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カメレオンのように変身、進化を続けるインターシル、成長の10分野に特化

Wi-FiのIEEE802.11bという最初の無線LANチップを出荷したインターシル(Intersil)。このチップがコモディティとなるとすぐさま手放し、アナログに特化する。アナログ&ミクストシグナルと、パワーマネジメントに特化することを宣言して4年たった。このほど、半導体チップの機能ではなく民生市場に向けた部門を設けた。

図1 インターシルが成長分野と定義した10の市場

図1 インターシルが成長分野と定義した10の市場


さらにインターシルは製品戦略を整理して10分野の市場に特化することを決めた。デジタルパワーマネジメント、デジタルパワーモジュール、ピコプロジェクタ、自動車(参考資料1)、アクティブケーブル、高密度パワー変換、光センサ、オーディオ、PCのパワーマネジメント、セキュリティと監視カメラ、である。これらは2010年から2015年までの平均年成長率CAGRが半導体製品の平均値6%よりも大きい分野ばかりであり、成長が見込める分野に絞ったといえる。

これらの10分野はどうやって決めたのか。インターシルが注目した方針は3つある。一つは大きなメガトレンドの流れ(成長分野の見極め)、二つ目は自社の強いアナログ&ミクストシグナル技術をさらに強くすること、そして三つ目の成長は発展途上国市場を狙うことである。

インターシルは次から次へと成長に向けた手を打つが、半導体メーカーとしては数奇な運命をたどってきた。1967年にインターシルが創業した後、1980年にはGEに買収された。GEは1986年にはRCAの半導体部門を買収したため、3社が合弁されたことになる。1988年になると今度はハリス(Harris Semiconductor)がGEを買収、インターシルはハリスの傘下に入った。その後、軍事エレクトロニクスに強かったハリスがインターシルを手放したため、1999年にインターシルは晴れて独立した。

実は同社の快進撃はこれから始まる。完全に独立したインターシルは、2000年にはIPO(株式上場)を果たし、資金を調達した。この資金を元に同社は自社の弱いところを補うため買収を始める。まず、高速アンプのエランテック(Elantic)を2002年に買収、2003年には不揮発性メモリを利用した半導体ポテンショメーターのザイコア(Xicor)を買収した。最近数年では2008年前後にDSP利用のD2Audioと、高速・低消費電力のA-Dコンバータのケネット(KENET)を買収、さらにテキサス州オースチンにあるジルカー(Zilker)社を買収した。2009年にはノイズキャンセラチップのクェラン(Quellan)社、中国のロック(Rock)社、2010年には日本人(小里文宏氏)が創業、CEOを務めたテックウェル(Techwell)社を買収した。テックウェルは画像処理に強く、インターシルはクルマのバックモニター用の映像処理チップを手に入れた。

パワーマネジメントに注力していたインターシルは、10の成長分野の内、4つもパワーマネジメントを選んでいる。デジタルパワーマネジメントは通信インフラやコンピュータインフラで馴染みのあるデータセンターや基地局、データストレージなどの電源に向ける。デジタルパワーモジュールは買収したZilker Labsの製品がある。1チップのデジタル電源により90%以上の高い効率を実現し、しかも設定を自由に変えられる。この製品に技術をインフラ系の電源にも生かしている。

ピコプロジェクタはスマートフォンに搭載する小さなプロジェクタで、2011年は300万個出荷されたが、2015年には5800万個という高成長が見込まれる市場だ。ピコプロジェクタを利用する機器は、スマホだけではなくタブレットやノートPCにも採用が見込まれている。インターシルは光エンジン以外のチップセットを提供しており、日本のメーカーが高輝度の緑レーザーを発明してくれたことがピコプロジェクタの普及を加速した、とインターシルCEOであるDavid Bell氏は述べている。初めて出展した2年前のCES(Consumer Electronics Show)では6ルーメンの輝度しかなかったが、今年のCESでは25ルーメンと躍進したと、Bell氏は言う。


図2 Intersil社CEOのDavid Bell氏

図2 Intersil社CEOのDavid Bell氏


光センサは元から強かった分野であるが、特にIRセンサを使った近接センサの応用は広い。スマホに使えば、電話を受け取るとスマホを耳に近づけようとするため、近づいたことを検出してスクリーンを消し消費電力を抑える。また、料理中に両手が汚れている場合にはスマホやタブレットには触りたくないが、触らずにジェスチャーだけで入力するシーンにも近接センサを利用する。

オーディオの音質改善は、きれいな音で人間には聞こえるように、音をソフトウエアで加工するという手法をとる。ソフトウエアアルゴリズムをDSPに組み入れて、高速リアルタイムで再生できるようにチップで処理する。テレビは薄型になり音質が悪くなっているが、小型のスピーカーでも音を改善するためにソフトウエアアルゴリズムを使って劣化した音を補正する。ここではD2Audio社を買収した効果が大きい。


図3 成長の見込めるサーベイランス分野

図3 成長の見込めるサーベイランス分野


セキュリティ監視カメラ(サーベイランス)もこれからの成長が見込める分野である。犯罪防止や交通事故防止など安全な街づくりに監視カメラはこれから大きく伸びていく。この市場では、HDカメラからH.264コーデックを使った新型ビデオレコーダー設計や、魚眼レンズの画像を処理するプロセッサなどが新ICとなる。カメラの方向転換従来のモータを使う場合、寒暖の差が激しい屋外仕様では故障しやすいため、モータのような稼働部を使わない魚眼レンズを使うことで対処する。しかし、魚眼レンズによる歪んだ画像を補償するためのプロセッサが求められる。ここに新市場があると見込んでいる。

Intersilは製造設備を軽くするアセットライト戦略をとる。ウェーハファブ工場には毎年10億単位の投資が求められるためだ。ファウンドリは2社を確保しておくことで、生産能力をフレキシブルに対応できる。前工程の内、製品の25%が自社ラインを使い、残りがファウンドリ利用だ。後工程となると自社ではほとんど製造せずわずか1%しかない。放射線に強いプロセスやウェーハの張り合わせによる高耐圧製品など特殊なプロセスは自社で生産する。世界9カ国に20カ所の製造拠点を持ち、文字通りグローバルな製造のパートナーシップ契約を結んでいる。

参考資料
1. 米アナログ半導体メーカーがカーエレ市場にトップギアチェンジ(Intersil編) (2011/11/07)

(2012/02/22)

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