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手のひらサイズのIRスペクトロスコピー、MEMS技術のおかげ

IR(赤外線)スペクトロスコピー(図1)が手のひらサイズになった。これは、英国のベンチャー、パイレオス(Pyreos)社が開発したMEMS技術によるIRセンサを使い、自社で開発したものだ。従来、IRスペクトロスコピー(分光分析器)はデスクトップのサイズしかなく、重量は数十kgもあり、しかも温度補償が必要であり、100万円以上と高価だった。

図1 手のひらサイズのIRスペクトロスコピー

図1 手のひらサイズのIRスペクトロスコピー


パイレオスが設計製造したIR スペクトロスコピーに使われたIRセンサは、MEMSメンブレン上にPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)薄膜を堆積したもの(参考資料1)。半導体技術を利用してMEMS構造を作るため小型かつ軽量にできる。さらに従来のIRセンサと違い、温度を一定に保つ恒温層はいらない。この手のひらサイズの中波長IRスペクトロスコピーは体積×重量は1/50、コストは1/10になるという。

PZT焦電効果を利用するIRセンサは、温度の変化によって分極が変わり、電荷量が変化するという原理を利用する熱電変換デバイスである。赤外線を発する熱がPZTで吸収されると、メンブレンが薄く、しかも空間が出来ているため熱が外へ逃げにくい。この結果、高い感度が得られる。しかも、電荷の変化を測定する訳だから外部に流れる電流は少なく消費電力も少ない。ドイツのシーメンスからスピンオフしたパイレオスは、79件の特許を取得している。

IRセンサはこれまで温度を測定したり、生物を見分けたりしてきたが、パイレオスは先週、千葉県幕張で行われたJASIS2012(旧分析機器展)においてこの手のひらIRスペクトロスコピーを見せた。IRスペクトロスコピーはガスでも液体でも固体でも物質固有の赤外線吸収スペクトルをみる訳だから、スペクトルの違いによってどのような物質であるを見分けることができる。特に気体のガスセンサはこれまで化学変化を利用するものが多く、信頼性が悪かったが、今回のセンサはIRの吸収スペクトルを調べるため、センサの劣化はまずない。このため信頼性は極めて高い。


図2 IR分光分析器の原理 出典:Pyreos

図2 IR分光分析器の原理 出典:Pyreos


物質の検出には、波長が5.5μm〜11μmというブロードな赤外光を試料に当て、連続的なフィルタによって赤外線を微妙に変え、広い範囲の赤外波長に対する吸収を調べる。この手のひらIRスペクトロスコピーでは図2のように、赤外線(Source)がまず試料の端から照射され試料表面全体に渡って吸収されながらもう一方の端から抜け波長可変フィルタを通してIR検出アレイに入る。この波長可変フィルタは図3のように、2枚のブラッグ反射板の片方を斜めにして光の光路長を変え、検出すべき周波数を変える。検出器はMEMS焦電センサが128あるいは256個並んだリニアアレイである。


図3 ブラッグ共振器を斜めにしてフィルタを作る 出典:Pyreos

図3 ブラッグ共振器を斜めにしてフィルタを作る 出典:Pyreos


スコットランドのエディンバラに本社を置くパイレオスは展示会において、本場スコッチウィスキーを検出部分に垂らしそのスペクトルをパソコンに表示した(図4)。ここで、グラスに開けて数時間放置したウィスキーとビンから開けたばかりのウィスキーを比較した。それぞれ赤と青の曲線で表している。


図4 展示会でデモしたスコッチウィスキーのIRスペクトル

図4 展示会でデモしたスコッチウィスキーのIRスペクトル


このIRスペクトロスコピーは風力発電のタービン回転軸に塗るオイルの劣化をモニターするという用途にも使えるとする。回転ギアボックスの中のオイルは長時間運転によって酸化してしまう訳だが、このIRスペクトロスコピーはそのオイル交換の適正な時期を監視する。化学センサと違い、劣化しにくいという特長を生かすことができる。

さらに、別の応用として、MEMSセンサを4個、前後左右に配置することで、センサの上を接触せずになぞるジェスチャー入力デバイスとしても使えることを今回の展示会で示した。

参考資料
1. 英ベンチャーがMEMS方式IRセンサをけん引、高感度の商品ラインを拡大中 (2011/12/28)

(2012/09/12)

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