IoT時代は得意なアナログを活かす、TIに追い風
Texas Instrumentsは世界トップのアナログICメーカーであるが(参考資料1)、IoT時代には自社の得意なアナログとプログラマブルデジタルをますます活かせる、と強気の姿勢を見せる。このほど来日した同社アナログ部門シニアバイスプレジデントのStephen Anderson氏(図1)は、ワンストップショップの強さを主張した。
図1 TIアナログ部門シニアVPのStephen Anderson氏
IoT(Internet of Things)端末を工場の機械に張り巡らせて、生産性の向上を目指すIndustry 4.0。このコンセプトを利用するファクトリーオートメーションや、ビルの自動化、スマートグリッド、モータ制御などIIoT(工業用IoT)がこれからのカギとなる分野である。この分野に向けてTIはチップだけではなく、開発ツールやソフトウエアなどのビルディングブロック(部品)を提供する。
IIoTでは、位置や温度、湿度などさまざまなセンサからの信号を受け、生産性を上げるように制御する。TIは、従来の24ビットΣ方式のA-Dコンバータに代わる32ビットコンバータADS1262と1263をリリースした。
32ビットコンバータでは、その分解能がアナログ信号最大振幅の2の32乗分の1すなわち約40億分の1と微小な信号を処理することを意味する。極めて微小な信号を扱うため、わずかなノイズにも左右されやすい。このような高分解能のA-Dコンバータは、非常に微弱な信号を扱う地震計や、ダイナミックレンジの大きな重量計、橋梁の振動を測定する歪ゲージによる振動計、物流倉庫や航空貨物で荷物の重量を測るカーゴスケールなどに使うという。ちなみに、サンプリングレート2.5サンプル/秒という超低レートでのノイズ特性は、7nVだとしている。最大11個の入力チャンネルの信号を扱え、デジタル出力はSPIインタフェースを通じて取り出す。まさにIoTに使うセンサからの信号を処理する目的に合っている。
また、クルマ用の電源などパワーMOSFETを駆動するためのゲートドライバICでスイッチング速度の速い製品UCC27201A-Q1もリリースした。伝搬遅延時間15ns (typ)、立ち上がり/降下時間がどちらも7ns(typ)と高速で、パワーMOSFETを駆動できるため、電荷エネルギーを溜めるコンデンサやコイルを小さくできる。この結果、電源システムを小さくできるため、重量も軽くなり、クルマの走行距離を伸ばすことができる。
TIはチップを使う機器設計者が短期間に効率よく設計するための開発ツールも整備している。電源設計に有用なWEBENCH Power Designerは、買収したNational Semiconductorが開発したツールだが、設計入力した後にシミュレーションもできる。さらには、そのシミュレーション結果を、Altium社やCadence Design Systems社などのCADツールに、数回クリックするだけで、エクスポートできる。変換用のソフトウエアは要らない。
汎用的な設計ツールとしてはTI Designsリファレンスデザインもある。データコンバータに関しては、オンラインのラーニングセンターを使うことができる。初期画面がエレクトロニクス回路ブロックのシグナルチェーン、あるいは目次の表となっており、そこから読みたい技術文書や技術解説記事をアクセスし、理解を深める。
TIは5万点ものアナログ製品ポートフォリオを持ち、毎年500種類のアナログ新製品をリリースしている。IoT端末を設計するには、センサ、アンプ、データコンバータ、マイコン、トランシーバ、電源ICなどが必要だが、そのかなり多くの部品をTIは提供する。このためチップセットとして、アナログだけではなくデジタルプログラマブルなマイコンなども一緒に顧客に提供し、顧客の望むソリューションを提案する。この強みをさらに強くしていく。
参考資料
1. 世界のアナログ半導体ランキング、トップTIがさらに伸ばす (2015/05/13)