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中国の国策で半導体メモリ生産が始まろうとしているが・・・

中国政府は、2014年6月、輸入に頼り切っていた半導体製品の国産化を目指して「国家IC産業発展推進ガイドライン」を公表し、2030年までに、世界トップクラスの半導体メーカーを中国国内で育成するという目標を掲げた。中国国務院は、2015年5月に「中国製造2025」と呼ばれる自給計画を発表し、現在は20%の自給率を2020年には40%、25年には70%に引き上げることを目指している。

米トランプ政権が中国に対して強硬な経済制裁策をとるようになってきたため、中国は、半導体自給自足をさらに急がなければならなくなってきた。中国政府は2014年に1390億元規模の半導体投資ファンドを創設しているが、さらに3000億元(約5兆円)規模の巨大ファンドを近く創設するとも噂されている。米中貿易摩擦が激化する中、いよいよ来年は、中国政府の国策により半導体メモリ生産元年となる可能性が高まってきた。

現在、中国では、外国勢である韓国Samsung Electronicsと米Intelの3D-NANDフラッシュメモリ 量産工場(それぞれ西安と大連)、韓国SK HynixのDRAM量産工場(無錫)がフル稼働しており、増産計画も進行中である。メモリではないが、ファウンドリ(半導体の受託製造)世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の300mm新工場(南京市)も、まもなく、中国顧客向け受託生産を開始する。

これに対して、中国政府は、米中貿易摩擦の中にあって、国策で半導体事業の自給自足体制を敷くため、とりわけ国内半導体メモリ産業育成に焦点を当てている。中国資本の半導体メモリ3大メーカーが年内にも稼働を開始しようとしている。その3社とは、
・清華紫光集団傘下のYMTC(Yangtze Memory Technologies Co、長江存儲科技)/ XMC(武漢新芯集成電路)(湖北省武漢市)
・Innotron(旧Hefei Chang Xin、合肥長金集成電路)(安徽省合肥市)
・JHICC(Fujian Jin Hua Integrated Circuit、福建省晉華積体電路)(福建省晉江市)

である。習近平国家主席は2018年4月26日、母校の清華大学傘下の清華紫光集団の所有するYMTC/XMCのNANDフラッシュメモリ開発・試作拠点(湖北省武漢市)を視察した。XMCには李克強首相も昨年視察に訪れており、半導体メモリ自給自足に対する中国当局の期待の高さをうかがわせた。

これら3社は、当面、それぞれうまくすみ分けており、YMTCはNANDフラッシュメモリ、InnotronはモバイルDRAM、 JHICCはスペシャリティ(特殊用途)DRAMを担当する。3社はいずれも、2018年末までに試験生産を開始し、2019年に本格的生産を始める予定である。

Innotronの工場建設は、2017年6月に終わり、2017年第3四半期に製造設備の設置が行われた。しかし、今のところInnotronは、後述のJHICC同様に、試作生産を2018年後半に延期し、2019年に本格生産を予定しているが、当初の発表予定よりはかなり遅れている。

台湾に本拠を置く半導体市場調査会社TrendForceによれば、「Innotronは、最初の製品としてLPDDR4 8Gbチップを選んでトップDRAMメーカーと競争しようとしているが、外国特許侵害の可能性が高い。国際法によって定められた知的財産権の取得などを進める必要がある」という。Innotronは、米Micron Technologyにより買収された台Inotera Memoriesの前従業員らを多数採用し、DRAM技術導入したといわれているが、これに対してMicronは機密盗用で訴えを起こしている。

特殊用途向けDRAMの製造を目指すJHICCは、2016年7月に福建省晋江市に300mmウエーハ工場を建設する計画を発表し、すでに竣工している。しかし、 同社は、特殊用途DRAM製品の試作を2018年第3四半期まで延期し、量産も2019年に延期している。DRAM製造技術は台湾UMCより導入しているというが、ファウンドリであるUMCは、小規模な組み込みDRAM製造の経験はあっても商用DRAM製造の経験はない。こちらもMicron との間に技術盗用の訴訟を抱えている。Micron Taiwanの社員がUMCの社員にDRAM製造に関する機密技術情報を渡し、それがJHICCに流れたとして、台湾の警察当局は、すでに複数の人物を逮捕している。

中国の国内NANDフラッシュメモリ業界では、2016年12月末にYMTCのNANDフラッシュメモリ拠点が起工し、3つの3D-NANDフラッシュ製造工場が3つの段階で順次構築されるよう長期計画を立てている。240億ドルもの巨額を投じると伝えられている。第1期ファブの建設は2017年9月に完了し、製造設備の設置は2018年第3四半期に開始する予定である。第1期ファブは本年第4四半期にも試作生産を開始する予定である。第1期ファブでは、当初は、32層MLC(2ビット/セル)3D-NANDフラッシュメモリを生産するとしている。TrendForceによれば、64層設計を完成させた後の状況に応じて、第2段階および第3段階のファブ建設とその生産計画を進めるという。3D-NAND製造技術は、米Spansion (現在は米Cypress Semiconductorに吸収合併)から導入しているとしているが、どう見ても競争力のある技術ではないだろう。

実際は、台湾、韓国、日本はじめ世界中の半導体技術者や経営幹部を一本釣りしたり、製造装置メーカーを通して技術収集したりしているとの見方が有力である。同社の親会社である紫光集団は、昨年、東芝メモリを買収しNAND技術導入を図ろうとしたが、経済産業省の反対で入札さえ断念せざるを得なかった。それ以前にも、米Micron Technologyに買収提案したが、米国当局の介入で買収はできなかった。現トランプ政権下では、米国メーカーの買収や技術導入は絶望的である。紫光集団は、上述の武漢以外にも成都や南京にも半導体メモリ工場建設計画を立ててはいるが、技術取得のめどが立っておらず、具体化していない。

中国勢の最大の課題は、最新製造技術や人材、知的財産権をいかに確保するかである。中国勢は、海外企業のM&Aによる技術導入の道が絶たれてしまったからには、海外の人材の一本釣りで技術を獲得するしかないだろう。台湾、韓国、米国の政府や先進企業は、この点に神経をとがらせている。日本に残された唯一のメモリメーカーである東芝も同様だろう。台湾では、最近、機密情報をもって(?)中国メーカーに転職する技術者や経営幹部が急増し、台湾政府は取り締まりを強化している。韓国政府も技術の海外流出に対する処罰を強化している。

このため、中国資本のメモリメーカーの計画は、最新技術取得の困難さで遅れがちであり、たとえ生産開始しても、立ち上がりには時間を要するだろう。フル稼働するのは2020年代にずれ込む可能性が高い。また、海外に販売しようとすると、先行各社の特許の壁が厚く、多額の特許使用料を支払わない限り多くの訴訟を抱えることになるだろう。中国政府は国内で半導体人材育成にも力を入れているが、これには時間がかかる。これらさまざまな課題を抱える中国勢がどのような戦略をとって半導体自給自足体制を早期に確立するか注目される。

Hattori Consulting International代表 服部毅

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