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英国特集2010・ケンブリッジ大学、実用化に向けた大面積デバイスを研究中

英国ケンブリッジ大学には、物理学で高名なキャベンディッシュ研究所がある。その物理学の研究所と電気工学科が協力して、大面積エレクトロニクスの開発を行っている。プラスチックエレクトロニクスはそのテーマの一つだ。研究の主体となる組織がCIKC(Cambridge Integrated Knowledge Centre)である。

英ケンブリッジ大学CIKC

英ケンブリッジ大学CIKC


英国政府には、大学の研究や技術分野をビジネスにつなげるための組織がある。物理学と技術工学分野において、EPSRC(Engineering & Physical Sciences Research Council)と呼ばれる組織が英国の大学の研究に資金を提供する。ただし、ビジネスにつなげるための研究に限られており、大学の研究が社会経済活動に直結するようにとの配慮からきている。CIKCが担う研究開発レベルは、米NASAが定めた、以下のTRL(製品化までに準備すべき技術レベル:Technology Readiness Level)でいえば、レベル3とレベル5の間、すなわち科学の検証から試作品のデモまでをケンブリッジ大学CIKCが担当する。


TRL(製品化までに準備すべき技術レベル)

TRL(製品化までに準備すべき技術レベル)


EPSRCは大学に対して、実用化するための資金を、5年間の期限付きプロジェクトとして提供する。提供を受けるCIKCは、産業界と大学双方からの専門家や研究者、潜在的な顧客、使用するスペース、起業するための環境などを統合してまとめる。CIKCは技術ロードマップや見通しを定義し、技術プラットフォームを提供し、技術的に可能であることを実証する。さらにビジネスをサポートする。「CIKCではEPSRCの資金をすでに3年に渡って受けており、残り2年となっている」とCIKCディレクタのChris Rider氏は述べる。


英ケンブリッジ大学CIKCのディレクタ、Chris Rider氏

英ケンブリッジ大学CIKCのディレクタ、Chris Rider氏


CIKCの技術テーマは、低温プロセスで作る大面積のエレクトロニクスとフォトニクス、そしてLCOSのような従来基板上に別の材料やデバイスを形成する新プロセス技術である。具体的には太陽電池、ディスプレイ、照明、スマートパッケージング(包装紙にセンサーを搭載し包むべき対象物の情報を読む)、スマートウィンドウ(ガラス窓表面に電子回路を形成し情報を埋め込む)、RFID、センサーシステム、光配線などがある。これらは印刷技術すなわちプリンティング技術で形成する。もう一つのLCOS(Liquid crystal on silicon)技術では、シリコン上に形成した液晶にホログラムを作製し、位相変調をかけて液晶すなわち偏光素子に画像を埋め込んでおく。一見すると液晶画面上はノイズのようになっており画像は見えない。この液晶に光を当て、位相変調かけて復調することで画像を作るというディスプレイデバイスだ。詳しくは以下の記事を参照。

具体的なプロジェクトは、CIKCだけではなく、さまざまなパートナーズと、資金問題も含め組んでいる。フレキシブル基板上に作るプラスチック太陽電池の開発や、有機TFTトランジスタ、透明な基板上に作る透明導体や無機TFTトランジスタ、安定で安いポリマーを利用した光配線などのテーマを進めており、すでにフェーズ2を過ぎたところだという。


フェーズ2のテーマ

フェーズ2のテーマ


印刷技術を主体に作る場合でも0.1μmを切るような微細なゲート長を実現する、セルフアラインメント方式のソース、ドレイン形成技術をすでに開発している。これは金のナノパーティクル(微粒子)を含むインクでドレインを形成した後に乾燥させ、濡れ性の高い材料でその上を覆う。そして同様のインクをドレイン領域に重なるように垂らしてソース領域を形成し、乾燥した後にやはり濡れ性の高い材料で覆うと、ソース-ドレイン間隔が50〜400nmと微細なFETが出来上がる。チャンネル長200-400nmのFETを試作した例では寄生容量が0.3〜0.6pF/mmと小さくなったため、5V動作で最大動作周波数は1MHz以上、という実験結果だった。


Performance enhancement by downscaling


また、HiPZOTプロジェクトでは、ZnOトランジスタ(n型)を基板温度50℃以下のRFマグネトロンスパッタリングで形成し、10cm2/Vsとプラスチックベースのトランジスタよりも1ケタ高い電子移動度を得ている。

CIKCは、フェーズ3でのプロジェクトに参加し、コラボレーションする相手を探している。

(2010/05/17)

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