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統計は嘘をつく:GDPと半導体市場成長率の相関性

去る2月13日に東京で開催されたセミコンダクタポータル主催「半導体市場、2019年を津田編集長と議論しよう」に出席した。今後の半導体産業の先行きがますます読めなくなってきており、米中貿易戦争や中国経済減速の半導体産業への影響(参考資料1)や、最近の半導体売上高急落(マイナス成長)で、ますます怪しくなってきたスーパーサイクル論の真偽はじめ様々なテーマについて、いつになく熱心に議論された。

いつもながら、半導体市場成長率とグローバルGDP(国民総生産)成長率との関連性についても話題に挙がった。2017〜2018年の半導体市場成長率はそれぞれ25%および15%前後(調査会社により数字がやや異なる)と大きく、少なくともこの期間に関しては安定的なGDP成長率とは相関しないことが証明されたはずなのに(参考資料2)、米国の半導体調査会社IC Insightsが懲りもせず今年に入り再びその相関性を主張してきたためである(参考資料3)。同社は、創業以来、世界経済から話をおこしてトップダウンで半導体市場予測のストーリー作りをしてきており、それ自体は誤ってはいないが、同社のBill McClean社長は「GDP成長率と半導体市場成長率が密接に相関している」という持論を主張し続けている。

ここでIC Insights の主張をもう一度復習しておこう。同社は、2017年初め「2011年以降、半導体産業の成長は世界のGDP成長に密接に連動している」との見解を発表した(参考資料2)。2010年以前は、設備投資額、IC産業生産能力、IC価格変動などがIC産業の景気サイクルをけん引してきたが、2011年以降のIC産業は、銀行金利や原油価格や 景気刺激政策などの世界経済そのもの動きが成長をけん引するようになってきており、少なくとも今後5年(2017年〜2021年)にわたりこの傾向は継続する、と同社は説明していた。

しかし、IC Insightsは「世界GDPが予測を大きく逸脱せぬ限り、今後5年間(2017〜2021年)はIC産業が大きなサイクル変動に見舞われることはない」と豪語していたにもかかわらず、実は、GDPではなく、同社が一番得意なはずの半導体産業の予測がわずか数カ月以内に大きく逸脱してしまった。同社は2017年2月時点で、半導体産業の同年の成長率を5%として、この数字に基づいて2.5〜3%という狭い範囲で変化する安定的なGDP成長率との密接な相関を力説していた。しかし、早くも4月には11%に上方修正し、7月には15%に、という具合に上方修正を続けて、結局最後には25%の成長という結果になった。予測が大きく逸脱したのはGDPではなく半導体売上高だったのだ。2018年も年初の1桁成長予測を2桁へと上方修正している。いずれの年も、メモリ価格の長期にわたる上昇を全く読めなかったためである。これはIC Insightsに限った話ではなく、WSTSを含む全ての調査会社の年初予測が当たらなかった。

IC Insightsは、2017年2018年のメモリバブル期に関してはGDPと半導体市場成長率の相関性が全くないため、今年年初には、(従来毎年提示してきた1年単位の比較グラフを引っ込めて)10年ひとくくりでGDPと半導体市場相関性を示してきた(図1)。要するに、2017〜2018年の相関のずれの大きさをほかの年のずれの少なさで薄めて、いかにも相関性があるかのような結論を導いているわけだ。しかも、2017年と18年のメモリバブル期のメモリ売り上げを除けば相関性が増すといっているが(図1欄外参照)、この期間に限って都合の悪いデータを除くのは、いま新聞をにぎわせている統計不正問題同様、統計の信用性を著しく損なってしまう。「統計は嘘をつく」という言葉があるが、統計は細工次第でどんな結論でも導ける見本のような事例である。


Worldwide GDP and IC Market Growth Correlation Coefficient History and Forecast (1980-2023F)

図1 10年単位のGDPと半導体成長率の相関 2017-18年のメモリを除けば相関はさらに密接になると注記されている 出典:IC Insights


データセンタのサーバ用DRAM価格急落
ところで、DRAM価格が、サーバ向けを始め、全ての用途向けで2018年第4四半期から下落を始めている。とりわけ、データセンタのサーバ用DRAM価格が今年に入り急落しており、TrendForceは。今年第1四半期の価格を前期比マイナス20%へと下方修正している(参考資料4)。このサーバ用DRAMについても、今回のマーケットセミナーで議論になった。IntelのCPU出荷不足が原因ではないかとの意見もあった。最先端10nmプロセスCPUであるIcelakeは今年末に量産の予定。

しかし、台湾のTrendForceのメモリ市場動向調査部門DRAMeXchangeのシニアアナリストであるMark Liu氏は、「IntelのPurley(データセンタ向けプロセッサ新製品で別名Skylake)プラットフォームへのアップグレード需要が減少してきている」と指摘している(参考資料4)。さらに「急激なサーバ用DRAM価格下落の主な理由は、需要低迷による在庫削減の困難さにある。DRAMサプライヤによる市場充足率は、2018年第4四半期の90%から2019年第1四半期に120%に上昇した。これは供給過剰を意味している。現在、北米の大手データセンタ事業者は、少なくとも5〜6週間にわたり使用できるだけのサーバメモリを在庫として保有しているが、一方で、OEMも4週間程度カバーできる在庫を抱えている。彼らの在庫レベルは明らかに通常の2倍あるいはそれ以上になっている」と述べている。

日本経済新聞も2月10日付け紙面(「半導体大手の業績急減速」)で「Intelでは、データセンタ―向けCPU売上高が7〜9月期は1割強の伸びを記録したが、10〜12月期は横ばいにとどまった」と伝えている。

過去2年間、WSTSを含めて、半導体市場動向調査会社の半導体市場成長率予測は、メモリ価格高騰の長期化を全く読めずに、年初の予測を何度も上方調整してきた。今年の半導体市場予測に関しては、逆にマイナス成長へと下方修正するところが出始めている。

世界半導体売上高統計(WSTS)によると、2018年12月単月の対前月比売上高成長率はマイナスに転じている(3ヵ月移動平均は+0.6%だが、単月は-7.7%)。半導体市場成長率は、またしても安定的なGDP成長率と乖離しそうな状況になってきている。


参考資料
1. 服部毅「米中貿易戦争と国内経済の悪化で減速を余儀なくされる中国の半導体製造」 マイナビニュース (2019/01/23)
2. 服部毅「今後の半導体産業の成長を占う先行指標は何か?それはGDPではない!」 Semiconportal (2017/08/23)
3. Global GDP Growth Increasingly Important Driver of IC Market Growth, IC Insights (2019/01/22)
4. 服部毅「下落が続く2019年のサーバ向けDRAM価格、年末には年初の半額になる可能性も」 マイナビニュース (2019/01/23)
 

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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