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アナログ・デバイセズ、ワイヤレス応用を意識したRFシグナルチェーン全部をカバー

ワイヤレステクノロジーがこれからますます大きく成長する。HSPAやLTEなど通信ネットワークやデータ通信網WiMAXだけではなく、宇宙航空、計測機器、産業機器、民生機器、コンピュータ、医用機器、自動車エレクトロニクスなど幅広く、どこにでもワイヤレス技術が入り込みその応用が増えてくることがはっきりしている。米アナログ・デバイセズ(Analog Devices)社はワイヤレス技術の中核をなすRF技術のシグナルチェーン全体をカバーするソリューションを提案した。もちろんブロードバンドにも対応する。

ADIはRFシグナル・チェーン全体をカバーする唯一の企業

出典:アナログ・デバイセズ


6月に入りアナログ・デバイセズは、分周器を備えたPLL周波数シンセサイザ「ADF4150」、50MHz〜4GHzの広帯域アンプ「ADL5601」と「ADL5602」、400MHz〜2.7GHzと広帯域のRF出力1Wのドライバアンプ「ADL5604」、送信部の最終パワートランジスタの消費電力を最適化するためのRMS (root mean square) ディテクタ「ADL5902」の5種類のアナログICを発表するとともに、すでに製品化しているローノイズアンプ(LNA)やミキサー、IQ変復調器、A-D/D-Aコンバータ、送受信スイッチなどを一式持ちRF回路のシグナルチェーンを完成させた。

アンテナから、送受信スイッチを経てRF回路、IF回路、変復調器、A-D/D-AコンバータまでのRFシグナルチェーンは、ワイヤレス回路のキモともいえる。デジタルに変換した後はプロセッサやメモリー周辺回路などを搭載する、いわゆる組み込み系回路につながる。組み込み系回路はワイヤレステクノロジーとは直接関係しないため、アナデバがカバーするRF信号チェーンがワイヤレステクノロジーのキモとなる。

今回、アナデバが発表したRF用のICチップは、これからのワイヤレス通信インフラを実現するためのソリューションとなっている。これだけの製品があれば、「異なる周波数のRFシグナルチェーンを共通のプラットフォームで実現できる」と、同社RF&ネットワーキング部品担当バイスプレジデントのPeter Real氏は顧客にとってのメリットを強調する。例えば、W-CDMAやTD-SCDMA、MC(multi carrier)-GSM、LTE、WiMAXなど3G以降の通信システムおよびそれ以降の4Gのインフラシステム向けのチップとなる。


次世代ワイヤレス・インフラ・システムをサポート

出典:アナログ・デバイセズ


例えば、「ADL5604」は、400MHz〜2.7GHzと広い周波数帯域に渡って1WのRFパワーを出力し、次段のパワーアンプを駆動するためのドライバアンプである。通信基地局の消費電力の大部分が送信部のパワーアンプであることが指摘されている。この消費電力を減らす手段の一つがパワーアンプに印加する電源電圧を、信号レベルに応じて変える方法だ。従来、パワーアンプには一定の電源電圧を印加していた。広いダイナミックレンジに渡って信号を送り出す場合、小さな信号では小さな電流しか流さないが、印加する電圧が一定であればそこで消費する電力は電圧が高い分、無駄になる。

そこで、信号レベルが小さい時は電源電圧を小さくし、信号レベルが大きいときだけ最大の電源電圧を印加する。この場合、信号レベルを検出しなければならない。その高周波信号を検出するICがRMSディテクタ「ADL5902」である。このディテクタICのレベル(変調しているので包絡線)に応じてパワーアンプの電源電圧を変える。このようにしてパワーアンプの消費電力を下げる。

RFシグナルチェーンを構成するためにシリコンだけではなくGaAsやSiGe、さらにはBiCMOS、CMOSなどのプロセスをふんだんに駆使する。RF設計ではごく当り前だが、周波数の高いフロントエンドのLNAまではGaAs、その後段ではもっと安価なSiGeや負荷駆動能力の高いBiCMOS、などを使い、デジタル部分は純粋なCMOSプロセスを使う。アナデバはボストン郊外の本社とアイルランドにプロセスファブを持っているが、プロセスに応じてファウンドリと使い分ける、とPeter Real氏は言う。例えばシリコンのCMOSやBiCMOSならTSMC、GaAsなら別のファウンドリを使うが、SiGeのバイポーラを相補構成のnpn/pnpデバイスや、抵抗/コンデンサなどパッシブ部品を集積するような回路では内製プロセスを利用する。

アナデバはRF回路シミュレータ、ADIsimRFと、RF回路の評価キットをサポートしている。ADIsimRFは、アンプをカスケード接続した場合の利得や雑音指数、IP3(3次のインターセプトポイント)、P1dB(飽和出力から1dBダウンしたときの出力値)、RFシステム全体の消費電力などを計算する。送受信スイッチからバンドパスフィルタ、ローノイズアンプ、ミキサー、IFアンプなど最大で15段のRFからIFまでのシグナルチェーンを計算でき、このソフトをwww.analog.com/jp/ADIsimRFから無料でダウンロードできる。


アナデバの評価キット 左側が送信部、右が受信部

アナデバの評価キット 左側が送信部、右が受信部


RF回路評価キットは、直交変調器などデジタル変調器を含む送信部と、受信部およびデジタル処理のデータキャプチャボードも付く。データパターン発生器からのデジタルデータを変調して送ると、パソコンに周波数スペクトルのデータを見るだけではなく、搭載しているロジックアナライザのソフトを使ってデジタルパターンのデータを見ることもできる。


(2009/06/29 セミコンポータル編集室)

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