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前進するLED照明

半導体が社会のすみずみまで浸透して来た。数多くある例から、LEDに関して本稿では述べて見たい。最近、増えて来た新型信号機はLED方式でありクッキリとして見やすい。素敵なデザインで黒いバックグラウンドに点光源のLEDが光る。旧式は、大型の専用電球を内蔵し、白色光線が色つきガラス面全体でボーッと光るだけなので見映えにおいて相当の違いがある。

LED信号機の本来の意図は信号機の改革であり、その一つは省エネである、即ち電力消費が少ない。その二はメンテナンス費用が少ないことだ。専用電球は毎年交換する必要があり交換頻度が6〜8倍も高くコスト高であった。新型信号機の保守交換は6〜8年でよい。さらに新型信号機は疑似点灯現象が発生せず安全面でも格段に優れている。疑似点灯現象とは朝や夕べに、太陽を背にして信号機を見ると信号機が三色とも光って見える現象だ。旧型は太陽光が当たると3色のガラスが鏡のように反射するため、疑似点灯現象が起こる。そして当然ながらどの色が点灯しているか、判別し難く安全上の大きな問題だった。

青色ダイオードを発明した中村修二博士が1999年頃に広島県のローツェ社で行った講演で青色ダイオードの大きな応用は新型信号機であると述べた。但し、その青色ダイオードの発明で新型信号機が実現した、と一部で誤解されているが、実は信号機は緑色であって中村博士の青色ダイオードではないのでここに強調して記しておきたい。

07年に発足したLED照明推進協議会は、LED交通信号機による省エネ効果の試算を公開した。下記で信号機の機数は、警察庁交通規制課の平成18年3月末のデータを使用している。計算は、車両用、歩行者用とも信号機1台当たりの省エネ消費電力×24時間×365日×全国の信号機数の式により算出している。信号灯の赤、黄、緑のランプが同時に点灯することはなく、しかも常に1個だけが点灯しているので、ランプ1個が24時間稼働しているとみなすことができる。

車両用:58W×24時間×365日×112万機=56,905万kWh
歩行者用:48W×24時間×365日×87万機=36,582万kWh
合計では、93,487万kWh=9.35億kWh となった。

上記の省エネ電力は膨大である。標準家庭の年間電力使用量は、4,000kWhに過ぎないので、9.35億kWhとは標準24万家庭の電力が新しく生まれるのと等価である。即ち、一家族3人モデルを使えば、神奈川県相模原市の使用電力をほぼ賄えるほどだと言える。

LED照明の他の応用に関しても花が開いて成長の勢いを見せて来ている。リードエグジビションジャパン(株)は本年4月15日から3日間、東京ビッグサイトにて「第1回 次世代照明技術展」を開催した。主催者発表で初回から218社が展示し、16,395人が来場し、会場は熱気に包まれたのだ。

最初に実用レベルのLEDが開発されたのは1962年であった。米ゼネラルエレクトリック社(GE)の研究員ホロニャック(Nick Holonyak Jr)が発明者である。当時はバイポーラートランジスタの応用が始まりトランジスタが駆動するラジオ並びにテレビの普及に拍車がかかって来た頃だ。最初のLEDは、ガリウム燐系の半導体にて作られ主に赤色、赤橙色の発光が見られた。その原理は、大変にわかりやすい。pn接合を形成し少数担体である電子とホールを大量に注入し再結合させる際、量子力学的遷移が起こりバンドギャップ値に基づくフォトンが発せられる。波数をν、プランク定数をhそしてバンドギャップ値をEとすればアインシュタインの関係式に依って、

E = hν.......... (1)

で表わされるので、バンドギャップEを変えれば波数が変わり色が変わる。したがって、青色発光ダイオードを作るには青色が出るような広いバンドギャップの半導体を探せば可能になる。それは例えば窒化ガリウムを使えば良いことはわかっていた。良質な窒化ガリウムの単結晶を作製するのは難しかったが、世界を出し抜き最初に青色ダイオードを作った科学者が徳島県の研究者中村修二だった。ホロニャックはLEDが白熱電球を駆逐すると発言していた、と言われる。一方、中村修二は青色LEDが交通信号機に使われると述べていたのである。

日本経済新聞は08年4月6日版で、「白熱電球は12年廃止 甘利経産相(当時)が表明」と報じた。記事を要約すると、政府は電力消費が多い白熱電球を2012年までに国内での製造・販売を中止せる方針を正式に発表したのだ。この流れは、拡大しつつあり第1回 次世代照明技術展でも家庭に使われるLED照明に関する展示が多く見られた。

讀賣新聞も興味ある記事を書いた。本年3月11日朝刊で、「LED照明、実はお得」と言う記事だ。そのエッセンスは見出しによると「寿命が白熱電球の40倍、電気代は年間85%節約」、というものだ。記事の中で東芝ライテック社の計算例を開示した。4.3WのLED照明と36Wの電球を4万時間使用の条件で比較した。それぞれの購入費も含めたTotal Cost of Ownershipを考えた計算結果で、LED照明が、24,116円お得としている。

以上、交通信号機と家庭の照明においてLED照明の進展を述べたが、実はやや遅れてはいるが鉄道にもLED照明が使われている。わが国は鉄道王国でもあり全線の信号機が、LED化するのを妨げる要因はない。よってLED照明の前途は洋々としたものであると言える。


エイデム 代表取締役 大和田 敦之

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