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National Instruments、SoCの待機時消費電力を測定評価するPXIモジュール

National Instrumentsは、電源を多数供給しなければならないSoCをテストするためのPXIモジュールを開発、データログ機能ソフトウエアFlexLoggerと併せてSemiconductor Power & Performance Validation Solutionを提供する(参考資料1)。スリープモードや低消費電力モードのSoCの消費電力を精度よく測定できる。SoC上に多数ある個々のIP回路の消費電力もIP回路ごとに測定できる(図1)。

NI’s New Semiconductor Power & Performance Validation Solution Simplifies Path to More Power Efficient ICs


半導体SoC(システムオンチップ)では、回路上の消費電力を下げるため、シリコン上の回路Aはオンにしておく間、回路Bは使わないからオフにしておく、あるいはスリープ状態にしておく、ということが頻繁にある。このため、個々の回路の消費電力を測定しておかなければSoC全体の消費電力を評価できない。しかも、各回路の同期をとる必要がある。通常SoCでは、電源は一つではない。多数の電源レールが存在する。機能ごとに最適な電源電圧に設定するからだ。

従来、消費電力を測定するためにオシロスコープを何台も揃えなければならなかった。もちろん、多チャンネルを測定できるオシロスコープも登場している(参考資料2)。しかし、それほど安くはない。4チャンネルのもっとも安い製品では290万円で、8チャンネルの最高性能となれば1640万円もする。もちろん、オシロと言っても周波数ドメインのスペアナ機能も付いており機能は多いが、用途的には信号を観察することに注力した測定器だ。

これに対して、NIのSemiconductor Power & Performance Validation Solution はPXIモジュールとFlexLoggerソフトウエアなどが付いた測定ソリューションとなっている。PXIモジュールは、測定機本体のシャーシに差し込む回路ボードであり、簡便だ。もちろん電圧あるいは電流だけなら安価なデジタルマルチメータもあるが、これは時間変化を観測できない上に取得した測定データを処理しなければならない。

これまで、SoCは消費電力を下げるため、アクティブ動作していない時は周波数や電圧を落とすようなスリープモードを備えている。ただ、内部の回路ごとに電源レールを備えており、それぞれの回路の動作時での回路を測定し対策を打っておかなければ、実際に使ってみてそれほど消費電力が低くなかった、ということになりかねない。SoC全体の平均的な消費電力を測定できるものの、個々に評価していなければ実際の使用状態に近づけない。中でも、多数の電源レールが同時にオンする場合に立ち上がり時間が大きくずれてしまえば誤動作を起こす恐れもあり、どの電源レールの立ち上がりが遅いのかを知る必要がある。

NIの消費電力の測定には、古典的なオームの法則を用いる。図2のように測定すべきDUT(Device under Test)はSoCだとして、そのアクティブ動作時のインピーダンスを1Ω、待機時のそれを100kΩとすると、電流を測定するシャント抵抗(センス抵抗ともいう)の値は、アクティブ時の抵抗値よりもずっと小さな抵抗値にしなければならない。等価的に直列抵抗となるからだ。そこで、シャント抵抗を10mΩとする。シャント抵抗の両端の電圧から電流を求めることになる。そうすると、電源電圧が3.3Vならアクティブ動作の電圧は33mVだが、待機時の電圧は330nVと極めて小さな値となる。


消費電力評価における2つの困難

図2 シャント抵抗で電圧を測り電流に換算する 出典:National Instruments


今回NIが提供するPXIe-4309微小信号計測モジュール(図1)は、nVオーダーのわずかな信号波形を測定できるように開発した高精度な測定器である。しかも最大8チャンネルの信号波形を、同期を取りながら取得できる。PXIシャーシには最大8枚のモジュールを差し込めるため、専用機とするなら64チャンネルの電源レールを同時に測定できることになる。

取得した電流波形は、データロギング専用のソフトウエアFlexLoggerを使って、測定すべきチャンネルを定義し、必要な電源レールを設定すると得られる(図3)。このFlexLoggerは専用のソフトであり、汎用のソフトウエアLabVIEWと違い、プログラミングする必要はない。ただし、半導体測定の専用ソフトでもなく、従来は自動車のエンジンの温度や振動、音響などのデータを表示するのに使われていた。


FlexLogger

図3 出力波形を見るFlexLogger 出典:National Instruments


NIのSemiconductor Power & Performance Validation Solutionは、半導体SoCの開発現場で求められる測定器となっており、実際の動作に近い消費電力の測定・評価時間の短縮ができるようになる。ヘテロプロセッサが集積されたQualcommのSnapdragonのようなアプリケーションプロセッサや、クルマのADAS用のSoCなどの評価に向く。電源電圧が複数あるようなSoCメーカーやセットメーカーなどが潜在顧客となりそうだ。次はソフトの使い勝手をさらに改良していくとNIはいう。


参考資料
1. NI’s New Semiconductor Power & Performance Validation Solution Simplifies Path to More Power Efficient ICs (2020/06/03)
2. Keysight、コストパフォーマンスの優れた8チャンネルオシロ/スペアナ (2020/05/21)

(2020/06/09)

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