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日本NI、フレキシブルな測定器で半導体市場へ本格参入

ソフトウエアでフレキシブルに機能や条件を変えられる仕組みが花盛りだ。通信モデムのハードウエアはそのままにして、ソフトウエアを変えるだけで各種の通信変調方式に変えられるソフトウエア無線(software-defined radio)をはじめ、SDN(software-defined network)が登場した(参考資料1)が、さらに測定器の世界でもSoftware-defined test systemが出てきた。

図1 NIがリリースしたSMU、PXIe-4139 出典:National Instruments

図1 NIがリリースしたSMU、PXIe-4139 出典:National Instruments


このほど、National Instrumentsはソフトウエアベースの測定器による、フレキシブルな定電圧源・定電流源となるPXIe-4139モジュールをリリースした(図1)。これはパワー半導体やPMIC(power management IC)、RFパワーアンプなど数A~20Aのパワーデバイスに向けたSMU(Source measurement unit)である。パワー半導体やPM(power management)IC、高輝度LEDなど半導体チップのテストに電源電圧や電流を印加して出力を測定する。その電源となるのがSMUだ。連続では最大20W、パルスでは幅400µsで最大500W(デューティ2%)まで電流・電圧を印加できる(図2)。


図2 PXIe-4139がカバーする電源供給範囲 出典:National Instruments

図2 PXIe-4139がカバーする電源供給範囲 出典:National Instruments


PXIe-4139ボードにはオシロスコープ機能も含まれており、入力パルスに対してパソコンなどでパルス波形を見ながら、テストに印加すべき最適なパルス幅を調整することができる。DUT(device under test)からの出力に容量性の負荷が含まれていると、波形がリンギングやオーバー/アンダーシュートなどで歪んでしまう(図3)。このSMUは、パルス波形を見ながらリンギングのない波形を確保でき、しかも波形の立ち上がりは速い。この性能を可能にしたのは、測定波形を取り込むサンプリングレートが1.8Mサンプル/秒と従来のSMUよりも高速になったためである。


図3 容量性の負荷の影響を最小にして波形を観測できる 出典:National Instruments

図3 容量性の負荷の影響を最小にして波形を観測できる 出典:National Instruments


差し込みボードは測定すべき項目や条件によって調整しなければならないが、その調整アルゴリズムをFPGAのパラメータに変換することで、ディスプレイ上のGUI操作画面を見ながら、調整項目を設定できる。具体的には、FPGAをデジタル領域の中で調整できるようにしておき、そのデータをアナログに変換することでDUTに正しい波形が得られるようにしている。

このPXIe-4139を用いれば、パルス波形がリンギングを起こし、パルス高の平坦な部分の時間が短くなってしまったようなパルスでも、波形を見ながら最適なパルスを簡単に確保できる。いわば、アナログ知識を総動員して容量成分、インダクタンス成分の原因追求をしなくてもよい。もはや勘と経験が多少なくても、大電流のパワー半導体を評価できるようになる。

実際にこのシステムを使ってみた、東芝マイクロエレクトロニクスのアナログシステムLSI統括部アナログシステム参事の松岡彰氏は、「PXIe-4139システムソースメジャーユニットを用いることで、オーバーシュートやアンダーシュートの少ない、ほぼ理想的な高出力定電流パルスが可能となります。その結果、アナログシステムLSIの評価・テストにおいて、精度を保ちつつ、定電流パルスによる測定を従来の1/5に短縮できました」と述べている。

NI社は、SMUをはじめとして、半導体を評価するための測定器に力を入れ始めている。この3月にはIEEE802.11acや帯域160MHzのWLAN、LTE-Aなど最新のワイヤレス通信デバイスのテストもできるような帯域200MHzで、250Mサンプル/秒という高速のサンプリングレートを備えた、ベクトル信号トランシーバ(VST)モジュールPXIe-5646Rもリリースしている。RFパワーアンプを低電力化するためのエンベロープトラッキングの性能も評価できる。

NIは、測定データの統計処理やビジュアル化などの機能をパソコンに持たせ、専用の測定ボードを筐体(シャーシ)に差し込むと専用の測定器ができる、というコンセプトを特長としてきた(参考資料2)。オシロスコープのボードを筐体に差し込むとオシロになり、スペクトルアナライザのボードだとスペアナになるという具合だ。筐体とパソコンをハードウエアのプラットフォームとすれば、ボードの差し替えだけで所望の測定器が出来上がる。このPXIe-4139モジュールを差し込む筐体として4Uで19インチのラックには、17枚のモジュールを搭載できる。パワー半導体の量産評価にも使えるという訳だ。

これまでNIは組み込みシステムの開発と評価のために、LabVIEWソフトウエアを通じて容易な開発システム作りに貢献してきた。組み込みシステムが1チップ化されるのに従い、半導体の世界でも同社の測定器モジュールだけではなく、設計支援システムLabVIEWも今後、必要とされるに違いない。

参考資料
1. SDNネットワーク向けの半導体製品発表相次ぐ (2014/03/27)
2. 拡張性を常に意識、テクノロジーを未来へ発展させるNIの成長戦略 (2012/08/27)

(2014/04/18)

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