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ドローン、ロボットを動かすパワー半導体・センサの集合展

4月下旬に東京ビッグサイトで開かれたTechno-Frontier 2016では、パワーデバイスのさまざまな応用、使い勝手よく動かすためのドライバ、パワーで動くロボットやドローンなどの制御性を上げるためのセンサ、など新しい応用と動力技術が登場した。もともとこのイベントはモータ制御やパワー半導体、電源などに集中しているが、新しい応用を指向する。

図1 Techno-Frontier 2016にはドローンやロボットなど動く応用に人が集まった

図1 Techno-Frontier 2016にはドローンやロボットなど動く応用に人が集まった


小電力から中電力に力を入れているON Semiconductorは、ロボットや産業機械の制御に欠かせないステップモータ用のドライブに力を入れている。ステップモータは、回転するロータに永久磁石、モータ周囲の固定ステータ部分に複数のコイルを配置して中心軸のロータを回す訳だが、On Semiは、回転角の基本的なステップ角を1.8度ずつサンプリングしている。

これまでのステップモータは、マイコン不要で制御が楽でコスト的には有利だが、電力効率が悪く、最近の省エネ化に逆行しており、センサを用いるブラシレスモータなどに置き換わりつつあった。そこで、ON Semiは電力効率を上げるため、パルスの定常電流を下げる工夫を行った。通常、1ステップの始動時には大きな電流が流れ、逆起電力が生じるが、その誘起された電圧を検出し参照電圧と比較し、パルスの定常電流値を下げる。これを1ステップごとに行うため、ステップ数を上げて回転を増していっても定常電流値は大きくならない。このようにして消費電流を下げ、効率を上げるようにした。


図2 ON Semiconductorのステップモータで鎖を持ち上げるデモ

図2 ON Semiconductorのステップモータで鎖を持ち上げるデモ


今回ON Semiは、LC898240と呼ぶ、効率の高いコントローラ製品と、その応用例としてステップモータで鉄の鎖を持ち上げるデモを行った(図2)。1/2から1/16までのステップに対応するだけではなく、SPIデジタルインタフェースでレジスタを設定でき、最大9パターンの加速シーケンスを内蔵している。これらの設定データを保持する64KビットのEEPROMも集積した。このドライバを耐圧60V、電流容量10〜20A程度のMOSFETに接続、モータを駆動する。


図3 小型掃除機のモータに直結できるON Semiconductorの制御基板

図3 小型掃除機のモータに直結できるON Semiconductorの制御基板


ステップモータは、高速回転が得意ではないが、回転を目的とするブラシレスモータをドライブするパワーMOSFETの3相フルブリッジICであるIPM(Integrated Power Module)と、それを制御するためのコントローラLV89xxもON Semiは展示した。小型掃除機用のモータコントローラとして掃除機の円筒形の筐体にすっぽり入る円形のプリント回路基板にモータと直結するほどの大きさに収まる(図3)。モータとの距離が縮まったため、ノイズを発生しない回路基板となったという。

Siではできないような高耐圧・低オン抵抗のパワーFETをSiCやGaNなどで実現しようとする動きがここ1〜2年止まっている。単価が高く、しかも使いづらいためである。高温動作に耐えられる分、製造が容易ではないSiCやGaNは、どうしてもコストアップになる。
そこで、コストダウンでき、しかも使い勝手を改善するために、パワーFET部分を単体ではなく、ゲートのドライブ回路も一つのパッケージに収めてしまおう、という考えだ。米Texas InstrumentsがFETをドライブするゲートにはPWM(パルス幅変調)制御が多いため、そのままPWM信号を直結できるように標準的な8mm角のQFNパッケージに収めた(参考資料1)。パワーFETのゲートへの高速信号処理技術を考慮する必要はない。

Tech-Frontierでは、ロームがSiCパワーMOSFETにゲートドライブ回路を集積したAC/DCコンバータ制御ICを開発中であることを明らかにした。集積したパワーMOSFET(図4)の耐圧は1700V、定格電流は4Aという特性で、電源やモータ制御を狙ったもの。同様な電圧を利用する応用では、SiパワーMOSFETを2個縦積みにしなくてはならず、それも別々なパッケージに入っていると、ゲート容量やボンディングワイヤーによるインダクタンスの影響によってリンギングやノイズを発生することがある。そのための対策や、保護回路の挿入など、かなりのアナログ回路技術が必要になる。


図4 ロームのゲートドライブ内蔵のSiCパワーMOSFET 大きな3本のアルミ電解コンデンサと黄色のトランスの谷間にあるTO-220のパワーMOSFET(赤い指でも示している)

図4 ロームのゲートドライブ内蔵のSiCパワーMOSFET 大きな3本のアルミ電解コンデンサと黄色のトランスの谷間にあるTO-220のパワーMOSFET(赤い指でも示している)


ドライブ回路も集積していれば、パワーFETとの距離が近づくため、リンギングやノイズはかなり緩和される。また、SiCパワーMOSFETには、あまり大きなゲート電圧をかけられないため、それを抑えるためのゲートクランプ回路も集積している。このため使い勝手はかなり良くなるはずだ。標準的なTO-220パッケージに2チップを入れている。外付け部品の数や手間だけでもSiとほぼ同程度の価格を目指す。寄生容量やインダクタンスがないため、すぐに使えるようになる。今年中の製品化を狙っている。

また、ロームは、SiCパワーEFTを日新技研に納め、鉄を溶かすための200V/5.5kVAの高周波電源において従来のSi IGBTと性能を比較した。400グラムの鉄を溶かす場合、Si IGBTでは732W/hのエネルギーを645秒間、加えたが、SiCパワーMOSFETだと653W/hのエネルギーを当て586秒で溶けたという。すなわち、消費電力にして、約20%削減したことになる。

ロームは、SiCでなければ実現できないような超高圧のプラズマ発生器向けのデモも見せた。これは水中でプラズマを発生させる用途に使われ、SiCパワーFETが入手できない場合は真空管を使ってプラズマを発生させていた。2万Vで5kHz〜10kHzのパルスで、立ち上がり/降下のパルスを200nsで切らなければならないからだ。真空管は3年程度しか寿命がなく、しかも1本300万円もするという。SiCパワーMOSFETだと24個直列接続するが、半導体接合が劣化しないため寿命が長い。


図5 Bluetooth Meshをスマートホームで応用する例を示したSTMicorelectronicsのブース

図5 Bluetooth Meshをスマートホームで応用する例を示したSTMicorelectronicsのブース


STMicroelectronicsもSiCパワーMOSFETを製品化しているが、Techno-FrontierではパワーよりもIoTを意識したソリューションを提案した。まずはBluetooth Meshだ(図5)。従来のBluetoothは最大8台までしか端末同士をつなげられないツリー状のネットワークだが、Bluetooth Meshだと約6万4000台のセンサをつなげられる。スマートホームでの各部屋や各ランプに変えられる調光や、加速度・圧力・ジャイロなどのセンサを搭載したIoT端末をさまざまな場所に取り付けるような応用に向く。低消費電力のBluetooth 4.1に準拠しながらセンサからセンサへとデータを送り最後のゲートウェイからインターネットやイントラネットにつなげる。Bluetooth MeshはこれからのIoTに向けた新しい規格である。

STは測距センサにも力を入れている。今回展示した製品は、レーザーパルスを照射し、その反射パルスの到達時間から距離を推定するもの。カメラのオートフォーカスや、ジェスチャー用のセンサ、さらには、ドローンの軟着陸制御やロボットアームの位置制御、など応用は広い。新製品VL53L0Xは4.4mm×2.4mmの表面実装パッケージに入っている。波長940nmの赤外光を50Hzのパルスで発射し、最大2mの距離まで測定できる。しかも色が異なる壁が連続してあっても色を補正する回路を内蔵しているため精度は低下しないとしている。ICパッケージ内にレーザー、受光器、マイコン、メモリなどを集積している。


参考資料
1. TI、満を持してGaNパワーFETに進出、ドライバをパッケージに集積 (2016/04/26)

(2016/05/10)

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