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Huaweiへの禁輸解除や追加関税先送りの陰に半導体業界の圧力

米トランプ大統領は、6月29日、大阪での20カ国・地域首脳会議(G20サミット)終了後に記者会見を開き、中国通信機器大手のHuaweiに対して事実上禁輸措置を当面解除することを明らかにした。これと合わせて、iPhone等スマートフォンを含む、中国からの輸入品3000億ドル(約33兆円)分への追加関税を先送りにする方針も表明した。

同大統領は、記者団に対して、「大量の米国製品がHuaweiのさまざまな製品に使われている。我が国(米国)の企業はよその人々に製品を売るのが好きなんだ。シリコンバレーの企業にしか作れないすごい製品だ。だから、ごく少数の企業が輸出することで、大金を稼いでいる。そうした企業は(輸出禁止を)とても困惑していた。皆がその名前を知っている有名な大企業のことだ。彼らはハッピーではなかったようだ。この件は、国家安全保障の問題ではないのだからそういう企業にHuaweiへの輸出を許可した」と早口で説明していたが、いわばつぶやきのような発言で、ほとんどのマスコミは、最後の部分しか取り上げなかった。

Huaweiへの禁輸解禁や高額関税の棚上げは、決してトランプ大統領の思い付きで決まったことではなく、大統領談話からも察しがつくように、大手半導体企業や産業界からの圧力に屈する形で行われたものであろう。Huawei禁輸や関税引き上げで大打撃を受けている(あるいはこれから受けようとしている)多数の大手米国企業の反対にあって、大統領選挙を意識して行動しているトランプ大統領にとって、集票に影響がでると判断したのだろう。

米国半導体企業も工業会もHuawei禁輸政策に反対

2018年にHuaweiの部品購入金額は7兆5000億円という途方もない巨額で、ここのうちの2兆2500億円分はIntel、Broadcom、Micron Technologyはじめ米国企業が出荷した。Huaweiに大量の半導体チップを供給しているこれらの米国半導体各社は、ワシントンDCでロビー活動を行い、密かにトランプ政権に圧力をかけ、Huaweiに対する販売禁止措置を緩和するよう求めていた。これら半導体企業を束ねる米国半導体工業会SIAのJ. Goodrich副会長(グローバル政策担当)は、「国家安全保障に関係しないテクノロジーまで禁止命令の対象範囲に含めるべきではないので、この見解を政府に伝えた」と語っている。さらに、SIAは、国際貿易委員会(ITC)において証言し、「米国政府が提案した関税リストから主要な消費者向けIT製品を削除することを要求した」ことも明らかにしている。

SEMIも関税引き上げに反対

SEMIは、半導体製造装置の販売額予測を6月に前年比19%減となる484億ドルへと下方修正したことを発表した。3月には前年比14%減と予測していたが、米中貿易戦争の激化が半導体製造装置業界にも著しい影響を与えている。こうした状況を踏まえ、SEMIは6月13日、米国の660社に及ぶ様々な分野の有力企業ならびに業界団体と共に、トランプ大統領に対し、新たな関税を課すことによる中国との貿易戦争の激化を避け、解決に向けた交渉の席に着くように書簡を送ったことを明らかにした。この書簡についてSEMIは、翌週に開催される米通商代表部(USTR)の追加関税に関する検討のための公聴会に向けて準備されたものだと説明している。

SEMIのグローバル業界アドボカシー担当副社長であるMike Russo氏は6月18日に開催された米国通商代表部公聴会で証言を行い、トランプ政権が提案している関税引き上げに強く反対する意見を述べている。中国製品に対する関税引き上げは、SEMI会員に年間8億ドルの負担を強いる結果になるとの試算結果も開示した。SEMIは、米中貿易戦争が続く限り、誰も勝者にはなれない米中貿易摩擦の解消に向けた米国政府の要望を続けるとスタンスを明らかにしている。

経産省、通商政策に半導体材料を利用、日韓関係さらに悪化へ

日本が議長国を務めた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)は、6月29日、議長の安倍首相が自由で公正な貿易の重要性を訴えたばかりだ。ところが、その閉幕を待っていたかのように、経済産業省は、7月1日朝に「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」という声明を発表し、半導体やOLEDディスプレイ製造に使われるフッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミドの韓国への輸出を規制することを決めた。

日本の半導体製造装置メーカーや材料メーカーは、凋落を続ける日本の半導体メーカーからの売り上げが激減しているため、代わって今では、海外半導体メーカー、とりわけ世界第1位と3位(2018 年実績)の巨大半導体メーカーを抱える韓国市場に活路を見出している。とりわけ、今回経済産業省が選んだ3種類の半導体製造用特殊材料は日本のシェアが高く、韓国勢には痛手だろう。それを狙って、自民党の外交部会や自民党議員たちが政府に輸出禁止の強硬策をとるように求めていた。日本政府関係者や経産省が「元徴用工問題に対する事実上の対抗措置とは無関係」といっても白々しく響くだけだ。

韓国半導体企業の量産に支障をきたすことになれば、薬液やレジストメーカーだけではなく、韓国市場に依存しているほとんどすべての日本の半導体製造装置材料メーカーに影響が及び、減収となるだろう。スマートフォンなど最終製品の製造にも影響が出るようになれば日本の電子部品メーカーの業績にも影響が出るだろう。政治の問題を政治的話し合いで解決しようとはせず、返り血を浴びかねない通商政策を利用しようとするのは日本政府の愚策であろう。通商政策を持ち出すのは日本側にも多大な不利益をもたらす懸念がある。韓国勢の日本離れも進みかねない、長期的には日本の失うものが大きい。

トランプ政権の対中経済制裁は、結果として中国市場に多数の製品を出荷してきた米国企業の業績を悪化させることとなり、660社の企業や業界団体が反対を表明したことが一部とはいえ奏功したが、日本の半導体材料メーカーや業界はおとなしく政府決定に従うつもりだろうか。日の丸半導体(ルネサス社長が経営低迷で引責辞任したばかり!)、日の丸ディスプレイ(経営危機が続くJDI!)に続いて、装置材料業界までも凋落せぬよう祈るばかりだ。

筆者注)本稿は7月1日時点での情報に基づいている

参考資料
1. 服部毅 SEMI2019年の半導体製造装置市場予測を下方修正、トランプ大統領に米中貿易戦争の解決を要請 (2019/06/21)

Hattori Consulting International 代表 服部毅

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