき返す。このように家族が集まる甲子園の場面などはバリュースターWがあればファミリツイッタが自然発生的に行われるだろう。ぐるっとTVのまわりを囲んで大勢が集まる。TVの視野角が良くないとみんなが楽しめない。有機ELのTVなら問題ないはずだ。

PC側からスマートTVにアプローチすると上記のような光景が想像できる。一方、TV側からアプローチするとどうなるか?KDDIは既存のTVにCATV端末をドッキングさせてCATV事業者経由でBS、CS、地上波につながせTVを見せる一方で、同じ事業者がインターネット経由で映画や動画のコンテンツを見る仕掛けを提案している。もちろん、ツィッタも可能だ。こうしてスマートTVが市場に投入される機運が盛り上がって来た。有機ELディスプレイ画面の早期の低価格化と実用化が待たれる。

参考資料
1. イーストマン・コダックの敗北を反面教師として考える (2012/02/14)

エイデム代表取締役 大和田 敦之

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