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FPGAは大規模から中、そして小規模の回路まで需要は大きい

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同じFPGAメーカーでも狙うべき応用によって、半導体への要求と、導入するソフトウエアが全く違う。最近発表のあった3メーカーの新製品が対照的だ。XilinxはハイエンドのHPCやスーパーコンピュータのような高速演算を狙い、Lattice SemiconductorはエッジAIを狙う。国内でもルネサスは、買収したDialogのもつ小規模FPGAビジネスを開始する。

ザイリンクス史上最高性能のアクセラレータ / Xilinx

図1 大きさ半分で同じ性能、消費電力が1/2のハイエンドFPGA Xlinx Alveo 出典:Xilinx


HPC(High Performance Computing)の分野では、精密なシミュレーションをこれまでよりも少ない消費電力で高速に演算することが求められている。オーストラリアの国立研究所CSIRO(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation)では宇宙からの信号を1km平米の土地にアレイ状に13万1000台設置したパラボラアンテナで受信し、宇宙のナゾを解明しようと取り組んでいる。アンテナからのデータを集約し、420台のXilinx Alveo U55Cを用いて、大量の観測データを処理する。フィルタリングと前処理という大規模な演算タスクをリアルタイムで実行するという。

Xilinxが手掛けてきたFPGAは常にハイエンドのもので、今回はアクセラレータカード(図1)ながら、長さを従来最高性能のAlveo U280の半分に小さくした。このことで、FPGAの容量ともいうべきルックアップテーブルを2倍の2308K個をコンピュータに搭載できるようになる。特に高密度のストリーミング データや、高 I/O 算術演算、ビッグデータ分析や AI アプリケーションなどのスケール拡大を必要とする大規模な演算問題に特化した設計となっている。

Alveo U55CにはHBM2のメモリを16GB搭載しており、総帯域幅は460GB/sとなる。同社でこれまでの最高だったAlveo U280の半分の大きさながら同等性能で、消費電力あたりの性能はほぼ2倍となっている。

LatticeのFPGAは、エッジAI応用を狙ったもの。すでにSensAIと呼ぶ、AIソフトウエアスタック(図2)を提供してきたが、同社のFPGAであるLattice Nexusシリーズを搭載した開発ボードにAIの推論機能を埋め込むことで、ユーザーが欲しいAI機能を実現できる。LatticeのFPGAは、XilinxやIntel(旧Altera)ほどロジック数は多くなく、むしろ低消費電力であることを特長としている。


LATTICE sensAI / Lattice Semiconductor

図2 ビジョンAIに特化した開発ツールSensAI 出典:Lattice Semiconductor


例えばパソコンやスマートフォンでプライバシー保護のため、操作中に他人が近づいてくると自動的に画面をぼかす機能を設けたり、操作せずに視線がそれていると、ディスプレイを暗くしてバッテリ寿命を伸ばしたりすることが可能になる。

Lattice SensAI Studioを使って、AIを埋め込む場合、クラウドなどから学習済みにデータやモデルを選択し、自分の応用に合うように転移学習させ、自分の応用のデータを取り込み、コンフィギュレーション、そして簡単なトレーニングを行い、AIの最適化を図る。この一連の動作を可視化するSensAIのダッシュボードで確認できる(図3)。

Lattice sensAI Studio / Lattice Semiconductor

図3 クラウドの学習データからソフトウエアを移植してAIチップを最適化 出典:Lattice Semiconductor


学習済みのデータは、例えばTensorFlowのフレームワークからAIデータを持ってくる場合は、TFデータをTFLiteデータに変換し、さらにC++コンバータでC++言語の変換した後で、CPUにソフトウエアを組み込むためのソフトウエア開発ツールLattice Propelを使ってプログラムを作成、デバッグやJTAG検査などを経て、FPGAハードウエアに埋め込む。その場合のプロセッサとしてRISC-Vコアを用いる。LatticeのFPGAにはプログラム可能なルックアップテーブルだけではなく、機械学習専用回路(MAC演算器+メモリ)やビジョン処理回路などを集積している。

Latticeによると、複数の物体を低消費電力で分類できるようになる。33fps(フレーム/秒)で224×223画素のフルカラーディスプレイから分類する場合でも、FPGAのCertusPro-NX(Nexus)を使って消費電力は400mWで済むという。

国内でも、ルネサスエレクトロニクスは、Dialog Semiconductorを買収したことによって、FPGAビジネスを得た。Dialogは、2017年に小規模FPGA「GreenPAK」を提供するSilego社を買収している。SilegoのFPGAは、1Kあるいは2K程度のルックアップテーブル(LUT)を集積しており、5000ゲート以下のロジックを対象としている。

今回、開発環境も提供し、VerilogベースのHDLモードと、回路図ベースのマクロセルモードの2種類を提供する。小規模のロジックを組むシーンとしては、ベースとなるプロセッサは変えずに機能をハードウエアで追加する場合や、ボードに散らばるディスクリートやCMOSロジックなどを整理する場合などがある。意外と需要は大きく、ちょっとした集積が必要な回路向けにGreenPAKは10億個以上の出荷実績がある。

参考資料
1. 「企業買収の相乗効果を2年以内に示したDialog」、セミコンポータル (2019/05/23)

(2021/11/25)

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