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MEMSでバリコン、2mm3のリードスイッチを実現・商品化するベンチャーと老舗

かつて、バリアブルコンデンサと呼ばれる、ラジオチューナ用の可変キャパシタがあった。空気を絶縁体として用い、向かい合わせた金属板の片面だけを機械的に回転させることで金属板が向かい合う面積を変え容量を変えるというもの。MEMSを使って金属板間の距離を変えて可変キャパシタを実現する企業が現れた。リードスイッチ企業もMEMSで超小型にした。

図1 LTEの周波数帯に渡って従来のアンテナよりも効率の高い特性を得る 出典:Cavendish Kinetics

図1 LTEの周波数帯に渡って従来のアンテナよりも効率の高い特性を得る
出典:Cavendish Kinetics


米広報会社Globalpress Connection主催のE-Summit 2013では、MEMSバリコンを2008年創業のベンチャー、Cavendish Kinetics(キャベンディッシュ・カイネティクス)社が、MEMSリードスイッチを創立90周年以上のCoto Technology(コト・テクノロジー)社が、それぞれ発表した。企業の歴史として対照的なベンチャーと老舗がMEMSデバイスを開発しているのである。

CavendishのMEMSバリコンは、高周波チューニングするための可変キャパシタである。スイッチング接点をなくすと同時に損失を減らし、アンテナ効率の高いチューナを作ることが狙いである(図1)。例えばLTEの送信と受信の周波数帯を700MHz〜800MHzとして、損失が大きければ使える周波数のRFパワーが下がってしまい、つながりにくくなる。2Gのデジタル携帯電話から2.5G、3G、4G、高機能なスマートフォンとさまざまな周波数を使う機能が高まるにつれ、つながりにくくなる傾向は顕著になる(図2)。


図2 携帯電話の高機能化につれアンテナ性能のギャップは拡大 出典:Cavendish Kinetics

図2 携帯電話の高機能化につれアンテナ性能のギャップは拡大
出典:Cavendish Kinetics


これまでCMOS技術を使ったスイッチトキャパシタフィルタやいろいろな負荷を必要とするアンテナ設計では、損失が大きく、図2のような理想と現実とのかい離が進んできた。そこで、誘電率が1になる空気を絶縁体としてMEMSのキャパシタを開発している(図3)。金属板を向かい合わせてその距離に応じて容量を変えて行くため、ロスが少なく、スイッチも少ない。このためキャパシタのQ値はRF用に数百あるという。変えられる静電容量は5:1程度だとしている。


図3 上下電極間の距離を変えて容量を変える 出典:Cavendish Kinetics

図3 上下電極間の距離を変えて容量を変える 出典:Cavendish Kinetics


米国のLTEスマートフォンに使ったアンテナ(B17)実験では、700MHz、725MHz、750MHzに渡り、平均1.3dB利得が高まった。これは、+35%改善したことに相当する(図4)。


図4 アンテナの利得は平均1.3dB上がった 出典:Cavendish Kinetics

図4 アンテナの利得は平均1.3dB上がった 出典:Cavendish Kinetics


一方、創業90年を超えるCotoは、ガラス封止のリードスイッチを生産してきた。このほどMEMS技術を使うことによって、最も小さなリードスイッチを開発した。リードスイッチは、磁界を検出すると接点がつながることでスイッチ動作を行うデバイスである。従来と同様な接点動作をさせるためにMEMSで強磁性体接点を形成した。

リードスイッチは、磁界がかかる前までは接点がオープンになっているため、電流は全く流れない。待機時の消費電力はゼロである。磁界が加わって初めて接点が閉じる。

これまでのリードスイッチは小型のガラス封止リレーでも、長さは5mm程度あり、さらにリード線が伸びている。MEMSを使った新製品RedRockは長さ2mm、幅1mm、厚さ1mmと極めて小さい(図5)。


図5 ガラス封止のリードスイッチは今2mm3と小さくなった 出典:Coto Technology

図5 ガラス封止のリードスイッチは今2mm3と小さくなった 出典:Coto Technology


小型化を実現できたため、補聴器や内視鏡カプセル、ハンディタイプのインシュリン供給システム、クルマの油圧システムのオイル量検出などにも使えるようになる。


図6 セラミックウェーハによるMEMSとウェーハレベルパッケージング 出典:Coto Technology

図6 セラミックウェーハによるMEMSとウェーハレベルパッケージング
出典:Coto Technology


Cotoが使ったMEMS技術はシリコンをベースにはしていない。基板となるウェーハはセラミックである。その上に強磁性体となるNi、Fe、Co Rdなどのメタルからなる磁性材料を電解メッキで成長させる。ここにMEMS技術でアスペクト比の高い深いエッチングを行い、接点部分を形成する(図6)。スイッチの周囲には銅の壁を形成しておく。

接点部を設けたセラミックウェーハ基板の上から別のセラミックウェーハを、真空中で重ねることで、ハーメティックシール(気密封止)を行う。シリコンに当てはめればまさにウェーハレベルパッケージングである。

小型化することで、これまでにはないGMR(giant magneto resistive)素子やホール素子のような磁気センサも可能になる。新しい応用が開けると、同社技術担当VPのStephen Day氏は述べる。

(2013/04/26)
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