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システム的な観点からエネルギー削減を図るケーススタディ;携帯通信技術

「携帯電話通信の低消費電力化は、出来た装置や端末の消費電力だけではなく、それらの製品を作るためにかかったエネルギーも考えてみなくてはならない」。英ブリストル大学の通信研究センターのセンター長であるJoe McGeehan教授が5月中旬、パシフィコ横浜で行った講演は、半導体産業にも示唆の富むものであった。半導体チップの低消費電力化はシステム的見地から検討しなくては省エネにはならない。

CO2年間排出量


出典:Joe McGeehan, "Climate Change, Natural Resources and Wireless 2.0," in Wireless Technology Park 2009, and Tomas Edler, "Green Base Stations - How to Minimize CO2 Emission in Operator Networks," Ericsson, Bath Base Station Conference 2008.


製品を作るためにかかったエネルギーには、製品寿命が尽きて捨てるためのエネルギー、部品を調達し運搬したり包装したりするためのエネルギーなども含まれる。動作中のエネルギーでも実際の動作中での消費電力だけではなく、ベースステーションなら空調エネルギーや輸送エネルギーなどが含まれる。携帯端末でも充電器の電力やアイドル電力も含まれる。そういったものを総合して、ベースステーションでは年間13.3kgのCO2、携帯端末でも10.7kgのCO2を排出するとしている。そのうちベースステーションでは動作時の電力、携帯電話は製造時の電力が多い。

携帯電話端末では、実際に信号を送っているときの時間を短くする、変復調のアルゴリズムを出来るだけ簡素化して消費電力を減らすなどの工夫が必要だと指摘する。システムの複雑さと共に複雑になりがちな変復調や圧縮伸長のアルゴリズムを簡素化するためには、エレガントな数学的な解を求める必要がある。

さらに回路を再利用するという手もある。ソフトウエア無線のようにハードウエアを変えずにソフトウエアを入れ替えることによって機能を変えてしまうという方法だと、機能や方式の違うチップを作り分ける必要がない。すなわち製造エネルギーは少なくて済むというわけだ。回路の再利用という意味では、リコンフィギュアラブルプロセッサという手もある。これもハードウエアの構成をソフトウエアで変える方法である。チップを設計して製造するのに製造エネルギーがかかる。例えば、重さ2gの32MバイトDRAMを1個作るのに必要な化石燃料は1.6kg、化学薬品72g、水32kg、基礎的なN2ガス700gが必要だとしている。ソフトウエア無線にせよ、リコンフィギュアラブルプロセッサにせよ、プログラマブルデバイスであれば、チップを新たに作り直すための製造コストは要らない。

もちろん従来から言われているようなLSI回路での低消費電力化もある。ゲートしきい電圧を、低消費電力向けトランジスタには上げたり、パワーゲートやクロックゲートを設けたり、電源電圧やクロック周波数ごとに島を作ったりするような回路アーキテクチャの工夫も必要である。場合によっては、RF回路のMIMO検出器などをデジタル変換せずにアナログのまま処理するような工夫も必要だという。

一方、ベースステーションではRFパワーアンプの効率を上げることが最優先だとしている。例えば送信電波の出力120Wを得るのにベースステーションに加える電力は3802Wにも達すると見積もっている。A-D/D-A変換でのロス620W、RFパワーアンプを含む送信回路が1920W、空調800W、その他360Wとし、残りが送信出力になる。効率はわずか4%にすぎない。

これをせめて20%に引き上げたい、と講演したJoe McGeehan教授は語る。そのために最も大きな電力を消費する部分を解析すると、パワーアンプであることがわかった。パワーアンプで効率を上げる方法の一つとして、エンベロープ増幅手法を使う手がある。通常のパワーアンプの最終段トランジスタには一定の電源電圧を加えてきたが、信号が小さいときでもその最大の高い電圧を加えざるを得なかった。これを信号レベルと同期させてパワートランジスタのバイアス電圧も変えてしまう方式の増幅手法がこのエンベロープ増幅法である。信号が小さい時にはパワーアンプの電源電圧も小さくする。このことにより無駄な電力を削減できる。


(2009/06/02 セミコンポータル編集室)

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