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英ベンチャーがMEMS方式IRセンサをけん引、高感度の商品ラインを拡大中

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英国のベンチャーPyreos社がMEMSを使い、検出波長が0.7〜500μmと極めて広いIR(赤外線)センサの商品ラインを拡充している。欧州のIMECやLETIが今、研究開発しているテーマ(MEMSのIRセンサ)を先駆けた。MEMSメンブレンを使うと、検出する熱成分が逃げにくいため、感度が高く、冷却する必要がない。

図1 IRセンサの評価キットを手にするPyreos社CEOのJeffrey Wright氏

図1 IRセンサの評価キットを手にするPyreos社CEOのJeffrey Wright氏


2007年に設立、スコットランドのエディンバラ大学構内に設けられたスコットランドマイクロエレクトロニクスセンター(Scottish Microelectronics Centre:SMC)に本社を置くベンチャーであるが、すでに40社の顧客を得ている、と同社CEOのJeffrey Wright氏は述べる。すでに30もの製品ラインを揃えており、狙うべき応用分野も広い。人間や動物などを検出するIRセンサを生かし、ジェスチャー制御、セキュリティ、モーションセンサなどのほか、ガスセンサやスペクトロスコピーなどのセンサ製品も揃えている。

このMEMS方式は、近赤外(0.7μm〜2.5μm)から中赤外(2.5μm〜4μm)、遠赤外(4μm〜500μm)までカバーできる。製品によってそれぞれの波長領域を利用する。MEMS技術で加工する薄膜は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)結晶の焦電効果を利用する。焦電効果は温度変化によって電荷を生じる。発熱体があれば、温度変化を検出し動物を検知するセンサとして使える。動物は30~40℃という一定の温度を発しているからだ。

従来のPZTは、厚さが100μm程度のセラミック構造をしており、多結晶構造であり熱を吸収する特性が十分ではなかった。また、使う場合に冷却を必要とすることが多い。今回のMEMS構造は、シリコン基板を利用しており、MEMS薄膜の厚さは1μmしかないため熱を十分吸収でき、しかも感度が高いという。例えば2チャンネル入力の焦電センサの例では感度は150,000V/Wという。厚さ1μmの薄膜はスパッタリング法で作製するが、従来とは違う結晶相を作り、感度の高い特性を得ていると説明する。しかも、薄膜の制御性は極めてよく、熱検出器としては変形がなく、振動にも強く、ノイズが小さいとしている。このデバイス構造と製造プロセスに関してPyreosは特許を取得している。

一般にMEMS技術の特長は、モノリシックに多数のセンサ部分を製造できることである。このため同社の製品には単体のセンサから512個のラインセンサ、4×4のエリアセンサなどがある。解像度を求める場合にはラインセンサを使い、スキャンして画像を構成する。


図2 FTIR用のセンサはTO-39パッケージ 出典:Pyreos

図2 FTIR用のセンサはTO-39パッケージ 出典:Pyreos


応用分野は広い。波長領域が広いからだ。例えば、FTIR(フーリエ変換赤外線分光光度計)に応用する場合、ZnSeレンズを使い0.7~20μmのフラットな波長の分光特性を得ている(図2)。このシングルセンサチップはTO-39キャンタイプのパッケージに封止されている。パッケージのステム(台座)上にICアンプを搭載し、CRのフィードバック回路を使っている。センサ部の直径はレンズの直径と同じ3.5mm。冷却装置なしで-20〜+70℃の温度範囲で動作できる。このセンサを使えば、超小型のFTIR装置ができる。

産業用途での例として、風力発電用タービンのオイルやガスの検出や、血糖値の測定やグルコースモニター、石油化学や食品加工などのモニタリングにも使えるとしている。特に、船舶や飛行機、風力などタービン動力内にあるギアボックスがオイルの劣化や不純物粒子の混入などによって故障しやすくなるが、中赤外波長のIRセンサではこういった問題を解決できる。ここでもFTIRのように物質特有のスペクトラムを検出することで、混入や変性を特定する。医療関係でも唾液や尿、血液などから異常を検出できる。

同社はベンチャーながら、センサと光源、その他の部品を搭載した評価キットやソフトウエアなどを顧客に提供している。

エディンバラの本社にいる社員は18名。SMCにはMEMSの製造試作工場があり、6インチウェーハを使って製造する。ただし、規模はそれほど大きくないため、量産にはファウンドリを利用する。MEMSファウンドリパートナーとして3社、パッケージングパートナーとして4社持ち、製品ラインの拡充に利用する。中には200万個/週の生産能力を持つパッケージングパートナーもいるという。ベンチャーのため製造ラインを拡大できないが、アウトソーシングを拡大している。

この技術は、ドイツのシーメンスのIRセンサ部門を買い取ったものだが、当時シーメンスはパワーエレクトロニクスに注力し始めていた。シーメンスは今でも株主の1社である。今年に入り2度目のファイナンシングを行ったが、今回は日本の三菱UFJも出資し、株主となった。売り上げはまだ小さいが、そのうちの20%は日本市場から来ており、日本にも熱い視線を送っている。

(2011/12/28)

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