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More than Moore技術の開発とキーマーケットの両輪で攻めに転じるアナデバ

不況でも研究開発費を落とさなかった米アナログ・デバイセズが2010年は攻めに転じる。2009年10月末に2009年会計年度を終えたアナデバは、前年同期比22%減という不況のどん底に落とされながらも利益率14%を確保し、高性能アナログ信号処理システムのソリューションを提供することで、市場獲得を追求する。技術と市場を両輪とした戦略だ。

2008年の10月から2009年の2月にかけて世界的な不況が襲い、ほとんどの半導体メーカーが売り上げを落とした。アナログデバイスも売り上げを2008年度(2007年11月〜2008年10月)の26億ドルから22%落とし、20億ドルになった。2008年度はリーマンショックの影響をほとんど受けていない年度であり、2009年度はもろに受けた最悪の年度となった。にもかかわらず、営業利益は2億8500万ドル、営業利益率14.1%を確保しただけではなく、研究開発に売り上げの22.2%にあたる4億4700万ドルを投資した。


不況でも研究開発費を落とさなかったアナデバ

不況でも研究開発費を落とさなかったアナデバ


投資の成果はこれから出てくる。アナデバの戦略は「キーマーケットにいる重要な顧客のソリューションに革新技術をもたらすこと」と、来日した戦略的市場分野グループ担当バイスプレジデントのビンセント・ローチ(Vincent Roche)氏は語る。このために研究開発投資をキープしたと述べる。長期的な展望を持って顧客にサービスすることが重要であることは言うまでもないが、アナデバは不況を逆手にとって顧客サービスに努めたとローチ氏は言う。

同氏は、今は市場とイノベーション技術のコネクションが重要な時代だと考えており、それは電子機器のエコシステムがかつてとは様変わりしてきたためだと見ている。つまり、1980年代は個々の回路の注力し、その回路向けのカタログを作成してきた。90年代になるとシステムはさらに複雑になり、顧客はエコシステムの方向へと進んだ。アウトソーシングと騒がれた時代はまさに90年代だった。2000年に入るとデバイスとシステムはもっともっと近づき、互いに関連性を持つようになってきた。同氏はこれを「more and more relevant」という言葉で表現する。


デバイスとシステムはもっと深い関係になる

デバイスとシステムはもっと深い関係になる


だからこそ、アナデバの技術戦略は、ICをただ単に高性能にするだけではなく、ソリューションを最適にしたり、MEMSやRFといったMore than Moore技術を集積化したりすることに尽きる。そのためにWLP(ウェーハレベルパッケージング)CSPやSiP(システムインパッケージ)など先端パッケージング技術の開発に力を注ぎ、素早くフレキシブルなサプライチェーンも重視する。

社内的には、二つのグループに分けた。一つはコア製品とコア技術のグループ、もう一つは戦略的分野グループである。前者は技術部門、後者は営業部門であるが、これまでは営業は地域や顧客別に担当していた。これを今回は分野別に担当することになる。特に力を入れる分野は優先順位の高い方から、カーエレクトロニクス、通信インフラ、民生、ヘルスケア、工業&計測である。同社のこれまでの売り上げは工業計測が最も大きいが、優先度を付けた。この方式だと顧客とのインターフェースがシンプルになり、全ての顧客は戦略的分野グループが対応する。これにより意思決定が単純になるとしている。

日本法人のアナデバ蠅2009年度の売り上げが前年度比31%減の3億4900万ドルと大きく凹んだ。ただし2009年第2四半期(2〜4月)を底に四半期ごとに29%、21%と成長してきている。この勢いで、2010年度の売り上げは前年度比15%増という目標を掲げ、アナデバ全社の20%以上の売り上げを取りたいと、日本法人の馬渡修社長は抱負を語る。中長期的には日本法人の売り上げを1000億円と設定しており、国内における外資系企業のトップ5位入りを目指す。現在は8位だとしている。

なお、今後の分野として、新エネルギー分野(電荷を正確に測定する、消費電力を下げる、FAをもっとクリーンにするなど)、安全な社会(セキュリティやスキャン装置の開発など)、民生ではもっと知能的な体験のできるインターフェース(タッチスクリーンのような使いやすいGUIや、MEMSを使ったモーションセンサーなど)、ヘルスケア(個人ができる健康診断や、超小型の医療診断装置など)を上げる。Mooreの法則はデジタル回路では成り立つが、人間との接点が多いのはアナログであり、アナログの方がMPUの先を行く、とローチ氏は言う。デジタルとアナログを合体させるパッケージング技術が重要になると見ている。

すでにスマートグリッド用には、連続的に電力をモニターするシステムのシグナルチェーンを想定しており、信号処理ICからマルチチャンネルのA-Dコンバータ、DSP、コイル内蔵のアイソレータチップのiCoupler、デジタルコントローラへ電源電圧を提供するパワーマネジメントなどのソリューションをADIが提供できる準備は整ってきた。


電力モニター要シグナル・チェーン

(2010/02/04)
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