Keysight、コストパフォーマンスの優れた8チャンネルオシロ/スペアナ
Keysight Technologiesが8チャンネルを同時に観測できるミッドレンジのリアルタイム(RT)オシロスコープを発売した。この測定器「Infiniium MXRシリーズ」(図1)は、1台で8台のオシロスコープの機能を果たす。オシロだけではなく周波数表示も可能なスペアナ機能、さらにロジアナ機能も持ち、最大周波数帯域6GHz、サンプリング速度16Gサンプル/秒、とほぼ万能な測定器といえる。
図1 8台分のオシロやスペアナ機能を持つミッドレンジの万能測定器 出典:Keysight Technologies
なぜ、KeysightはMXRシリーズを開発したか。最近はシステムのデジタル化がますます進んできたからだ。5GやWi-Fi 6、Bluetoothなどワイヤレスのシステムでのデジタル変調が常識になってきたため、RF(無線周波数)回路とデジタル変調を同時に観測したい、あるいはRF回路と電源のパワーインテグリティを同時にチェックしたい、信号波形がきれいになっているかを正確に早く分析したい、などの要求が強まっている。同時にすぐ観測でき、不具合を早急に解決できれば、Time to market(T2M)を短縮できる。
しかも、RFとデジタル、さらに多数の電源を同時に測定しなければならないシステムはますます増えている。システムに使う半導体チップの電源電圧が1.2V、3.3V、5Vだけではなく、それ以上の電圧も多く、それらが実動作で所望の波形を示しているかどうか確認しなければならないからだ。そのノイズ成分の解析に必要なスペクトルアナライザ機能もある。さらに今後、5Gは工場や流通、倉庫、港湾などさまざまな産業用の現場で必要になってくる上に、手軽に無線という要求にはWi-FiやBluetoothが、ウエアラブルから医療機器、産業機器、民生機器などあらゆる応用機器にやってくる。
これまでKeysightには、こういった要求を満足させる最高級のRTオシロ「UXRシリーズ」はあった。しかし価格が数千万円と高価で、手軽には購入できない。一方、InfiniiVision Xシリーズという汎用の安価なオシロもあった。しかし機能は不十分。手ごろな価格で最高級並みの性能・機能が欲しい、という要求を満たすのが今回のMXRシリーズである。
高性能・高機能ながら、手ごろな価格を狙ったMXRシリーズのカギを握ったテクノロジーはやはり半導体である。最高級機種のUXRシリーズで使われていた高速10ビットのA-DコンバータとASIC、さらに2Gポイント/秒の高速で波形を保存できるHBM(High Bandwidth Memory)メモリを採用したことである(図2)。
図2 最高級機種UXRシリーズで使われたチップを流用 出典:Keysight Technologies
ASICは、波形プロットの高速化を支援するアクセラレータであり、2GHzのデジタルダウンコンバータ機能も持つ。バンド幅はソフトウエアでアップグレードできるため、ユーザーはこのシリーズの中でも最も安価なシリーズを導入し、後で高性能機種をアップグレードすることもできる。ただし、ハードウエアも更新する場合は同社の工場内で行う。
MXRシリーズは、ボード内の8カ所の異なる電源やRFの状況を同時に高速(最大6GHz帯域)で観測できるだけではなく、ロジックアナライザやプロトコルアナライザ、ファンクションジェネレータの機能もあり、アイダイヤグラム、20万波形/秒を捉えることができる。このためにHBMという高速・大容量メモリを搭載している。8チャンネルの電源波形を見る場合でも帯域が広いため、わずかな立ち上がり波形のズレまでも観測できている(図3)。
図3 8個の電源波形を同時に見る 出典:Keysight Technologies
加えて、フォールトハンター(Fault Hunter)機能もある。これは、AI(機械学習)を使って正常な波形を学習させておき、その正常さを示すガウス分布から逸脱した信号が入れば異常だと検出するもの。正常か異常かを見分けるのは、ガウス分布から2σの範囲であれば正常というしきい値を設けている。
周波数帯域500MHzで、4チャンネルの最も安い製品が290万円、6GHzで8チャンネルの最高性能機種でも1640万円という。