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中台勢恐るべし!世界初の7nm モバイルSoCは中国勢が設計し台湾で量産

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10月11日の日本経済新聞に「華為技術、半導体事業強化 AI向けチップ量産」という見出しで「中国通信機器大手の華為技術(英語名はHuawei)が、人工知能(AI)向けの高性能な半導体チップの量産を始めると発表した。米中貿易戦争の長期化で供給に対する懸念が強まっており、中国企業が自前で半導体を製造する動きは今後も広がりそうだ」という内容の記事が掲載された。いかにもHuaweiが中国国内で先端ロジックICチップを大量に製造し始めるとも取れる内容で、そのように読んだ読者も多かっただろうが、実際はどうなのだろうか?この辺の事情を探ってみることにしよう。

最先端7nmロジックICは台湾TSMCに注文殺到

現在、中国勢は、最先端7nm半導体ロジックICの設計をできるまでに成長してきているが、中国内には、まだ最先端の7nmプロセスでロジックIC を製造(前工程のウェーハ処理)できるインフラが整備されてはいない。7nm製品の受託製造(量産)に関しては、GlobalFoundriesが無期延期(事実上中止・撤退)したし、Samsung Electronicsの7nmシステムLSI量産ライン(韓国華城工場内)稼働は2020年頃になるので、7nm 製品の量産委託は台湾TSMCに集中している。

Samsungが、7nm製造には最初からEUVリソグラフィを採用する方針に固執したのに対し、TSMCは、遅れに遅れている量産用EUV技術の実用化を待つことなく、既存の液浸ArF露光技術+マルチパターニングを使って今年すでに量産体制を敷くことに成功しており、先進顧客を事実上独り占めにしている。

Apple iPhone XSやXS Max用のA12 Bionicプロセッサ(7nmプロセス(N7)採用)もTSMCが独占的に製造受託しているし、「来年のA13プロセッサもTSMCが独占受託するだろう」との憶測情報もすでに流れている。

TSMC の関係者によれば、Nvidia、Xilinx、Google、Qualcomm、 Mediatek、Broadcom、AMDなど先進半導体企業の7nmロジック製品だけではなく、中国勢の仮想通貨採掘マシン用の超高速ロジックASICも製造受託している。

市場シェアでAppleを抜いたHuaweiは技術でも追い抜く

Huaweiは、NPU(ニューラルプロセッシングユニット)を2つ搭載し、AI機能を強化したスマートフォン用SoC「Kirin 980」を今年8月31日〜9月5日ドイツの ベルリン市で開催されたコンシューマエレクトロニクス展示会「IFA 2018」において、この「世界初の7nm SoC」の詳細を公開した。(AppleがPhone新モデルとともに、そこに搭載された、7nm プロセス採用のA12 Bionicプロセッサを発表したのは9月11日だったので、Huaweiはかろうじて「世界初」を主張できたという。)


図1 Kirin 980デバイスと基本構成: Huaweiは、8月末の発表時に世界初の7nmSoC、世界初のデュアルNPU, 世界初のCortex-A76ベースCPU, 世界初のMali-G76 GPUなど世界一の性能を宣伝した 出典: Huawei website

図1 Kirin 980デバイスと基本構成: Huaweiは、8月末の発表時に世界初の7nmSoC、世界初のデュアルNPU, 世界初のCortex-A76ベースCPU, 世界初のMali-G76 GPUなど世界一の性能を宣伝した 出典: Huawei website


引き続き、Huaweiは、10月16日、ロンドンでKirin 980チップを搭載した旗艦スマートォン「Mate 20 Pro」を発表した(図2)。強化されたAI機能は、実際に使ってみないとわからないが、ハードウエア面では、iPhoneでは未採用の画期的な「ワイヤレス逆充電」(Wireless Reverse Charging)機能を搭載し、背面には用途が異なる3種類のカメラ(「40MP、f 1.8 広角 27mm」と「20MP、 f 2.2 超広角 16mm」、「8MP、f 2.4 望遠 80mm」)を搭載しており、iPhone新モデルより進んだ技術満載である。Huaweiはスマートフォン市場で、Appleを抜き、トップのSamsungを視野におさめたが、技術面でもAppleを抜く勢いだ。もっとも、技術誇示最優先では、かつての日本製ガラケーのように一般ユーザーにとって使いにくく、過剰スペックになりがちである。願わくば、使いやすさを含めユーザー体験でも優位であってほしいものである。

図2 Kirin980チップ搭載のHuawei Mate 20 Proの概観:背面にはiPhoneより多い3種のカメラを搭載 出典:Huawei website

図2 Kirin980チップ搭載のHuawei Mate 20 Proの概観:背面にはiPhoneより多い3種のカメラを搭載 出典:Huawei website


7nmSoCの設計は中国HiSilicon、製造は台湾TSMC

Kirin 980の設計は、Huaweiの子会社のHiSiliconが行い、製造はTSMCに委託している。Huawei/HiSiliocnはファブレスであって半導体製造工場を持ってはおらず、半導体製造はファウンドリに委託している。HiSiliconの前身はHuawei のASIC設計センターだが、2004年に独立した。HiSiliconは最新の世界半導体ファブレス売上高ランキングで、6位の米AMDに次いで7位にランクされており、さらに上位を目指して急成長中だ。

今や、TSMCの最先端7nm製造受託ビジネスにとってHiSiliconは、Appleに次いで2番目の顧客になっている。なお、Kirin980に続き、5G対応のKirin 990(7nmプロセス採用)も台湾にあるTSMC Fab15で製造されることが決まっている。

中国ファブレスと台湾ファウンドリはWin-Win の関係

中国本土では、HiSiliconばかりではなく、多数のファブレスが急成長しており、世界ファウンドリ市場において中国ファブレスからの注文がうなぎ上りの状況にある。2018年ファウンドリ市場において、売上高を顧客の国別で見た場合、中国勢が前年比51%も増加する見込みである(参考資料1)。2018年のファウンドリ市場の成長分のおよそ9割が中国勢からの製造委託の拡大によるものである。TSMCの売上のうち、中国勢からの売上は、2017年第2四半期には7.3億ドルだったが1年後の2018年第3四半期には18億ドル(全売上高の23%)と2倍以上に増加している(参考資料1)。

今後、中国勢からの売上はさらに急増するだろう。このように、急成長する中国ファブレスと台湾のファウンドリのWin-Winの関係は、今後も当分続きそうだ。

参考資料
1. 服部毅:「ファウンドリ市場での存在感を高める中国のファブレス企業」 マイナビニュース (2018/10/03)
  

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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