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東芝メモリを買収したい企業・しない企業の裏事情から見えてくる業界勢力図

5月19日に締め切った東芝のNANDフラッシュメモリ事業売却2次入札には、外資資系ファンドの米Kohlberg Kravis Roberts(KKR)と米Bain Capital、米半導体メーカーのBroadcom、台湾・鴻海精密工業の4陣営が応じたと報道されている。

しかし、実際には、2次入札に応じず、東芝のNAND事業売却を重大な契約違反として提訴している、東芝四日市工場の協業パートナー、米Western Digital(WD)が東芝本社と泥仕合を繰り広げている。

日本勢(産業革新機構と日本政策投資銀行)も、入札に参加しなかったのにもかかわらず、出資の意向を東芝に伝えたといわれている。入札者の一部と共同出資の相談を個別に密かに進めているとも、ルネサス買収の時のように国内各社に奉加帳を回して日の丸連合結成を目指しているが調整が難航しているとも、言われている。

正規の入札をしなかった者たちによる泥沼状態の場外乱闘は、経済紙の報道に任せておくとして、ここでは東芝メモリを買収したい企業や買収するのをあきらめた企業の裏事情から見えてくる世界半導体勢力図について考察してみよう。

米 Broadcom Ltd:同社は、米投資ファンドSilver Lake Partnersと組んで応札しているようだが、Western Digital は、Broadcomによる買収を強硬に反対している。なぜか?
Broadcomは、シンガポールAvago Technologies (もとは米HPの半導体部門、Bell研の流れをくむ米AT&Tの半導体部門が合併し、さらに元LSI LogicのLSIを買収した半導体企業)がBroadcom Corp.を買収して、買収された側の社名に変更してBroadcom Ltd.となり、急成長中のファブレスである。直近の2017年第一四半期世界半導体売上高ランキングでは、米Qualcommを抜き去って世界最大のファブレスにのし上がっている。世界MEMS企業ランキングでもRF MEMSが爆発的に売れたために世界第2位に急上昇して、今や飛ぶ鳥を落とす勢いだ。その勢いにのって東芝のメモリ事業も入手しようとしている。Avagoは、LSI買収直後に、フラッシュメモリ事業資産をSeagateに売却してしまっている。だから、Broadcomは決してWDとは競合関係にはない。

一方で、Silver Lakeは、2015年、Dellが世界最大の業務用ストレージ機器メーカーEMC(WDが今後強化したいデータセンタ・ビジネスではるかに格上の手ごわいライバル、現社名はDell EMC)を8兆円超というIT史上最高額で買収した際、組んだ投資ファンドだ。Dellの自社株買い増しやその他の買収には常にこの投資会社が絡んでいる。最近、Western Digital がDell EMCのジェネラルマネージャー(GM)を引き抜いてデータセンタ向けビジネスの責任者に据えたことが米国IT業界で話題になった。

Dellはもはや安物PCメーカーではない。多数の企業買収で守備範囲を広げ続けており、いまや年間売上高6兆円を超える総合IT企業だ。Silver Lakeの出資企業をたばねてDell・Dell EMC・Broadcom・東芝メモリという見事な垂直統合型エコシステムが完成すればIT ・半導体業界の勢力図が塗り替えられるだろう。

さらに、驚くことには、Silver Lakeでは元経済産業省通信機器課長の福田秀敬氏がアドバイザーを務めている。誰でも簡単にこの事実を確認できる。福田氏と聞けば、多くの人はあの国費315億円を投じたASPLAを思い出すだろう。2002年に福田氏が提唱して始まった“日の丸ファウンドリ”ともいえる国家プロジェクトだ。東芝が中心になって組織されASPLA(形態は株式会社)社長にも東芝出向者が就任した。しかし、結成3年余りでとん挫し、日の丸半導体復権に何ら貢献しなかった。なぜか、福田氏はいつの間にやら日本企業を買う側の陣営にいる。そのおかげでシルバーレイクと政府系資金の合従連衡が有利になるのではないかともっぱらのうわさになっている。

米 Micron Technology:今年初めには、東芝買収の最有力候補として名を連ねていたが、結局は入札しなかった。独占禁止法の審査が長引くことは必至で、東芝が原子力事業の失策で生じた多額の債務超過を解消せねばならない2018年3月までに決着がつきそうにないので、あきらめたのであろう。もしもMicronが、東芝メモリを買収すれば、エルピーダメモリ、東芝と立て続けに日の丸半導体メモリ技術資産を総取りすることになるところだった。Micron はかつてSanDisk買収をめぐってWestern Digitalと競って負けた企業であるが、もしもSanDisk買収に成功していれば、今回の東芝買収の状況は、全く違う景色になっていたかもしれない。Micronは、またしても東芝とは縁がなかったということだ。

そのMicron に今年のゴールデンウイーク明けに異変が起きた。よりにもよって昨年までSanDisk社長兼CEOで、東芝との四日市協業を17 年にわたり陣頭指揮してきたSanjay Mehrotra氏がMicronの社長兼CEOならびに取締役会メンバーに就任したのだ。同氏はSanDisk創業者の一人でもある。今後、東芝メモリを買収する企業がどこになるにしろ、新会社は、東芝メモリの実力と四日市工場の内情を知り尽くした新社長を迎えいれた、手ごわいMicronと戦わねばならなくなりそうだ。

韓国 SK Hynix:同社は Micron同様、当初から東芝買収候補に挙がっていた。実は、4月末に同社幹部が遅ればせながら東芝四日市工場を訪れ、SKグループ全体を統括する崔会長も自家用ジェットで隠密に来日し関係者多数と協議した。(実はもっと早く来日したかったが、Samsung社長同様、韓国大統領への収賄容疑で海外出国禁止命令が出ていたため、嫌疑が晴れる4月下旬まで日本に来られなかったという事情がある)。同社は、前から東芝と次世代半導体メモリの共同研究をしており、次世代半導体露光技術の共同開発契約もしている。独占禁止法を何とかすり抜けて、将来のためにも東芝とパートナーシップを構築しておきたいだろう。メモリの勝負は、最終的には、もはや誰でも作れる3D-NANDではなく、次世代メモリで決まるであろうから、SK Hynixも必至だ。

しかし、SK Hynixが買収に乗り出ると、独禁法に触れる恐れがあり、まともにやっても勝ち目はないということで、最近は、すっかり表舞台から姿を消して、米投資ファンドBain Capitalを前面に立てて交渉を進めている。身を捨てて実を取る作戦といえよう。

Bainといってもなじみのない読者も多いだろうが、最近では、大江戸温泉物語(お台場)や雪国まいたけ(新潟)などを立て続けに買収しているやり手のファンドである。現在、Bainは、東芝にMBO ( 経営陣が参加した買収 )を持ち掛けて東芝経営陣の関心を引こうとしているほか、政府系資金とも組もうとして協議しているようだ

中国 清華紫光集団:本当は世界で一番、東芝のNANDフラッシュメモリ量産技術を欲しがっているのは、このハイテク企業集団だろう。かつて、米Micron Technologyの買収や、Western Digitalへの資本参加を企てたが、共産資本による米国企業買収を阻止しようとする米国当局の妨害でいずれも失敗している。今回も東芝売却にぜひとも応札したかっただろうが、日本政府高官が中国への技術流出阻止を繰り返し発言しているので手が出せなかった。同集団傘下のXMCは、武漢に240億ドルかけて月産30万枚(300mmのウェーハ)3D-NAND工場を建設し2019年から量産開始することを計画している。最終的に月産100万枚に拡張する計画もある。紫光集団は、南京や成都にも巨大半導体ファブ建設を計画しているが肝心の半導体メモリ技術を提供してくれる大手半導体企業がいない。3D-NAND については旧Spansion(現在Cypress Semiconductor)から供与を受けてすでに9層まで完成し、32層に挑戦中と伝えられているが、実態は不明で、その技術内容は心もとない。それが証拠に、紫光集団は、台湾や韓国の技術者を次々と一本釣りでリクルートしてきたが、最近は東芝のOBや現役技術者に触手を伸ばしている。

成毛康雄東芝副社長は、以前「白色LEDは中国の安価な製品が市場を席巻したため、当社は事業撤退した。そうした傾向は、フラッシュメモリでも脅威になる」と発言していたが
(週刊エコノミスト 2016.10.25.号、p.27)まさに中国恐るべしという状況が徐々に構築されつつある。

台湾 鴻海精密工業:経済合理性に基づいて入札額で買収が決まるのなら、当然、鴻海が東芝メモリを手に入れるだろう。しかし、官邸や経済産業省が国家安全保安上の理由まで持ち出して技術の中国流出防止を唱えている限り、中国企業でもある鴻海は最も可能性の低い応札者に位置付けられているようだ。AppleやAmazonやシャープと共同出資の可能性もあり、東芝メモリを買収できたら米国に液晶工場進出のついでにNANDフラッシュ製造も進出するという。それがAppleの要請であるともいわれている。実現したら、トランプ大統領から名指しで褒められるだろうが、東芝を買収できる可能性は低い。

台湾 TSMC:初期には鴻海と共同で入札を考えていたTSMCは精査の結果、シナジー効果がないとの理由で、東芝買収をあきらめた。鴻海が東芝を買収できたら、そのあとで半導体製造の素人である鴻海にアクセスしても遅くはないと読んだのかもしれない。しかし、TSMCにとって、メモリービジネスはほんとにシナジー効果がないのだろうか。

現在、半導体業界は、メモリーバブルで沸いている。しかし、TSMCは、その好景気の蚊帳の外に置かれてしまっている(服部毅:「絶好調台湾TSMCにも死角」、週刊エコノミスト、2017.6.13号、p.31)。なぜならメモリは、IDMが製造しており、ファウンドリには注文が行かないからだ。TSMCは今期(2017年第2四半期)の売上高を前期比8〜9%マイナス成長と予測している。同社は、ファウンドリ業界の今年の成長率も下方修正している。もしも、メモリービジネスを持っていればリスクヘッジできたはずだ。

TSMCの張忠謀董事長は6月8日の年次株主総会で、「最終的に東芝への応札を断念したが、新たな機会をいつでも探し続けている。優良な対象企業はまだたくさんある」と述べて、(今までの方針を変えて)新規事業を買収する用意があることを明かしている。新分野を開拓のためのM&Aに熱心なIntelやSamsungに後れを取ったと反省しているようでもある。TSMCが、今後、ファウンドリビジネスから脱皮して半導体勢力図をどのように塗り替えるのか注目される。

Samsungは東芝を打倒するため、中国西安の先端3D-NAND工場にさらに1兆円規模の資金をつぎ込み増産の構えを見せている。中国勢は、中央政府や地方政府の資金援助で、需給バランスなどお構いなしにメモリ製造への“爆”投資を始めている。東芝メモリ売却が決着する頃には、半導体業界の景色がすっかり変わってしまっているかもしれない。

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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