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変革を成し続けるIBM

現在のように変革の時代になってもこれまでのやり方を頑なに守る企業と、常に変革しながら成長する企業がある。変革している企業の代表例としてIBMを採り上げよう。IBMはInternational Business Machinesという名の通り、電動タイプライター等のビジネスオフィス向けの機械を製造する会社として、1896年(明治29年)にスタートした。日本に100%子会社を作ったのは第2次大戦前の昭和12年、大方の半導体パーソンが産まれる前であった。

1950年頃IBMはプログラム内蔵コンピュータを実用化し、コンピュータで科学技術計算や統計計算を行うことができるようにした。IBMは高級ソフトウェア言語FORTRANを開発し科学技術計算に供した。1960年代に入り米国は別の言語COBOLを開発したため企業はコボルで給料計算や経理計算に応用するようになった。

1964年にIBMは汎用コンピュータ(メインフレーム)であるシステム360を開発し販売を開始した。その時に気がついたのは半導体能動素子の重要性であった。メインフレーム用に高速で高信頼の素子は半導体以外には存在しないという見通しのもとにエサキダイオードにも注目した。エサキダイオードは1957年にソニーの前身であった東通工で江崎玲於奈博士が発明した負性抵抗素子だ。高速演算素子に適していると考えたIBMは江崎博士をスカウトした。一方、このころ半導体MOSに於ける各社の研究開発は成果を上げ続けた。

システム360は初めての本格的な汎用コンピュータであり、オペレーティングシステム(OS)も360の時に初めて登場した。360シリーズの大成功により、メインフレームでは後発であったIBMは、競合他社を圧倒することになる。当初360はディスクリートトランジスタを搭載した回路基板で構成したが、1960年代後半には更に優れたSLT(= solid logic technology)に変えた。SLTは個別トランジスタのフリップチップを使うハイブリッド技術であり銅のボールを介在させたバンプを通してチップを回路基板にフェースダウンで直付けする。IBMはSLTを量産してメインフレーム360に組込みメインフレーム全盛時代を築いた。SLTは当時半導体ハイブリッド技術の最先端を走った。日本からも筆者の上司など大勢が工場見学に訪れた。だがエサキダイオードが実際に使われることはなかった。

IBMのビジネスモデルはこのように1970年頃までは100%製造会社であった。オフィス向け事務機械を製造販売し、SLTを搭載したメインフレームを米国内で量産して世界中で売りまくった。

時代は進み1980年に入りパソコン(PC)の時代になる。1981年にPC事業に参入したIBMはマイクロソフトのOSとインテルのチップ80286を採用した。この頃になるとメインフレームの時代はすでに去っていた。1992年にIBMは特徴的な黒いデザインを誇るラップトップPCであるThinkPad (シンクパッド)を売出した。だが、IBMは10余年でPC事業から撤退してしまう。

IBMは2004年12月、同社の全パソコン事業を中国パソコン最大手のレノボ・グループ(聯想集団)におよそ1300億円で売却すると発表した。パソコンで当時世界第3位とトップでなかった故に、製造業だけのビジネスモデルを捨てたのだろう。この頃から「変革」が始まり本格化した。即ち、IBMは経営資源をサーバー、ソフト、サービスなど、業務系システムソリューション事業に集中させるようになる。最早、製造業ではなくなった。

但し上記のサービス業の外に例外的なビジネス、即ち半導体プロセス開発ビジネスを大きく進めている。半導体プロセス開発には相当に熱心なのだ。例えばチップの3Dスタッキングのための新技術を開発している。それは、2007年4月に発表したThrough-Silicon Via (TSV) と呼ぶ新技術だ。あろうことかチップの上に小さな孔を空け、そこに金属を満たすことで上下2つのチップをサンドイッチ状に挟んで直接接続させるというものだ。これにより、従来の2Dによるチップ配置とは異なり長い配線が必要なくなるため、パフォーマンスや省電力、サイズの面で大きなメリットになる、としている。ほかにシリコン・ゲルマニウム(SiGe)、銅配線、Low-K(低誘電体層間絶縁膜)など開発プログラムは多彩だ。

その上で最先端プロセスを果敢に攻めるには、開発リスクやコスト高を避けることが必要だが、そのためにCommon Platform (CP)と称するアライアンスを形成した。このアライアンスメンバーはシンガポールのチャータード・セミコンダクター、シリコンバレーのグローバル・ファンドリー、韓国の三星電子、インフィニオンテクノロジーズ、STマイクロエレクトロニクスであり、32nmノードの開発プログラムでは東芝やNECエレクトロニクスも参加している。この情報は、Semiconductor International誌が詳しく報じている(IBM Alliance Ready With 28 nm Eval Kits)。

IBMはこのオペレーションを何年も続けているので利益を計上していると考えられる。さもなければ、昨今のこの厳しい経済情勢で継続できないはずである。

このように見て来るとIBMが目指すのは変革でありトランスフォーメーションである。イノベーションだけに集中するのではなく、自分が変わる変革を目標にしていて相当程度に達成して来た、といえる。製造業は既に卒業したのである。IBMはサービス業をコアにプロセス開発組合のリーダーにもなった。強調したいのは日本にサービス業兼プロセス開発リーダーの大会社は存在しない。日本の大きな電気会社は昔も今も、多分10年後も製造業を続けるのではないだろうか?どちらが良いかの価値観は別として変革街道を驀進するIBMは今後とも注目に値する。


エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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