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活力にあふれるIT主導の内需産業を探せ

わが国は活力にあふれる「IT主導の内需産業」を探し、かつ広める必要がある。理由は明快で昨今の円高の終わりが見えないからである。いつまでも円安を待つわけには行かない。わが国のGDPは1990年代以降、失われた15年などと言われ、おおむね成長が止まっている。国民は少しずつ貧しくなって来ている。新しいビジネスのシーズを展開して成長軌道に乗るべきである。

讀売新聞英字紙10月25日の記事によると、トヨタ自動車豊田社長は10月18日の会見で「理論上、円高ゆえにトヨタは全くコスト競争力を欠いている.....」、と述べたが、1米ドルが80円に近づく状況では輸出市場を戦えない。海外市場を失っては生存できない輸出志向の製造業は、今後は国内工場をたたんで海外移転を進めざるを得ない事態だ。過去にもこのような海外シフトはあったが、国内工場の現場従業員は職を失い経済成長にはマイナスに作用する。今の日本はそれらの過去の結果の集積なのだ。

海外工場が得た利益は現地で課税され、日本の税収はその分だけ減少する上にGDPにもあまり寄与しない。課税後の利益は現地での投資に回さないと競争力が維持できないだろう。したがって外国で投資が行われる。その残りが日本に還流されるのにすぎないので円安下の国内工場で競争力を持ちながら輸出で稼げた時代とは雲泥の差になる。日本は経済的に発展しプラス成長を遂げる方策を探し当てて実施しないと、じり貧と後退に次ぐ後退に沈んでしまうであろう。このようなことは避けなくてはならない。この事態において新しい需要分野として「脱製造業」も視野にいれる必要が出てくる。

なぜIT主導か。IT産業は半導体を大量に使用してくれる顧客であることばかりでなく、製造業も含めあらゆるビジネスの生産性を上げる上でITが最も効果的であることがわかっているからだ。内閣府統計では、ITに最も近い電気機械と通信業の和を取り1998年から2007年までの10年間での成長率を見るとその和の成長は117%(10年で2倍強)になったがGDPの伸びは14%に留まった。その上、IT業界は2008年の金融危機から脱して最近はプラス成長を達成していると言われている。では具体的には、IT主導の内需産業をどう進めるのか?都市を中心にITで再武装しエコロジーを達成する、いわゆるスマートコミュニティが解の一つになると考える。スマートコミュニティにおいては原子力プラス再生可能エネルギーが多用され、化石燃料の使用は徐々に減らされるものと考えている。ITを活用して健康で豊かな低炭素社会を作り上げるのだ。

再生可能エネルギーは、主として電気エネルギーでありその電力エネルギーは直流を電池に蓄えるのが便利だ。太陽光、太陽熱並びに風力などであってアウトプットは激しく変動する。今の家庭やオフィス、工場そして大多数の電力のユースポイントでは交流が便利だ。特に日本においては停電がない超安定な交流の世界だ。例えば太陽光は雲などの影響で強さが刻々変わる。アウトプットも変動する故に一度蓄電して再び安定な交流を作り出す必要がある。不安定なアウトプットは風力も同じだ。

再生可能エネルギーを現行の交流電力グリッドに接続するためには、蓄電と、変動しない安定な交流に変換する必要がある。そのために電池に加えてインバータを中心とした半導体を多用する直交変換機器と充電器が多用されなくてはならない。1980年代、蓄電池の大きなニーズの出現を予言した東芝の大先輩であった川西剛さんは当時から21世紀の蓄電池の重要性を説いていたが、大きな先見の明があった。再生可能エネルギーを採り入れるスマートコミュニティ時代の家庭、オフィス、工場は身近にさらに多数の蓄電池を備えることになるだろう。

報道などによれば経済産業省は、トヨタ、東京電力、パナソニック、東芝、他には日本IBM、日本GEなどの外資を含む478社が参加する「スマートコミュニティ・アライアンス」を発足させた。本年4月6日のことだ。今後は官民が協力してこのアライアンスはスマートコミュニティを構築するために種々検討し情報を発信するようにするのだろう。

スマートコミュニティでは、電力網のみならず種々のインフラストラクチャをITで制御するべきだ。飲料水などにもITがさらに深く関わるだろう。わが国民は水に関しては世界で最も恵まれている。国連が2000年に発表した統計では世界には安全な飲み水が不足している人が10億人はいるとしている。中国やケニアの1人当たりの水消費量は平均で日本の1割程度と言われる。日本の自治体は水道システムの管理に多大な努力を払っている。まわりが静かになる深夜に音聴棒(おんちょうぼう)を使って漏水が発生する微かな音を聴いて漏水個所を特定し昼間に修理する。この繰り返しでわが東京の水道は漏水率が3.6%とされる。これは世界で断然トップの低い値である。対するロンドンが27%、香港やソウルも20%を越えていてロサンゼルスが9%だ。

筆者が思うに今の水道の問題は、自動化が遅れている状況にある。音聴棒で深夜必死に耳を澄まして歩き回るなどはハイテク文明国の自治体の職員がする仕事ではない。未経験の若者やアルバイト職員にさせることもできない。長い経験を必要とする辛い熟練作業である。早急に電子化して自動化すればITネットワークの力を使いリアルタイムで漏水検知が自動的に行われ修理が素早く行なわれる、という時代が来るだろう。このブログで書いたが電気グリッドにはスマートメーターがある(スマートグリッド、追いかける日本、2009年8月11日)。同じ発想で水道グリッドに水のスマートメーターを考えることが可能だと思う。水のスマートメーターとは水の使用料をリアルタイムでデジタル化しユースポイントやその他の必要な箇所に設置しデータを本部に集めて見える化すればスマートな水グリッドが実現する。

なにしろ「必要は発明の母」である。わが国の特許公報、公開公報にも漏水検知の電子化については種々の発明が多数ある。実用化は遠い将来のことではない。水のスマートメーターでは日本がこの面でリーダーシップを発揮しビジネスにおいて利益を上げるべきシーズになるはずだ。

スマートコミュニティではグリッドという言葉がよく使われる。グリッドは英語だが、格子もしくは碁盤目状のものを指す。水道網も電力網もグリッド状のネットワークを構成する。交通網もグリッドと考えてよいだろう。交通渋滞も Smarter Planet の重大なテーマになると、日本IBMでは考えているようだ。

筆者はこのブログで2009年6月にIBMに関して書いたが、ITが主導する内需産業については新しいビジネスモデルを探索する上で、IBMも同じ立場なのでその活動を参考にできる。IBM社は水資源管理のIT化というキャッチフレーズで次のような提案をしている。

河川管理を担当する国や自治体、さらにその水を利用する工場や企業から家庭まで、多岐にわたる利用者それぞれに必要な情報を取り出して分析し、最適な利用管理や課題の解決を可能にする。「水ビジネス」について、IBMは、スマートな水資源管理を目指す。スマートコミュニティを正しく推し進めれば、わが国のIT並びに半導体ビジネスはさらに成長すると期待している。   

エイデム 代表取締役 大和田 敦之
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