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先行投資とムダ

新政権になって行政刷新会議の「事業仕分け」のドタバタを見ながら、わが国の持っている宿痾(しゅくあ)のようなものを感じた。本来はトップが方針を明確に示して、担当者の事業仕分け人が実務を行うべきであるが、国全体の方針が明確になる前に作業が始まっている。産業、防衛、教育、医療、先端研究など国としての政策が決っていないことをよいことに虎の威を借る狐が我がもの顔に跋扈(ばっこ)する。ノーベル賞受賞者の野依良治氏がスーパコンピュータの予算カットに対し「歴史の法廷に立つ覚悟あるのか」と痛烈に批判したと報道されている。

リーダー不在の組織体がどのような様子を示すか如実に語っているので、ちょうど良い機会であるので企業におけるリーダーの資質、および先行投資とムダについて考えてみたい。先行投資とムダの区別がつかないリーダーを頂く組織体は危険極まりない。

「日本力」(注1)という本の中に、中国東北部の瀋陽にある国有企業の抱える問題点として『「指示待ち」「顧客無視」「対応力の低さ」「競争意識の欠如」・・・・』という記述があった。この問題点だけを見ればわが国を代表する航空会社の話かと見間違うほどである。と同時に、わが国を代表する大手電子機器メーカーの多くのもそのまま当てはまりそうである。

わが国の半導体メーカーの何社かは分社化されて本社から切り離された。これを見るかぎり日本の半導体メーカーが持つ垂直統合型のIDM(Integrated Device Manufacturer)としての強みが理解されていないようにみえる。IDMは自社内で回路設計から製造、販売までの全ての機能を持つ半導体メーカーであるが、従来は最終製品を製造販売する機能を持った大手電子機器メーカーの一部門であった。そこでは最終製品の設計部門と密接な関係をもって最終製品に最適の半導体を設計できる環境にあったが、半導体部門の分社化によって応用製品に関する情報の枯渇化をきたしている。

現在の半導体製品の主戦場であるパソコン、携帯電話機、携帯音楽プレーヤーなどボリュームゾーンを占める製品に日本製LSIの採用比率は極端に低い。さらに次の主戦場となる自動車分野で日本製LSIは主導権を握れるのか。国内に世界レベルで頑張っている自動車メーカーは多く、国内の半導体メーカーにとって有利な状況にあるように見える。しかし、ここにきてNECエレクトロニクスとルネサステクノロジの合併問題が浮上してきた。この2社は自動車用CPUにおいて競合関係にある。安全性を考慮して2社購買をしている自動車メーカーにしてみれば上記2社から購入していたCPUは両社の合併により1社購買となってしまう。その他の会社から購入せざるを得ないとの見方から外資系半導体メーカーが喜んでいるという。「対応力の低さ」「競争意識の欠如」である。

筆者はベンチャーキャピタルからの依頼で技術系ベンチャー企業の経営力や技術力を評価する仕事も手掛けており、先行投資とムダに関しては肌感覚として実感している。企業経営力の一つは、「現在の飯のタネ」や「先行投資」と「ムダ」との区別が付くことである。さらに「現在の飯のタネ」と「先行投資」に対する費用配分に黄金律があるわけではなく、それぞれの企業の特性によって大きく変わるし、時期によっても内外の要因によっても変動する。それを嗅ぎ分けなければならない。ベンチャー企業のトップは技術系の人が多く、技術に対する思い入れから「先行投資」の費用比率がどうしても大きくなりすぎて、結果的に企業の存続があやうくなるケースを多く見てきた。「現在の飯のタネ」と「先行投資」の費用配分に関するバランス感覚が要求される。とはいえ社長一人ではなかなかできない場合も多く、ホンダの例では開発に突っ走る本田宗一郎氏に対して参謀としての藤沢武夫氏がうまくコントロールできた点が企業存続に大きく貢献したと思われる。同じパターンはソニーにも当てはまり、井深大氏に対して盛田昭夫氏がいた。

日本の半導体メーカーであれ電子機器メーカーであれ、「現在の飯のタネ」「先行投資」「ムダ」の区別のつくリーダーが不可欠で、単にトコロテン式に上がってきた人物では心もとない。さらにリーダーの資格として「独自の判断力」「顧客重視」「対応力」「行動力」「競争意識」を備えた人物であってほしい。これは企業のトップだけではなくそれぞれの部門長であっても同様である。

もう一点付け加えるならば、国内大手の電子機器メーカーや半導体メーカーにあっては、世界的なマーケティング戦略が不足しているように思えてならない。参考になる事例としては、サムスンが1990年に導入した「地域専門家制度」がある。毎年200〜300人が世界各国に派遣され1年間滞在するが仕事の義務はなく、自由にその国の言語や文化を吸収し人脈を広げる。すでに3,500人がこの制度を利用しており、文字通りの「先行投資」である。これを「ムダ」と切り捨てる人物がリーダーであってはならない。

光和技術研究所 代表取締役社長 禿 節史(かむろ せつふみ)

注1) 伊藤洋一『日本力』講談社+α文庫、2008年1月.
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