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中国半導体メモリが始動、NANDに続いてDRAM量産計画明らかに

去る8月20日に東京で開催されたセミコンダクタポータル主催「世界半導体市場、2019年後半からの1年を津田編集長と議論しよう」では、日本政府の対韓半導体材料輸出管理厳格化(参考資料1)と並んで米中貿易紛争下の中国半導体動向も話題になった。会場からはJHICCなどの中国半導体メモリメーカーについての質問があり、本稿著者は即興で回答したが、その後の新たな動きも含めて、最新の中国半導体メモリ製造の動向をレポートしよう。

米国の禁輸措置の中、自力でDRAM生産準備を始めたJHICC

中国のDRAMメーカーである福建省晋華集成電路(Jinhua Integrated Circuit Company:JHICC)は米Micron Technologyの台湾子会社Micron Memory Taiwan(旧Inotera) からDRAM製造技術を不正に入手したとして、仲介した台UMCおよび両社の従業員とともに米国司法省から昨年11月に起訴された。これに先立つ10月29日、米国商務省は、国家安全上の理由からJHICCを輸出規制対象リストに加え、米系企業による同社との取引を禁止した。

JHICCはこの時すでに、製造設備の工場搬入の段階に入っていたが、Applied Materials、Lam Research、KLAなど米国装置メーカーは、米国商務省の措置を受けて、技術者をすぐに引き上げてしまった。また、UMCも米国の制裁を恐れてJHICCとの協力関係を解消し、技術者らは台湾に引き上げた。こうして第1期工事だけでも約6,000億円を投資していた同社は事業継続が困難となり、装置立ち上げ途中のクリーンルームの電源を落とし、稼働中止に追い込まれた。

しかし、JHICCは、最近、復活めざして準備を始めているようだ。韓国で、SamsungおよびSK Hynixに勤務経験のあるDRAM 技術者を募集したり、中国や台湾で回路設計から装置保守担当まで数十種に及ぶ職種の人材を募集したりしている。米国ベースの製造装置プロバイダによるオンサイトサポートが一切得られない状況にあるので、生産ラインの装置の立ち上げとパラメータ設定を最適化するためにできる限りのことをリクルートした人材を使って自力で行い、休止に追い込まれたDRAMラインの復活を狙っているようである。JHICCは、来年末までには生産を開始できるだろうが、初期の生産規模は月産1万枚以下にとどまる見込みと台湾の市場動向調査会社TrendForceは見ている。
  
突然降ってわいた日韓輸出紛争で、韓国半導体企業は、トップが先頭に立って、規制対象の材料調達に奔走してきた。韓国の半導体メモリラインが稼働停止に追い込まれるのではないかとのうわさが広まった時期もあった。この紛争に大喜びしたのは第3国、特に台湾と中国のDRAMメーカーのようである。JHICCは「死人が墓場から出てきて踊り出している」(業界関係者)ような状況だという。


図1 中国福建省にあるJHICCの本社工場 出典:JHICCのウェブサイト

図1 中国福建省にあるJHICCの本社工場 出典:JHICCのウェブサイト


二転三転の末、いよいよDDR4 DRAMの生産開始へ

もう1つの中国DRAMメーカーである長鑫存儲(ChangXin Memory Technologies(CXMT),合肥市)は、すでにDDR4 8GビットDRAMの小規模生産を開始しており、スマートフォン向けLPDDR4 DRAMの量産準備も始めているといわれているが、月産10万枚かそれ以上に達するのは2021年以降になろう。同社は、米国からにらまれることを恐れてもともと台湾Inotera(現Micron Memory Taiwan)出身者によって開発された技術の不採用と技術導入方針変更、Samsung出身者による設計変更、経営陣の入れ替えなどがあった。加えて、当初はInnotera というInoteraを連想させる社名だったがそれを変更、資金調達の遅れなど様々な要因で、計画が遅れがちだった。同社は最終的に、2009年に倒産した独Qimondaの遺産である46nm スタック構造DRAM(開発済だったが未発売)を取得したという。それを世界中からリクルートした人材により19nmへとプロセスをシュリンク(縮小)して、製品化することに成功した。誰も想像しえなかった奇策である。

安徽省合肥市人民政府はこのほど、長鑫(きん)存儲、華僑城集団、北方華創科技集団などと、投資総額2200億元(約3兆3300億円、うち7割が300mm量産ファブを中心にDRAM設計製造一体化事業向け)超となる「合肥長鑫集積回路製造基地事業」の調印式を行った。産業と空港と都市が融合した世界一流のメモリ産業クラスタを近い将来構築するという。合肥市は、2016年に元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏率いるサイノキングテクノロジーが合肥市地方政府と組んでDRAM量産計画をぶち上げたが、それ以来、いくつかの計画が生まれては消えていった。今度こそ本物だろうか。

紫光集団がDRAM量産工場を年末までに着工

中国政府は、米国との貿易紛争による逆風のなかで、DRAMを自給自足するにはさまざまな課題を抱えている既存の2社では心もとないと考えて、清華紫光集団にもDRAMの開発と製造の使命を担うことになった。

清華紫光集団は、今年末から量産を始めるといわれる3D NAND事業(参考資料2)とは別に、新たにDRAM事業にも参入すべく具体的な動きを始めた。6月30日付けで、新たに「DRAM事業グループ(社内カンパニー)」を新設し、台湾のDRAMメーカーだったInotera Memories(現 Micron Technology Taiwan)の元董事長Charles Kao氏を最高経営責任者(CEO)に任命したことを明らかにしていたが、続いて8月27に重慶市の両江新区にDRAM事業本部を設置し、DRAM研究開発センタとDRAM量産工場を設立する協約を重慶市人民政府と締結した。紫光集団は2019年末に工場建設に着工することにしている。同工場は、2021年に竣工後、DRAMウェーハの生産を開始する予定だという。YMTCやその母体で現在は子会社になっているXMCも同じ重慶にあり、今後、同地が中国における半導体メモリ量産基地として注目を浴びることになろう。

今回のDRAM製造計画は、『中国製造2025』戦略に沿った中国政府の半導体自給自足体制確立の一環である。中国のDRAMビジネスが直面する最大の課題は、製造プロセス技術の取得と人材の確保であるが、紫光集団がDRAM製造技術をどのように取得するのか開発するのか不明である。Kao CEOが先頭に立って、国内外で人材のリクルート活動を活発化させているようである。

紫光集団は、2015年にDRAM技術取得のためMicron Technologyを買収しようとしたが、米国政府に阻止され、失敗に終わっている。同集団は、そのIC設計子会社であるUnigroup Guoxin Microelectronicsが、かつて存在したQimonda西安工場の設計部門の流れを組んでおり、同集団のメモリ設計を支援するのではないか、とみられている。

2020年の中国独自のDRAM生産量は世界全体の3%未満

中国では、韓SK Hynixが無錫でDRAMを量産中であるが、中国勢独自のDRAM生産は来年もまだ非常に限られる。 TrendForceの最新の予測によると、中国のメモリメーカーの2020年のDRAM生産量はグローバルな業界全体の生産投入量の3%未満に過ぎないという。中国業界関係者やマスコミが使う「量産開始」という言葉は、実際には「少量生産」段階での誇張表現の場合が少なくない。

中国勢がどのような手段を使うにせよDRAM製造技術を開発できたとしても、さらに発展させるためには多くの課題を克服する必要がある。その課題とは、例えば、主要製造装置の入手と設置・立ち上げ、製造歩留まりの大幅向上、海外企業とのIP関連紛争への対処などである。

NANDに続いてDRAM量産計画の輪郭がはっきりしてきたので、中国がいずれメモリ大国にのし上がる可能性が高くなってきた。しかし、中国メモリメーカーがグローバルなDRAM市場の需要供給バランスに顕著な影響を与えるようになるのはいつになるか、判断するには、もう少し時間をかけて観察する必要がありそうだ。

参考資料
1. 日の丸半導体装置材料産業の空洞化・弱体化が懸念される対韓輸出管理強化 (2019/09/02)
2. 服部毅 中国YMTCが64層256GビットTLC NANDの量産を開始 マイナビニュース (2019/09/09)

Hattori Consulting International代表 服部毅
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