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ユーザーエクスペリエンスが商品価値を決定する(1)〜Windows 8の例

最近UX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉を目にすることが多い。なぜこの言葉が従来のUI(ユーザーインターフェース)に取って代わろうとしているのだろうか?

WikipediaではUXデザインが次のように定義されている。「User experience designとはデジタル機器/システムに対するユーザーの見方に影響を与えるようなアーキテクチャやインタラクションモデルの生成に関する手法である。『製品とユーザーのインタラクションのあらゆる面、すなわちどのように気づかれ、学ばれ、使われるのか』をその適用範囲とする」。従来の使い易さ中心のUI(ユーザーインターフェース)より広い考え方である。

 筆者はUXデザインが製品・サービスに大きな影響を与えた事例としてマイクロソフト社のWindows 8を採り上げてみたい。ここでは新バージョンが引き起こしたユーザーの理解度や経験の混乱をUXの重要さの例として示していく。

Windows 8は、従来のWindows 7が踏襲してきたキーボードとマウスによるUIに加え、指で操作するタッチUIも実現した新しいOS(Operating System)である。このOSは従来のWindowsユーザーにタッチUIという新しいUX(経験)を提供した。

別の言い方をすれば、従来の伝統的なWindows PCにタブレットやスマートフォンのタッチUIを付け加えて統合したものである。Windows 8はPCとタブレットの両方の使い方をカバーする意欲的なOSである。タッチUIでPCを使いたいユーザーは、この新しいタイル・インターフェース(マイクロソフト社の命名)を学べばよい。タブレットやスマホが普及している現代ではWindows 8のタッチUIに習熟するのはさほど難しい話ではない。

一方ハードとしてのPCを新しく購入したユーザーは、遂行する仕事に対するこれまでのWindowsの経験をそのまま尊重してもらえばよい。Windowsのバージョンアップはそのように行われてきた。それがユーザーのWindows経験であった。ところがこのWindows 8では立ち上がると図1のようなタイル・インターフェースの画面がまず現れる。この新しい体験はこれらPCのユーザーには全く不要で、直接に図2の画面が現れてほしい。これが彼らの経験したWindowsだからである。


図1 Windows 8のタイル・インターフェース画面

図1 Windows 8のタイル・インターフェース画面

図2 従来のWindows初期画面

図2 従来のWindows初期画面


ポインティングデバイスとして指とマウスを一つのソフトで実行する場合、二つの画面を同時には提示できないので、タイル・インターフェースをまず表示したのがWindows8であった。Windows8は従来通りPCの新製品に組み込まれて発売された。ユーザーは否応なくこの二つの画面(従来型PCとタッチ型PC)に対処しなくてはならない。Windowsユーザーには経験したことのない状況であり、仕事でPCを使うには不必要な経験を押し付けられる感覚である。問題はユーザーが体験したい状況に素早く到達させることである。発売後の不満の多くが「ホームボタンがない」というものであった。ホームボタンはまさにこれまでのWindowsのUIの起点であったからである。マイクロソフト社は、これら声に抗しきれずWindows8.1で改善を約束している。

TechCrunch Japanに6月16日の記事で「時代はWindows 8.xなのにWindows 7マシンが絶好調、Intelは売り上げ予測を上方修正」という記事が掲載されている。Windows 7のシェアが急増して50%のラインを超えたと報じている。これまでWindows XPを多数保有している企業は8.xよりもWindows 7を選んでいる。まさにWindowsの経験を大切にしてUXデザインに従った選択といえる。

マイクロソフト社はPCのWindows UIとタブレットのタッチUIの統合を性急に行ったため、これまでの膨大なユーザーが慣れ親しんだWindowsのUXの優先度を下げてしまいユーザーから不満の声が噴出してしまった。製品・サービスのUIがいくら優れていてもUXが伴わなければユーザーはついてこないことをこの事例は示している。

次回はアップル社のUX戦略について採り上げる予定である。

Agile Tech技術本部長 河田 勉
(2014/06/24)
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