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日本人渡航禁止:「工場閉鎖ドミノ恐怖」で戦々恐々の韓国半導体・電子産業

韓国の大邱(テグ)広域市(図1参照)は、首都ソウル、南部の国際港湾都市釜山(プサン)に次ぐ3番目に大きな都市だが、ここにある新興宗教の教会で新型コロナウイルス肺炎の集団感染が発生した。2月下旬に入り急に毎日数百人単位で感染者が急増し始め、一気に蔓延している。日本政府は、3月1日に日本人に同地域への渡航禁止勧告を行った。しかし翌2日にはその範囲を拡大しなければならぬほど事態は急展開している(図1)。

図1 韓国地図における大邱広域市の位置(紫色表示の下部)

図1 韓国地図における大邱広域市の位置(紫色表示の下部):なお、紫色表示=感染症危情報レベル3=日本人渡航中止勧告地域;薄紫色表示=レベル2=不要不急の渡航中止要請地域、空色表示=レベル1=渡航注意地域) 出典:日本外務省感染症危険情報、2020年3月2日時点


大邱市の近郊には韓国有数の工業都市として知られる亀尾(グミ)市がある。パクチョンヒ元大統領(パククネ前大統領の父親)の出生地で、そこには韓国の田中角栄といわれるパクチョンヒが故郷の田舎町を工業都市に成長させた4つの「国家産業団地」があり、LG DisplayのFPD製造拠点、Samsung Electronicsの高級スマートフォンの製造拠点、SK Hynixのシリコンウェーハ製造拠点、Magnachip Semiconductor(元SK Hynix のシステムLSI部門)の半導体デバイス製造工場はじめ、零細企業も含めれば 2千数百社(亀尾市役所調べ)が結集している。日本からも東レやAGC (旧旭硝子)をはじめ、いくつもの企業が進出しており最先端素材を製造している。

これらの工業団地に拠点を構える企業には大都市の大邱から通勤してくる従業員が多く、ほとんどの企業は韓国政府や大邱市の勧告に従い、大邱在住者全員に(一部の企業は亀尾在住者も)2月24日から自宅待機(出勤禁止)を指示している。すでに亀尾市内でも新型コロナウイルス感染者が2桁発生して増加に歯止めがかからず、今後、労働力不足で稼働率低下や操業停止がさらに広がりそうである。

韓国の全国紙である東亜日報は3月2日付け紙面で「製造業、シャットダウンドミノ恐怖が現実に」という見出しを打ち、危機に瀕する韓国の製造業の現状を報道している。

SamsungやLGの生産現場が一時操業停止

Samsung Electronicsの高級スマートフォン生産拠点である 亀尾事業所(通称:Samsung Smart City, 図2)で、新型コロナウイルス感染者が今までに3人見つかり、2月22日以降、2回にわたり操業を数日ずつ中止して消毒作業を行っている。一部の建屋は3月3日午前中まで防疫のため閉鎖されている。一番目の感染者と接点のあった622名および韓国政府・大邱市の勧告により大邱在住者900名が当分出勤禁止となっている(参考資料1)。

近所には、「世界一のディスプレイ企業(Global No.1 Display Company)」を自負するLG Display のFPD(フラットパネルディスプレイ)生産拠点があるが、そこでも、大邱から出勤してくる900名の従業員に自宅待機を指示している。さらに、2月末に事業所内で感染者が見つかり、FPDモジュール製造ラインの消毒を行うため、3月2日まで稼働を中止した。


図2 Samsungのスマートフォン(Galaxy高級機種)生産拠点、“Samsung Smart City“とも呼ばれる亀尾事業所 出典:Samsung

図2 Samsungのスマートフォン(Galaxy高級機種)生産拠点、“Samsung Smart City“とも呼ばれる亀尾事業所 出典:Samsung


Samsung GalaxyやApple iPhone向けにカメラモジュールを提供しているLG Innotek亀尾事業所でも感染者が見つかり、3月2日まで工場が閉鎖している。近隣の日系企業の先端素材製造現場でも感染者が見つかり、稼働を一時止めて工場全体の消毒をしたと現地メディアは伝えている。韓国企業は大邱やその周辺への工場への出張を禁止しているため、大邱や亀尾の工場は他地域の工場からの応援を求めることができない状態にある。

半導体工場にもじわじわと影響が広がる

大邱から200kmも離れたソウル近郊のSK Hynix利川(イチョン)本社事業所でも、研修を受けていた新入社員1名が大邱在住の新型コロナウイルスに感染していた患者と濃厚接触をしていたことがわかったためで、同社は同じく研修セターで研修を受けていた280名の新入社員全員、ならびにこれらの研修生に接触したことのある社員の合計800名に自宅待機を2月19日に命令した(参考資料2)。同社の関係者は「新入社員はまだ座学の段階だからよかったものの、半導体メモリ製造ラインに入っていたら操業を停止しなければならないところだった」と胸をなでおろしていた。

Samsungの半導体量産拠点である器興(キフン)工場でも2月末に社員食堂の関係者の感染が確認され、食堂は閉鎖されたが、同社従業員とは直接的な接点がないということで半導体製造ラインの操業停止はかろうじてまぬがれた。

これらの韓国工場からの主な輸出先である中国の最終商品工場の稼働率が下がっており、中国市場の購買力も低下しているため、輸出額が大きく低下する懸念が出始めている。それに輪をかけるように、韓国内で感染者急増に歯止めがかからずパンデミック状態となりつつある。従業員の中にウイルス陽性者が出て、労働力不足で工場の稼働率が低下するのはさけられそうにはない。韓国メーカーは先が読めない事態に戦々恐々としている。

SK財閥は、SKテレコム(韓国最大の通信オペレータ)、SK Hynixはじめ、全てのグループ企業にテレワークを奨励したが、製造現場の作業員には適用できそうにはない。これを新たなきっかけに、全自動無人工場(英語では“Lights-out Fab”)や全自動運転車(Autonomous Vehicle)の開発や普及が促進するかもしれない。

新型ウイルス検査がすでに10数万件も実施され患者数の多い韓国の産業界で今起きていることは、検査数が著しく少なく抑え込まれているため感染者数が少ないように見える日本の明日の姿かもしれない。日本でも工場閉鎖ドミノが起こらぬように、今のうちから準備と対策を怠りなく!

参考資料
1. 服部毅: 新型肺炎の影響でSamsungのスマホ工場が一時閉鎖 マイナビニュース, (2020/02/25)
2. 服部毅: 新型肺炎 感染拡大でSK Hynixが従業員800名に自宅待機命令、マイナビニュース、(2020/02/25)

Hattori Consulting International 代表 服部 毅

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