Semiconductor Portal

» セミコンポータルによる分析 » 技術分析 » 技術分析(半導体応用)

TI、満を持してGaNパワーFETに進出、ドライバをパッケージに集積

Texas InstrumentsがGaNパワーFETに進出した。これまでのGaNやSiCのFETは、少数キャリヤの蓄積時間がないため高速に動作するが、急峻な立ち上がりゆえにリンギングを起こしたりノイズを発生させたり、ゲートドライブ回路の設計が難しかった。TIの新製品(図1)はゲートドライブ回路まで集積したため、使いやすいパワーデバイスとなった。

図1 8mm角のQFNパッケージに封止されたGaNパワーFET 出典:Texs Instruments

図1 8mm角のQFNパッケージに封止されたGaNパワーFET 出典:Texs Instruments


GaNやSiCは高速・高耐圧・低オン抵抗・高温動作を売り物にしてきたが、コストが高く、なかなか採用されてこなかった。Infineon Technologiesは、バルクのSiC JFETを実用化するためカスコード接続によりノーマリオフ動作を可能にし、使い勝手を上げてきた。しかし、あまり売れていないようだ。その原因はコスト高に加えて、使いにくさにあった。Infineonに限らず、ノーマリオフ動作のSiC MOSFETでさえ、ゲート電圧に上限を設けるといった使いづらさを示してきた。それは、ゲートドライブ回路とパワートランジスタ間の浮遊インダウタンスや浮遊容量などが加わり、ノイズ発生や立ち上がり電圧/電流のリンギングなどが起きるためだった。

そこで、TIはGaNパワーFETを設計する上で、ゲートドライブ回路とパワーFET部分を1パッケージ内に組み込むことにした。少なくとも配線が短くなる分、浮遊インダクタンスや浮遊容量は減る。それだけではない。チップ間の接続にボンディングワイヤを使って短縮した上に、パッケージ内の配線を薄く太いメタルを用いてインダクタンスを減らせる。こうすればノイズの発生やリンギングを抑えられる。

また、TIがSiCではなくGaNを選んだのは、Siウェーハ上にGaN層を形成できる点や、SiCほど高温のプロセスを使わなくて済むという製造上のメリットがあるためだとしている。製造上のメリットは低コストで済むという意味である。このため、GaN-on-Si構造を使った。耐圧は600Vで、オン抵抗は70mΩと低い。このGaN FETとゲートドライバ回路を8mm×8mm×0.9mm(厚さ)のQFNパッケージ内に集積している。ピン配置は図2のようになっている。


図2 GaNパワーFET新製品LMG3410のピン配置 出典:Texas Instruments

図2 GaNパワーFET新製品LMG3410のピン配置 出典:Texas Instruments


SiCでは耐圧が1200V以上、GaNだと600~1200V、600V以下はSiのIGBTなどが向くと言われているが、応用分野はこの傾向に沿った、すなわち耐圧600Vをベースとする電源回路やモータドライブ、3相インバータなどが視野に入っている。テキサス州のダラス工場で製造する。今回GaNパワーFETの商用化に踏み切るため、TIはさまざまなデバイスの信頼性試験を行い、延べ300万時間というデバイス・時間のテストを繰り返してきた。しかも、JEDECで規定している基準よりも厳しいという。

今回の新製品のキモは、ゲートドライブ回路にもある。例えば電源回路では、アナログ方式にせよデジタル方式にせよ、PWM(パルス幅変調)制御がよく使われているため、PWM信号を入力できるようになっている。パワー半導体の役割は大電力をオンオフのスイッチングする用途が多いため、単なるゲートドライブだけではなく、スイッチングによる過電流の保護や過熱保護、電圧降下防止のロックアウトなどの各種保護機能も集積している。しかも、スルーレートを25~100V/μsの範囲で変えることができる。

応用例として、TIは電源の例を示した。100W以上の電気製品の電源にはノイズとしての高調波を抑制することがマストになっている。このため、力率改善回路(PFC)を搭載して入力の正弦波を整えた後、LLC電流共振型のスイッチングレギュレータ回路を設けている。このGaN FETはPFCとLLCにも使われる。TIは新製品LMG3401を使った1kWのPFCを開発しているが、そのピーク効率は99%に達している。デバイスの全高調波歪は従来品の半分だとしているが、数字そのものは明らかにしていない。

TIはデバイス単体では当分販売せず、評価ボードとして同社のオンラインショップTI Storeを通じて販売する。図3がハーフブリッジを形成するドーターボードとLMG3401を4個構成の開発キットである。このボードにもFETは2個搭載されている。キットの価格は299ドル。さらに、マザーボードの評価キットEVMは199ドルで提供する。


図3 ハーフブリッジのドーターボードの開発キット 出典:Texas Instruments

図3 ハーフブリッジのドーターボードの開発キット 出典:Texas Instruments


GaNパワーFET製品の量産は今年の後半から来年初めを予定している。

(2016/04/26)
ご意見・ご感想