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スマートグリッドを電力復興の強力な主役に

今年3月の大地震がなければスマートグリッドに対する関心が日本で高まることはなかったろう。以前、電力事情は至極安定していたし品質も申分なく高信頼を誇っていた。供給能力も十二分ではなかったが問題は少なかった。電気事業連合会の震災前のデータが示すように停電の累積時間は、わが国が世界一少なく、年間19時間しかなかった。2位フランスは51時間、3位英国は88時間だった。

このためスマートグリッドはこの高信頼電力網に対して何をしてくれるのか?との疑問には説得力ある答はあまりなかった(編集室注)。スマートグリッドを導入するメリットが感じられない以上、導入への意欲が盛り上がることは少なかった。

しかし、今や東日本大震災によって情勢は一変した。今年は停電が既に頻発している上に、計画停電なども停電に数えるべきで、所によっては既に停電時間は100時間を越えているだろう。LED懐中電灯が一時は売れに売れて品薄になって買えなくなった人も出た。今後も市民が停電に悩む生活は避けられない情勢である。東京電力など電力会社からの供給は需要に対してマイナスだ。このため、政府は電気事業法を根拠に15%の節電を呼びかけている。未達の企業には罰金が課せられる厳しいものだ。

スマートグリッドに関してはセミコンポータルに優れた解説があるので参照して戴きたい(参考資料1)。スマートグリッドなる用語はオバマ政権になって米国で脚光を浴び注目されるようなったが、イタリア等では以前から自動遠隔検針メーターが設置されている。日本はどうするか?日本固有の状況を十分に考慮して日本型のスマートグリッドを作り上げるのがよいと思う。

経済産業省東北経済産業局は昨年7月、スマートグリッド研究会を立ち上げた。これは東北経済産業局がグリッドを研究するものだが、その26テーマは下記に一部示すように東北で有効のみならず他の地域でも有効になりそうだ。

 送電系統地域監視制御システム
 系統用蓄電池最適制御
 配電用蓄電池最適制御
 配電自動化システム   … 他22項目

デジタルネットワークに載せて電力使用データを流せばリアルタイムで状況を把握することが容易になる。そのようなニーズは家庭を含むユーザー、電気代を請求する立場の電力会社などで感じられるようになった。電力会社は供給責任があり管内のみならず他の電力会社ともこのようなデータの情報交換を行い電力を融通しやすくすることがスマートグリッドによって容易になる。スマートメータ等を含むシステムは東京電力が使用するものと他の電力会社が導入し使用するものが同じで互換性ならびに相互接続性を持たせるのが望ましい。国内統一の広域グリッドにするのだ。そうすれば量産効果に基づいてスマートメータや部品など低価格になり、利用活用の研究に競争が加わりグリッドはより良いシステムになるだろう。グリッドのデータ通信に際してのプロトコルの一貫性も保たれる。上述のスマートグリッド研究会の成果は全国で使えるようにし、研究会自体も全国版に拡大してよいのではないか?スマートグリッドの基に全国の電力供給の一元化を目指すことは60Hzと50Hzの存在があって難しいが、少なくとも二元化を目指すことはできると思う。

将来は、送電・発電事業を分離して交通網における国道のように国が送電事業を行うことの是非が問われよう。この時は当然、現在の電気事業法は改訂することになる。そうなるとユーザーは発電代金を払い、かつ送電代金を加えて支払うことになる。国道は無料で通行できるが、それは国道に税金が投下されているためである。

個人の使用電力データは個人情報として、漏洩が起きる恐れが出てくるため注意が必要だ。ただ、個人データの集積である電力消費の総和を得る上では個々のデータは使えるようにしなくてはならない。

今夏の緊急節電対策における15%の節電は強制であるが、幸い半導体のウェーハファブには適用されない。もちろん、この処置は絶対に必要であって、これがないと半導体の生産は全面ストップしてしまう。役所はこのことは理解してくれている。ただ、強制節電から免れ得ない中小の町工場などの生産現場が節電で生産が最大15%減る事態はおおいに厳しい。内閣府が発表するGDPに占める製造業の貢献は20.8%にも及ぶ。よって、20.8%の15%即ち、3.12%のマイナスがGDPに発生する。ただし、沖縄や北海道などは15%節電が強制されないのでこの数値はいくらか減るのだが..... 。

8月8日財務省は、本年1-6月期の国際収支速報を発表したが、それによると海外との取引、投資の情況を示す国の経常収支は前年同期比マイナス36%の減少であった。特にその内の貿易収支は震災の影響を大きく受け1985年以降で半期最大の落込みを示した。停電に加えてサプライチェーンの寸断被害や円高も影響したのだろうが、ひどい状態だ。

現在は電力会社が地域独占体制を敷いている。500 kVAを越えるユーザーを除いて大多数の消費者は地域にあるその会社と契約している状況で、その1社である東電が機能不全に陥った。このようなことを避けるべくスマートグリッドのもとに、地域独占体制を緩やかに解消する選択が採られるとよいと筆者は思う。上記で述べた現行の500 kVA規制をもっと緩和し、例えば閾値を300 kVAに落とし次は、100 kVAそして50 kVAへと進めて行くのがよい。

賠償金の支払例を見ればわかるが、独占体制は仕事が遅い。東京電力は政府の原子力損害賠償審査会の中間指針決定を受けて原発事故補償の支払額算定基準などの詳細を8月下旬に発表する予定だが、被災者が実際にお金を受け取るのは10月中になると発表している。3月に被災した時点で損害が発生し苦悩している被災者は10月まで待つのだが、7カ月を越えて待たせるサイドの神経がわからない。

さて、8月14日の讀賣新聞は紙面トップで、新しいエネルギー技術開発計画を伝えた。これによると、経済産業省産業構造審議会の研究開発小委員会が、東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所の事故、経済の停滞などで厳しい状況にある国内産業を活性化するため、新エネルギー技術の開発と少子高齢化対策に特化した大型国家プロジェクトの創設を柱とする提言をまとめた。大容量の次世代蓄電池や電力利用の効率化など新技術の開発を目標に20〜30年後の事業化を目指す、異例の長期プロジェクトだ、とする。経産省は提言を受け、来年度予算の概算要求にプロジェクトの関連予算を盛り込む方針のようだ。電力次世代グリッドと関連させてこの大型国家プロジェクトが進むことを期待したい。

現下の電力危機を踏まえ、多勢の人々が電力事情に興味を抱いたはずだ。この関心を高めてスマートグリッドが前進することを願う。

エイデム 代表取締役 大和田 敦之


編集室注) スマートグリッドは、再生可能エネルギーが大量に導入された場合にどう制御するか、という課題に対する答えであり、今の電力システムをどうするか、ということではない。当初は概念を誤解していた向きが多かった

参考資料
1. 見えてきたデジタルグリッドも概念、新しい特許システムへの提案も (2010/06/04)

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