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Mottスイッチを利用する不揮発性CeRAMセル動作を確認したSymetrix

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Mott遷移と呼ばれる、金属と絶縁体との変化を利用したメモリであるCeRAM(参考資料1)のデバイス研究が一歩進んだ。このメモリは、遷移金属酸化物の特性を生かし、高抵抗か低抵抗かの状態を作り出し、1と0に対応させている。300mmウェーハ上にメモリセルを作り出し、その動作を確認した。

CeRAM開発の米コロラド大学電気・コンピュータ学部教授兼Symetrix社のエグゼクティブ会長のCarlos A. Paz de Araujo氏(左)と高知工科大学名誉教授で元松下電子工業の加納剛太氏(右) 出典:Araujo教授より拝受

図1 CeRAM開発の米コロラド大学電気・コンピュータ学部教授兼Symetrix社のエグゼクティブ会長のCarlos A. Paz de Araujo氏(左)と高知工科大学名誉教授で元松下電子工業の加納剛太氏(右) 出典:Araujo教授より拝受


先月末に開催された「KIT/Symetrix International Symposium」(主催:京都工芸繊維大学)において、CeRAM(Correlated Electron RAM)の進展に関してSymetrix社が発表した。米コロラド大学電気・コンピュータ学部のCarlos A. Paz de Araujo教授はSymetrix社のエグゼクティブ会長も兼ねておりCeRAMの概論を述べ、同社の研究者であるJolanta Celinska氏が実際のデバイス作りと材料などについて紹介した。

一般に半導体は、金属と絶縁体の中間のエネルギーバンドギャップを持つ。ただし、金属はギャップゼロだ。半導体という材料そのものの電子の状態密度はn型とp型で一義的に決まってしまうが、CeRAMに使われる、遷移金属の酸化物は変わった性質を持つ。ただし、NiO(酸化ニッケル)やHfO2(酸化ハフニウム)、そしてペロブスカイト構造のYTiO3(チタン酸イットリウム)やPbNiO3(ニッケル酸鉛)など遷移金属酸化物だけでは、ほぼ絶縁体が多い。この遷移金属酸化物にC(炭素)をドープして格子欠陥を埋めるとエネルギーギャップ間のフェルミ準位に電子がたくさん集まった半導体的な状態を創出できる(図2の右図)。


Band structure of TMO in OFF state / Symetrix

図2 遷移金属酸化物だけ(左図)だとバンドギャップは広いが、Cをドープすると(右図)フェルミ準位に電子が集まり半導体的になる 出典:Symetrix社


CeRAMのCorrelated Electronとは、単体の電子ではなく、互いに相互作用している電子の集まりを意味する、強相関電子という名前に由来する。Symetrixエグゼクティブ会長のCarlos A. Paz de Araujo氏の巨視的な概念図(図3)での説明によると、電子が原子の周りに集まってとどまっていると電流が流れない絶縁体(高抵抗)の様相を示し、電子が均一に広がり伝導帯上に広がっていると電流が流れる金属(低抵抗)状態になる。


Carbon Doped Oxide

図3 原子の周りだけ局所的に電子が集まっていると絶縁体だが、全体的に均一に電子があれば金属的になる 出典:Symetrix社


材料そのものに電圧をかけると、当初は電流が流れていくが、ピークに達すると電圧を上げるのにつれて電流が下がり負性抵抗を示すようになる(図4)。下がり切ると再び電流が流れるという性質を示す。図4の縦軸は対数目盛で表現しているため、電流のピークと下がった時の底との間には2ケタ程度の差が現れる。


New CeRAM materials_universal switching / Symetrix

図4 低抵抗と高抵抗の状態を作り出す 出典:Symetrix社


この負性抵抗は二つの状態を表し、しかも低抵抗と高抵抗の1と0を表すことができ保つため、不揮発性メモリとして使える。いわば半導体のエザキダイオードのように振る舞う。ヒステリシスを描き、メモリ効果をもつ。

Symetrix社は、ダイオード型のCeRAMメモリセルと制御用トランジスタからなるマトリクス状のメモリセルアレイを300mmウェーハ上に試作した。1セルは直径93nmから47nmまで微細化できることを実証しており(図5)、高集積化にも対応できる。また、1.5Kの極低温から423K(150°C)まで動作すると共に、高抵抗と低抵抗の間のウインドウを24時間保つことを今のところ実証している。


1T1R Integration scheme / Symetrix

図5 300mmウェーハ上に試作したCeRAMセルの断面図・写真 出典:Symetrix


もちろん、これだけで実用化できる訳ではない。微細化した時のセル間干渉や製造しやすさ、あるいはFinFETとの共存など、これからのメモリに適したプロセス、デバイス、配線技術など、新しいメモリとしての試練が待ち構えている。このCeRAMは、Armからスピンオフした研究所Cerfe Labsも開発を続けており、原理が全く新しいメモリとして生き残るかどうかは多くの企業の参加がカギを握るかもしれない。


参考資料
1. 「Arm、強相関電子メモリ専門のIPベンダーをスピンオフ」、セミコンポータル (2020/10/06)

(2022/09/16)

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