Transphorm、GaN on Siプロセスによる600VのパワーHEMTをサンプル出荷
米南カリフォルニアを本社とするベンチャーのトランスフォーム(Transphorm)社(参考資料1)は、耐圧600VのGaNパワーHEMTとGaNショットキダイオードを限定ユーザーにサンプル出荷している。2007年に設立された同社にこのほど日本インターと産業革新機構がそれぞれ500万ドル、2500万ドル出資した。トランスフォームはこれらの資金を得て、GaNの製品化を先駆けたいと語る。

図1 Transphormと日本インターの記者会見 右から日本インターの江坂文秀社長、TransphormのMishra CEO、Parikh社長
GaNパワーHEMTを安定的に量産することはこれまで難しかった。しかし、「トランスフォーム社に結集した人たちは、起業前の1994年ごろからずっとGaNデバイスを手掛けてきた。ほぼ20年になる」、と同社会長兼CEOのUmesh Mishra氏(図1の右から2番目)はGaNデバイスに絶対的な自信を持つ。
Mishra氏は97年にカリフォルニア大学(UC)サンタバーバラ校からスピンオフしてナイトリス(Nitres)社を起業させた。最初の企業はLEDとRFパワー半導体を手掛けていたが、2000年にGaNのLED大手のCree社に買収された。Mishra氏は今でもUCサンタバーバラ校の教授でもある。社長であり共同創業者のPrimit Parikh氏は、UCサンタバーバラ校からナイトリス社に入社したGaN一筋のエンジニアであった。
トランスフォームが得意な事業分野(コアコンピタンス)は、GaN材料からデバイス、回路である。パッケージングは今、外部業者に委託しており、日本市場に向けてはメカニカルデザインが優れている日本インターを選んだ。日本インターはパワーデバイスのパッケージングの安定した設備を持っており、トランスフォームと役割分担している。トランスフォームはGaN on SiのパワーHEMTに注力しており、LEDやRFは手掛けず、電力変換やパワーマネジメントに集中する。
デバイス動作の仕組みに関して、HEMTはJFET(接合型電界効果トランジスタ)と同様、ノーマリオン型であり、ゲート電圧がゼロでも電流が流れてしまう。このため正のドレイン電圧に対して、負のゲート電圧という2電源が必要になる。この結果、これまでノーマリオン型のトランジスタはあまり使われてこなかった。しかし、Infineon Technologiesがゲートのドライブ回路をカスコード接続にすると、一般のMOSFETと同様ノーマリオフ動作ができることを見出した(参考資料2と3)。トランスフォーム社のGaN HEMTもカスコード接続のゲートドライブ回路をパワーHEMTチップと一緒にTO-220パッケージに封止しており、実質的にノーマリオフ型トランジスタとして使うことができる。
「当社のGaN パワーHEMTは電力変換効率をこれまでよりも40〜50%高くできる上に、受け入れられる価格で提供できる」とParikh氏は語る。低コストにできるのは、Si基板上にGaN単結晶を形成できる技術を確立しているからだ。
GaNパワーHEMTの特性評価も信頼性評価も終了しており、10月2日のCEATEC2012会場での講演では、さまざまな評価結果を報告した。例えば、560Vの直流電圧をかけ、太いワイヤーループを追加しながらターンオン試験を10万回繰り返した。850V程度のスパイクが発生するが、びくともしなかった。
また、3相モータを駆動する場合にパワーHEMTを100kHzでスイッチングさせ1.5kWの負荷を加えた時のDC-AC変換の効率は99%と高い。スイッチング周波数をさらに500kHzと上げることもできる。スイッチング周波数を上げれば上げるほど、コイル(インダクタンス)は小さくてすむため、パワー変換装置や大きな容量の電源を小型にできる。シリコンのIGBTは少数キャリヤの蓄積効果があるため高速スイッチング動作はできず、せいぜい15kHzで動かさざるを得ない。IGBTを使う場合には、リップルを小さくして正弦波に近づけるために大きなフィルタ用のコイルが必要となり、電力変換装置が大きくなってしまう。
図2 4kWのモータを100kHzのスイッチングで駆動 3つのコイルが小さい
ブースでデモしたモータ駆動装置(図2)は、4kWのモータを交流230Vの3相で動かしている。機械的な出力は5馬力だとしている。100kHzでスイッチング動作させているため、図2の三つのコイルは4kWモータ用としては極めて小さい。
今回、トランスフォームは、日本インターと国内で最初のパートナーシップを結んだが、日本市場での顧客の要求に応えることが第一で、ここで成功したらパートナーをさらに増やしていきたいとしている。
参考資料
1. GaN-on-Siのベンチャー続出、白色LED、パワーHEMTを狙いVCも活発に投資 (2011/08/17)
2. 最初の商品SiC JFETを使ったEasy1Bパワーモジュール(前編) (2011/08/18)
3. 最初の商品SiC JFETを使ったEasy1Bパワーモジュール(後編) (2011/0819)