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新型相変化メモリをTRAMとLEAPが命名

LEAP(超低電圧デバイス技術研究組合)が2013 IEDM(International Electron Devices Meeting)で発表した新しい相変化メモリ(参考資料1)は、TRAM(Topological switching RAM)と名付けることが決まった。GeTe/Sb2Te3超格子の中のGeの移動だけで低抵抗と高抵抗をスイッチングする。このカルコゲン材料による超格子を、トポロジカル絶縁体と物性物理学の世界で呼んでいる。

図1 低いエネルギーでスイッチング出来る新型相変化メモリ 読み出し電圧は0.4〜0.5V程度 出典:超低電圧デバイス技術研究組合

図1 低いエネルギーでスイッチング出来る新型相変化メモリ 読み出し電圧は0.4〜0.5V程度 出典:超低電圧デバイス技術研究組合


この新型の相変化メモリTRAMは、書き換え回数が1億回以上と劣化が少ない。しかも小さなエネルギーで高速にスイッチングできる。従来の相変化メモリだと、結晶とアモルファスを遷移するため、結晶を溶かすほど大きなエネルギーが必要だった。しかし、このTRAMは超格子構造の中のGe原子が移動することによって高抵抗と低抵抗の状態を作り出す。この二つの状態を遷移するためのエネルギーは小さくて済むうえに、移動時間は短い。すなわち高速動作が可能である。移動するエネルギーが少ないということは、信頼性を高めることにもつながる。つまり一石三鳥である。

図1は1トランジスタ+1抵抗の1ビットセルの図とTRAM動作を表している。従来の相変化メモリはGe2Sb2Te5の合金で出来ている点が大きく違う。新型メモリは超格子構造を維持している点が大きく異なる。低電圧動作ができない場合は合金相が出来ており超格子構造が崩れた状態になっている。超格子構造のTRAMは、書き換え電圧V(SET)とV(RESET)がそれぞれ1V、2Vと低い。読み出し電圧は0.4〜0.5V程度ともっと低い。

このほどLEAPは、TRAMの4ビットセルアレイを試作し、セル間干渉について調べている(参考資料2)。クロスポイントセルアレイとして、トランジスタではなく構造が簡単なダイオードを選択セルに用いた(図2)。セルを選択する場合にはワード線(WL)をローレベル(接地)にして、ビット線(BL)に読み出し電圧をかける。選択されたセルでは、ビット線から電流が流れ出し、抵抗が低いか高いかを検出する。このセルを順番に読み出すと図2のような選択動作を示す。LEAPは、1トランジスタ+1抵抗のセルを用いたMビット級メモリも開発中だとしている。


図2 1ダイオード+1抵抗の4ビットセル動作 出典:超低電圧デバイス技術研究組合

図2 1ダイオード+1抵抗の4ビットセル動作 出典:超低電圧デバイス技術研究組合


このTopological switching RAMは、Ge原子の配置により、電流が流れやすい箇所(エッジ)と流れにくい箇所(バルク)を発生・消滅させることで、高抵抗と低抵抗の状態を作り出すことから名付けた。さらに、この超格子材料はトポロジカル絶縁体とも言われている。トポロジカル絶縁体とは、表面のみ電気伝導性を持つ絶縁体のこと(参考資料3)。超格子結晶のバルクではk空間においてエネルギーバンドギャップが出来ているが、表面ではバンドが閉じるディラックコーン(Dirac cone)が出来る。ディラックコーンとはk空間でのエネルギー形状が円錐形をしていることを意味する。ここで、バンドが閉じるという状態は、伝導帯の円錐の先と価電子帯の円錐の先がくっついたような構造を意味している。

トポロジカル絶縁体は、Feなどの磁性元素を全く含まないカルコゲン材料系の超格子であるのにもかかわらず、磁性を示すという性質もある。磁場中ではSET電圧と電流の関係が、大きくシフトし、磁気抵抗が200%も変わるという。同じ組成のカルコゲン材料の合金では磁場中でも全く変化しない。今後、トポロジカル絶縁体のデバイスへの応用は、新しい分野を切り拓くことになりそうだ。

参考資料
1. 少電流・高速・1億回書き換え可能な相変化メモリをLEAPが開発 (2013/12/12)
2. 高浦、「相変化材料を用いた超低電圧・不揮発性デバイス」、低炭素社会を実現する超低電圧デバイスプロジェクト成果報告会 (2014/01/23)
3. 富永、「相変化材料におけるトポロジカル絶縁体の基礎研究及びデバイス応用」、グリーン・ナノエレクトロニクスのコア技術開発最終成果報告会、 (2013/12/17)

(2014/02/18)
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