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参入障壁低いEVは若者にとって夢多き起業のチャンス

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オランダ南部に位置するアイントホーフェン市は、オランダを代表する世界企業フィリップスの発祥の地であり、人口当たりの特許出願件数が世界一(OECD調べ)のハイテク都市である。いわば、オランダのシリコンバレーだ。フィリップスから2006年に分離独立した車載半導体で世界トップのNXP セミコンダクタ―ズ本社所在地でもあり、近郊には世界最大の半導体リソグラフィ装置メーカーASML本社工場や富士フイルムの欧州研究拠点がある。

30年ほど前に、電気メーカーの研究者として当地を訪問した際には、ソニーとともにCD規格を提案し、飛ぶ鳥を落とす勢いのフィリップスの中央研究所やギガファブと呼ばれたDRAM開発・試作工場があったが、今年再訪したら、あたりの景色がすっかり変わっていた。それもそのはず、フィリップスの組織リストラで研究組織は世界に分散され、半導体メモリからの撤退でギガファブは取り壊されて、その敷地は民間デベロッパーに売却されていた。


図1 ハイテクキャンパス・アイントホーヘン(HTCE)全景 出典:HTCE

図1 ハイテクキャンパス・アイントホーヘン(HTCE)全景 出典:HTCE


いまでは民活のHigh Tech Campus Eindhoven(HTCE、図1)としてPhilips , Intel, IBM、ASMLはじめ世界の160社の研究部隊が結集し、オープンイノベーションを推進する研究団地となっている。今年に入り、自転車部品メーカーのシマノ(大阪府堺市)がHTCEに進出し、キャンパス内の英知を活用して革新的な製品の開発に挑む(図2)。オランダは、様々な起業支援プログラムや税制優遇で、世界一起業しやすい国と言われている。かつて、Applied Materialsと東京エレクトロンが合併した後で、本社はオランダに置くことになっていたことは記憶に新しい。HTCEには40社余りのスタートアップも入居している。


図2 HTCE内のシマノ欧州本社ビル。遠くに見える黒い高層ビルはASML本社。それを取り巻く白い建物群はASML研究施設および工場 出典:HTCE

図2 HTCE内のシマノ欧州本社ビル。遠くに見える黒い高層ビルはASML本社。それを取り巻く白い建物群はASML研究施設および工場 出典:HTCE


若者が相次いでEV起業
HTCEを中心にアイントホーフェンで、大学生が次々に電気自動車(EV)で起業している。欧州では、EUおよび各国政府を挙げてEVシフトが加速していることが背景にある。EVは、他業種にはまったく手が出せなかった、擦り合わせ技術の塊のような「内燃機関(エンジン)」を、容易に入手できる「電気モーター」に変え、自動車産業への参入の敷居が低くなってきている。当地でも、数名の若者が創業したスタートアップ(ベンチャー企業)がEVでビジネスチャンスをつかもうとしている。自動運転のEVで先行するGoogleも、元をただせば、米国スタンフォード大学の学生2名が共同創業した弱小ベンチャーだったから自然な流れだろう。

世界ソーラーカーレースで2度も優勝した地元の大学生集団、ソーラーチーム・アイントホーヘンの5人の若者が創業したLight Yearは、充電スポット不要のソーラーカー(太陽電池を電源とするEV、図3)のベンチャーだ。新たにデザイン中の普通乗用車タイプのソーラーカーを2019年に10台、2020年に100台販売する計画を立てているが、新車のデザインはまだ公表していない。


図3 世界ソーラーカーレースで優勝したソーラーカー。スポンサーのNXPのロゴも見える 出典:Light Year

図3 世界ソーラーカーレースで優勝したソーラーカー。スポンサーのNXPのロゴも見える 出典:Light Year


図4 2021年発売予定の完全自動超軽量EV試作車 出典:Amber Mobility

図4 2021年発売予定の完全自動超軽量EV試作車 出典:Amber Mobility


アイントホーフェン工科大学(TU/e)の4名の学生が設立したAmber Mobilityは、EVのカーシェアリングサービス企業である。ちなみに利用料金は12ユーロ(約1500円)/時である。現在は、人気のスポーティーなBMWのEV車体を使っているが、来年には、開発パートナーである米国NvidiaやMicrosoftなどの協力を得て独自の自動運転システムを搭載するため改造し、2021年には、カーボンファイバ素材を用いた、独自デザインの完全自動超軽量EV(低燃費のシェアリング専用車)”The Amber One”(図4)を実用化する計画である。所有せずシェアする時代の到来を先取りしている。アイントホーフェンから自動車の台数を減らして環境対策のモデル都市に使用するという狙いもある。

これらの学生起業家の出身母体であるアイントホーフェン工科大学(TU/e)では、大学名をもじったTU/ecomotiveという自動車クラブがバイオ複合材料を使って世界最軽量のEV(図5)を開発中である。


図5 バイオ複合材料を使った世界最軽量EV LINAの試作車 出典:UT/ecomotive

図5 バイオ複合材料を使った世界最軽量EV LINAの試作車 出典:UT/ecomotive


図6 蟻酸から水素を発生させて電力を得る機器を積んだトレーラを引くバス試作車 出典:FAST

図6 蟻酸から水素を発生させて電力を得る機器を積んだトレーラを引くバス試作車 出典:FAST


学生起業家の多くは、このクラブの出身で、その中には、ガソリンの代わりに人工合成で大量生産した蟻酸を使い、その分解で水素を発生させ250kWの電力を得て公共バスを動かそうという“Team FAST”(Formic Acid Sustainable Transportation、蟻酸を使った持続可能な運輸)がある。高圧水素タンクを積んだ燃料電池車より、安価で取り扱いが容易としている。蟻酸を電気に変える装置を積んだトレーラを引いている(図6)。学生たちは公共機関の環境対策まで考えている。

これら4例に共通しているのは、オランダやEU政府の厳しい環境規制に対応してEVを普及させ環境対応をさらに向上させようという思想だ。内燃機関のない、部品点数の少ないEVは、もはや自動車メーカーの独占物ではなく、しがらみのない、ベンチャー精神旺盛な若者にとって、夢多きビジネスチャンスそのものだ。

最後に、HTCE訪問でホストを務め、情報収集でもお世話になったBOM(オランダ・ブラバント州開発公社)のPeter Visser氏に感謝する。 

服部コンサルティングインターナショナル代表、服部毅

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