ここがヘンだよ、日本の産業・ビジネス・企業――第1回

図　オランダ　アイントホーベン市の住宅街

なぜか。最近になってようやく各社がグローバル化を言い始めたからだ。セミコンポータルでは2008年からグローバル化を意識したセミナーを開催してきた。2008年3月のセミナー「SPIフォーラム：半導体エグゼクティブセミナー　新しい成長の時代を迎える半導体産業」では、グローバル化の先頭に立っていたIBMの方に講演をお願いした。この時は、なぜ今グローバル化の話が必要なのか、と疑問視する声もでていた。わずか3年前にはグローバル化の必要性を認めない日本企業が多かったのである。

最近、IBMはスマートプラネット構想を発表しているが、これはビジネス戦略をグローバルな視点で考えようという基本スタンスの延長である。2008年3月のセミナーでは、IBMがこの地球上でもっとも設計のスキルの優れた地域をデザインセンターの本部（HQ）にしようと考えた結果インドに決定した、という内容が盛り込まれていた。後日、講演者を訪問した際、IBMの考えはマクドナルドと同じですね、と言ったらその通りですと答えた。マクドナルドがなぜ100円ハンバーガーを提供できるか。彼らは今日、世界のどこのビーフが最も安いかを毎日調べ、そこから大量購入し、世界各地へ配送しているという。今日はオーストラリア、明日はブラジルかもしれない。毎日購入先を変える。この戦略は地球規模で考えた時のソリューションを見出すことで世界一安いバーガーを提供していることになる。

2008年の9月にはグローバル化そのものをテーマにして「SPIフォーラム：半導体エグゼクティブセミナー　グローバル化をどう進めるか」を開催した。なぜグローバル化が重要だと思ったか。海外企業を取材していてグローバル化、国境を超えることがごく当たり前だと感じたからだ。例えばSTマイクロエレクトロニクスはイタリアのSGS ATES社とフランスのトムソンCSF社が一緒になって1987年に設立されたが、同じ年に日本、米国、シンガポールにも現地法人を設立した。シンガポールは日本以外のアジアで初のウェーハ工場となった。

海外企業は他の国、他の地域にも製品を売るだけではなく、一緒に開発したり、部品や材料を調達したりしている。自国の中だけで決して留まっていない。日本企業は、グローバル化に備えようとか、グローバル化を推進するといって身構える。まだまだ当たり前にはなっていない。当たり前の企業の一つ、英国のイノビジョン（Innovision）社にも講演をお願いした。NFC（near field communication）チップのファブレス企業である同社が米国のブロードコムに昨年、買収されたことが私は悔しかった。なぜ日本企業が買わなかったのか。この円高で有利になったはずなのに、と地団駄を踏んだ（参考資料1）。

今、企業は世界を相手に競争している。だからこそ、世界の良いものを採り入れ、日本企業の良いものと組み合わせ、世界一良い製品を市場に提供することが勝つための方程式である。世界の良いものを採り入れるとは、ライセンスを受けることでもよいし、相手企業を買ってしまうのでもよい。要は自分にない、最良のものを組み込めば、少なくとも市場が求めるタイミングで優れた製品を提供できる。

先日、テレビに登場した日本電産の永守社長は、円高対策はどうしましたかと問われて、輸出は100億円損しましたが、海外企業を買いましたのでその分はチャラになりました、という趣旨の答えをしていた。円高は海外企業を買う絶好のチャンスである。国内雇用を守り、しかも円高対策にもなり一石二鳥というわけだ。さすが、と感心した。

このブログでは、日本のビジネスや産業、企業が海外と比べていかに特異かを、いくつかのテーマを選び、連載していきたいと思う。それは日本企業が早くグローバル化を当たり前と思うようになってほしいからである。それによって世界で勝てるようになると信じている。時期を見て、SPIフォーラム　グローバルセミナーをまた開催していくつもりだ。なお、セミコンポータルで開催したこれまでのSPIフォーラムのテキストは在庫がある限り下記の申込書にて購入できる。(1冊3000円、税込)
http://www.semiconportal.com/commerce/ebook/pdf/SPIForum_text.pdf

参考資料
1. セミコンポータルで紹介した革新技術ベンチャーが海外企業に次々買われる (2011/05/30)