デンソー、SiCのパワーMOSFETを自社製のSiC結晶で作る方法をタネ明かし
10月24日から一般公開されたモーターショーにおいて、カーエレクトロニクスの専門メーカーであるデンソーはSiCのMOSFETを展示した。ドレイン耐圧1200V、ドレイン電流は放熱フィンを付けて100A程度流せる。同社が作製するSiC結晶の品質は群を抜いていると言われている。なぜ、どうやって高品質なSiC結晶を作っているのか、デンソーに取材した。
デンソーのSiC半導体 左奥がMOSFET、真中SBD、左下3インチウェーハ
右手前4インチウェーハ、右奥パワーモジュール
SiCは高温にしても溶けずに気体になるという昇華の性質がある。このため、シリコンで使われてきたチョクラルスキー引き上げ法が使えない。気相成長法を使わざるを得ない。しかし、SiC結晶を成長させると必ずマイクロパイプと呼ばれる結晶欠陥が成長軸方向に沿って成長する。このため大きな結晶を分厚く成長させることが難しい。
そこで、デンソーはまず種結晶を大きく成長させる方法をとっている。種結晶はシリコンと同様、結晶インゴットの種として使う場合と、インゴットそのものにしてしまう方法の二つがある。種結晶をそのままインゴットにする場合にはいったん成長させた後、マイクロパイプ結晶のない場所を切り出し、結晶成長面の角度を変えて再び成長させる。再度マイクロパイプが成長すると、再びその欠陥のないところだけを切り出し、成長角度を変えてさらに成長させる。この方法を何度も繰り返して、結晶を大きくさせていく。手間はかかるが欠陥をそのたびに断ち切るということで結晶の品質は良い。
この方法は面倒でコストが高くなるが、これに対してデンソーは欠陥のない種結晶をたくさん作っておき、それを種結晶として安定して無欠陥の結晶を作り出せるようになると、最初の種結晶の手間はコストにさほど響かなくなるという。完全な種結晶ができるとそれを元に次々と完全結晶を作り出せるため、その後のコストはさほど効かなくなるからである。この技術はデンソーと豊田中央研究所との共同で特許を取得しているとしている。
デンソーはMOSFETの酸化膜についても言及した。シリコンとは違い、SiCのゲート酸化膜はMOS構造を作る上で界面はクリーンでなければならない。しかも成長速度もそこそこに速いことも求められる。このため、デンソーはまず熱酸化膜を作りその後CVDにより所望の厚さのゲート酸化膜を成長させる。厚さのコントロールはCVDで行う。ただし、単純な熱酸化ではなく、窒化したりあるいは水素アニールしたりするなど後処理もノウハウとして必要になるとしている。
SiCのパワーMOSFETは高温動作という利点よりは、高耐圧・大電流デバイスとして高速動作が可能だというメリットの方が大きい。昇圧コンバータなど、コイルを使うスイッチングレギュレータのコイルを数分の1に小さくできるからだ。200〜300℃の高温にするとSiC半導体はびくともしないが、SiCの酸化膜やハンダ材料が溶けたり弱くなったりするため、実使用ではSiC以外の問題が出てくるため、高温動作はさほど期待できないとしている。