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Intel のIDM2.0宣言:「7nm微細化プロセス開発は順調に進んでいる」は本当か?

Intelの新しいCEOであるPat Gelsinger氏による3月24日のウェブキャストは、独立事業としてのIntel Foundry Service (IFS)参入の宣言が含まれていたため、台湾や韓国の半導体業界関係者を困惑させている。実は、Intelは2010年代前半に片手間にファウンドリを始めたが成功せず開店休業状態だったので、今回は正確には「再参入」と呼ぶべきだろう。

Gelsinger氏は「7nm微細化プロセス開発は順調に進んでいる」と述べたが、果たして本当だろうか。先端プロセスを使ったファウンドリ事業への参入で、台TSMCや韓Samsungと対決するつもりなのだろうか。検証してみよう。

2020年7月、Intel CEOのBoB Swan氏(当時、元はCFOで現在は退任)が、同社の米国オレゴン州にあるCPUデバイス試作ラインで7nmデバイスの製造歩留まりが長期にわたり量産移行許可レベルに達しないことに業を煮やし、7nm CPUを外部のファウンドリに生産委託することを検討し始めたと発表した。その最終検討結果を1月下旬に発表することになっていた。しかし、年末に、モノ言う株主として有名な米Third Pointが、「インテルは微細化でTSMCに負け、CPUでAMDにシェアを奪われ(中略)今やIntelの存在感はまったくない」と手厳しく批判した書簡をIntelの経営陣に送りつけ、「製造と設計を両方手掛けるIDMモデルが本当に適切か否か、早急に事業を抜本的に見直し、速やかに行動に移すよう」求めた(参考資料1)。すでに行動に移さなければ、自分たちが選んだ取締役を送り込むぞと脅しまでかけた。事態を重く見た取締役会は、1月初めにSwan CEOの解任を決めた。突然のCEO交代決議で、CPU製造を外部委託するかどうかの最終判断は2月14日に就任する新CEOである元Intel技術者のPat Gelsinger氏に委ねられた。

同氏は、CEO就任後1カ月間社内調査を行い、ついに3月24日に、Intelは当初 Swan氏が考えていた「ファブライト」や「ファブレス」になることはせず、あくまでも「IDM(垂直統合型デバイスメーカー)」として留まるとして、IDMをさらに進化させた「IDM2.0」宣言を行った。ここでIDM2.0というのは、(1)Intel 社内でのCPU製造を継続し、社内の生産能力をさらに増やす、(2)しかし、同時に従来は少量だけ行っていたサードパーティへの製造委託も大幅に増やす、(3)さらには、世界中の顧客を対象にファウンドリサービス、「Intel Foundry Service (IFS)」を独立事業として行う、という方針だ。2020年7月にSwan CEO (当時)が、先端CPUの製造を外部委託する「緊急時対応計画」(Contingency Plan)をすでに策定していることを明らかにしてから8か月後の決断となった。

Intelのファウンドリサービス参入で中韓勢が困惑

これに対して、インテルの味方(製造委託先)になるはずだったが一転敵に回すことになった(あるいは敵だか味方だかわからなくなった)ファウンドリ大手を抱える韓国や台湾の半導体業界には困惑が広がっている。Gelsinger氏の発表内容の多くは想定内だったが、まさかファウンドリを独立事業として始めるとはだれも予想しなかったからだ。

韓国メディアの見出しを拾ってみると、「半導体覇権戦争」の引き金引いた米国、『オーナー不在』サムスンは緊張」(韓国経済新聞)『顧客が敵に』 サムスン緊張」(中央日報)「サムスン、TSMC追撃が手に余るのに、半導体恐竜インテルの逆襲」(毎日経済新聞)といった具合で韓国勢の困惑ぶりがうかがえよう。ほとんどすべて、味方(顧客)のはずのIntelが突然敵になってしまったととらえているようだ。

一方、台湾はどうかというと、「インテル工場ショック、TSMCの株価4%下落」(経済新報)、「インテルのファウンドリ部門はTSMCの株価と競争」(国営中央通信社)と、本来ならIntelの台湾ファウンドリへの大量製造委託の発表で株価が急騰するはずだったのに逆に低迷してしまったことを台湾の多くのメディアが取り上げている。「Intelは工場建設で200億ドルでTSMCに宣戦布告」(経済日報)との見出しを掲げた日刊紙もあった。

欧米の有力メディアは、Gelsinger氏が、現在、約80%の半導体生産能力がアジアに集中して地政学的リスクが大きいことに触れ、地理的な不均衡を解消するため米国および欧州に集中的に工場建設の投資をしていきたいと強調した点に注目して、アジアのライバル2社のシェアを奪いにかかっているとの見方を示した。

Intel 7nmプロセス開発はまだ道半ばではないか?

Intelの先端ファウンドリサービス参入の背景にある「7nm微細化プロセス開発は順調に進んでいる」というGelsinger氏の発言に筆者は注目している。CEOが変わったとたんに長期におよぶ微細化トラブルが急に解決するものだろうか。Intelは、今回の7nmだけではなく、10nmでもプロセス開発に躓き、微細化競争トップランナーから脱落して今日に至っている。実は、14nmの製造開始時にも初期歩留まりが低迷しており、その際には、CEOが製造歩留に関する習熟曲線を示して、スムーズに立ち上がった22nmプロセスと同じ量産に耐える歩留まりに到達するのは2014年第1四半期の見込みだと具体的に説明していた(図1)。


Yield at the same point in development

図1 22nm CPUのスムーズな歩留向上とは対照的な14nmの歩留低迷を示す習熟曲線:22nm CPUと同等の歩留まりにたどり着くのは2014年第1四半期になると述べていた。
出典:Intel, 2013年


しかし、今回は具体的な情報は一切開示されなかったのでCEOの発言を信じるしかない。ただし、「7nmプロセス開発時点ではEUVリソグラフィは(まだ信頼のおけない)新規技術だったので使用しなかったためにプロセスがとても複雑になってしまった。しかし、今やEUV技術は成熟して信頼できる技術になってきたので100%以上使用することで、プロセスフローを再構築して簡素化できるようになった」とは述べた。つまり、液浸ArF露光によるマルチパターニングでリソグラフィとエッチングを繰り返す代わりにEUVシングル露光を採用して処理工程数を減らしたという意味だろう。「EUVを100%以上使用」というのは意味不明だが、今までの2倍以上の工程にEUVを採用するという意味だろうか、それとも日本語の「十二分に」という感じだろうか。「先端のEUVを使うという私たちのプランは道半ばである(Our plan to stay on the leading edge of EUV usage is well underway)」と言っていることから、やっと7nmプロセス問題解決のめどが経ったところで、すぐに生産を始められる段階にはないだろう。

ASMLが独占するEUV露光装置は、限られた生産台数をTSMCとSamsungとで奪い合い状態で、最近SK Hynixも4500億円規模の購入契約を結んで向こう5年間の台数を確保しただばかりである(参考資料2)。ASMLが他社を差し置いて急にIntelに大量にEUV生産能力を割り当てことなどできないだろう。Intelは7nmプロセスを2023年のCPUラインアップに間に合わせたいということなので(この種の計画は過去何度も先送りされているから信用されてはいないが)、先端微細化チップは外部のファウンドリに製造委託しつつ、内部で歩留向上やEUV露光装置準備の時間稼ぎをすると見るのが妥当ではなかろうか。

Mooreの法則に逆らってCPU新製品を10nmから14nmプロセスに戻す不思議

実は、Gelsinger氏のウェブキャストの数日前に伝えられた2つのIntelがらみのニュースに驚かされた。一つは、Intelが、デスクトップPC向け「第11世代 Intel Core Sシリーズ デスクトップ・プロセッサ」(開発コード名:Rocket Lake-S)を発表したというニュースだが、14nmプロセスを採用するという。同社は2020年9月に第11世代Coreプロセッサの第1弾として10nm CPU(開発コード名:Tiger Lake)をすでに発表している。しかし、今回は先端11世代CPU製造プロセスを10nmから14nmプロセスに戻ってしまっている。第10世代プロセッサの時も、同じことが起きた。

オンライン記者会見では、Mooreの法則を逆走するような微細化後退に質問が集中した。それに対してIntelは「現時点では14nmプロセスでの製造が、演算速度や生産安定度などの点で優位と判断した」と回答している。Intel の主流プロセスはいまだに14nmであり、安定した生産がいまだに確立できていない10nm CPUは供給数量がきわめて限られており、長期にわたり供給不足のままだ。 これがIntel の微細化の実情である。Intelは、CPUの社内製造に力を入れると言いながら、TSMCなどサードパーティへ先端品の製造委託を増やさねばならない内部事情があるのではなかろうか。

IntelがやっとASIC製造で国防総省と手を組む

米国政府(商務省および国防総省)は、Intelにファウンドリ向けの最先端の半導体工場を米国内に建設するよう再三にわたり要請してきたが、最先端プロセス開発がトラブル続きのIntelは、色よい返事をしてこなかった。そこで米国政府は、海外資本のTSMCやSamsungの誘致に動いた。そんな中、米国国防総省は、これまたGelsingerのIDM2.0宣言直前(3月18日)に、軍事用ASICを10nmプロセスで製造委託する契約をIntelと結んだ。これが2つ目の注目ニュースだ。

著者がこのニュースに接した際、Intelはついに米国政府からの再三にわたる要請に根負けして軍事チップに限ったファウンドリサービスを細々と始めることになったのかと思ったが、その矢先にGelsinger氏のIntel Foundry Service宣言となったわけである。軍事チップのような少量生産なら、10nmプロセスの歩留が低くても製造できるだろう。しかし、国防総省が国家安全保障確保のために製造委託する軍事用チップの少量生産では、スケールメリットが生かせず赤字必至なので、世界中から生産受託することにしたのかもしれない。7nmプロセスが立ち上がったから積極的にファウンドリを始めることにしたというわけではないのではなかろうか。微細化で先進ファウンドリに劣り、Armコアに消費電力で負ける独自の複雑なCPUプロセスをベースにしたファウンドリに一体どれだけの顧客が付くか注目される。

参考資料
1. 服部毅:「岐路に立つIntel、物言う株主がIDM事業の抜本的な見直しを要求」 、TECH+ (2021/01/07)
2. 服部毅:「SK HynixがEUV露光装置の購入でASMLと約4500億円の契約か?」 TECH+ (2021/02/26)

Hattori Consulting International代表  服部 毅

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