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人とクルマのテクノロジー展から見えてくる、電気自動車普及の近さ

人とクルマのテクノロジー展2010では、電池やモーター、キャパシタ、SiCパワー半導体、電池関連のIT技術など、電気自動車関連の新しい製品・技術の展示が消えた。裏返せば、電気自動車は思いのほか急速に進んでおり、自動車メーカーが全く話をしなくなったということは本格的な商品化が近づいてきた証拠でもある。

Liイオン蓄電池を積んだトヨタのプリウス プラグインハイブリッド

Liイオン蓄電池を積んだトヨタのプリウス プラグインハイブリッド


今回の展示会では、日産自動車のリーフは展示されず、トヨタ自動車がプリウスのプラグインハイブリッドタイプを展示しただけにとどまった。プリウスには、従来のニッケル水素電池に代わり、初めてリチウムイオン電池が搭載されている。充電池セルの起電力は、ニッケル水素が1.2V、リチウムイオンは3.6V程度とすでに電圧に差があり、エネルギー容量はリチウムイオンの方が圧倒的に高い。直列接続して得られる電圧はリチウムイオンが345.6V、ニッケル水素は201.6V、エネルギー容量はそれぞれ、5.2kWh、1.3kWhである。プラグインハイブリッドは充電電力だけでも23km走行できる。展示されたクルマは、今のプリウスと全く同じようなデザインで後部荷台の下にバッテリを設置している。

電池技術では、従来の鉛蓄電池を使いながら、導電性のプレートを真ん中に挟み等価的に直列接続することで出力電圧を従来の2倍に当たる4Vを得られる構造をスウェーデンのエフパワー(Effpower)社が展示した。負極-セパレータ-正極という電池2個で、導電性プレートを挟んだ構造になっており、体積はさほど大きくなっていない。この導電性プレートは電流分布を均一にするという役割を果たし、セルの内部抵抗を減らしていると展示責任者は言う。メリットは、ニッケル水素電池よりも低価格であるという。この蓄電池を欧州でホンダのクルマに搭載し、時速100マイル(160km/時)の走行実験を行い、これまで累計で13万マイル(20万km)を走っている。


スウェーデン エフパワー社の4V鉛蓄電池

スウェーデン エフパワー社の4V鉛蓄電池

SiCの問題がより見えてきた
今回、ロームもデンソーも目新しいものは何も展示していなかったが、SiCの商品化は2015年という報道もあり、展示会でのブース関係者の話では商品化は今年、来年の話ではなさそうだ。結晶欠陥は従来よりは格段と改善してきたが、零になる訳ではなく、減っているだけである。課題もはっきり見えてきた。

SiCのゲート酸化膜は、SiO2自然酸化膜にCVDでさらに厚くしていくわけだが、SiCとSiO2界面にマイクロパイプと呼ばれる結晶欠陥がある場合、ソース-ドレイン間の電流が欠陥部分に集中しないかどうか、特に酸化膜の所に電流集中し酸化膜をTDDB(time dependent dielectric breakdown)ゲート破壊が起きると言われている。TDDBは 蓄積される全電荷量で決まるが、半導体の寿命は使用環境と比べると長いが、シリコンよりは劣るという。

さらに、SiCのMOSFETはSiのIGBTと比べて、少数キャリヤの蓄積時間がないため高速動作できるという特長があるため、スイッチング周波数を上げれば上げるほどインダクタを小さくできる。反面、ノイズが発生しやすくなる。展示した試作モジュールではワイヤーボンドでチップと端子を接続していたが、大電流のワイヤーボンドはノイズを出しやすい。「インダクタンス成分を小さくしようとすると直流抵抗が上がりやすい」と言い、「開発が進めば進むほど課題が見えてきた」と実用化は思いのほか、困難であることを匂わせている。

画像認識・合成を軽くしよう
安全対策の観点から、画像認識処理を活用する動きが出てきた。富士通は前後左右4台のカメラを利用して車両周辺近くの物体を認識する技術を開発している。日産自動車「エルグランド」のアラウンドビューモニターと同様に、画像を合成して周囲が見えるようにする。例えば左折、右折の場合に周囲を広く見えるように画像を合成する。そのために現在はMB86R01グラフィックスチップとFPGAで画像合成システムを実現しているが、いずれ1チップ化する予定だ。

OKIセミコンダクタは、クルマから見える画像を素早く認識するためのLSI、NEX@EYEを展示した。これは検出アルゴリズムを従来のパターンマッチングではなく、単純化して高速にするため遠近法を使った。白線検出による走行アシストなどに使う場合、右の白線と左の白線、さらに遠くにある中心点を結び、2台のカメラで差分を検出しその中心点までの距離を知ることができる。その中心点付近を四角で囲み、その部分の画像を認識する。もしクルマがその四角の中にいれば、それを認識する。フレームごとに認識する訳ではなく動きを検出するだけなので計算処理が軽くなる結果、フレームレートは、100fpsと従来品の3倍以上高速になり、消費電力は従来品の30%に減ったという。

エプソンは、広いダイナミックレンジを持つイメージセンサーによって、暗い状態と明るい状態が同時に現れるトンネルや、太陽に向いた状態、建物内部から外を見るような状態など、画像が白くなってしまうのを防ぐための画像合成システムを試作した。これはイメージセンサーからの信号を読みだす場合に、短時間、中時間、長時間と露出時間を分け、それぞれの露光時間で得られる画像を合成することで画面全体をはっきり見えるようにしたもの。詳細は後日、発表する予定だとしている。

 リチウムイオン電池の各セルの電圧ばらつきを減らし、均一にするICが米リニア・テクノロジーから出ていたが、今回はデンソー、OKIセミコンも展示した。デンソーのICはマイコンで制御するのではなく、簡単なロジックを組み、セル電圧の平均値を求め、電圧の高いセルを放電させ電圧を揃えようというもの。ADコンバータもマイコンも要らないため回路は簡単になり、低コストになるとデンソーは見ている。1個のICで7個分のセルを制御できる。これをトヨタのプラグインハイブリッドカーに搭載した。一方、OKIのチップはリニアと同じ12個のセルを制御でき、耐圧80Vのトランジスタを集積している。

(2010/05/26)

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