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Imecが考える、持続可能な社会を解決するための半導体技術

これからの半導体産業はどうなるか。生成AI登場で膨大なコンピュート能力が求められる一方で、製造だけではなく設計も複雑になりコストが増大する。求められるカーボンフリーの持続可能社会を実現できる技術には半導体しかない。しかし、余りにも複雑になりすぎる半導体チップをどう作るか。ベルギーの半導体研究所imecはこの大きな課題を解決する取り組みを始めた。

Luc Van den hove CEO, imec

図1 imecのCEOであるLuc Van den hove氏


この取り組みはあまりにも壁が高く、imecのCEOであるLuc Van den hove氏(図1)は「ムーンショット」と表現した。月面到達は極めて難しいが、実現すれば多大な効果が期待できるという意味でこの言葉を使った。Van den hove氏が述べたこの言葉は、先週東京で開かれたImec Technology Forum (ITF) Japan 2023で使われた。そして国連が定めた17項目の開発目標であるSDGsこそが現代のムーンショットだという。実現はそう簡単ではない。

とはいえ、これを実現する手立てには半導体テクノロジーしかない。半導体産業は持続可能な社会へ転換するためのフライホイール(弾みグルマ)だと表現する。半導体技術としては、ムーアの法則がやはり続くという意味で、高集積化に向かう方向はこれまでと変わらない。ただし、高集積化の手法としてモノリシックに微細化技術使う方法と、2.5D/3D-ICやチップレットを多用する先端パッケージング技術がある。いずれもimecとしては手がけると共に、それに必要な仕組み作りとして水平分業型のエコシステム(強力なパートナーシップ)を提唱する。それも、センシングとアクチュエーション分野、案件とエネルギー、演算と認知、そしてバイオロジーが相互に絡み、中央にシステムが来るという構成だ。

見えているのはクルマの世界だとして、自動運転やSD-V(ソフトウエア定義のクルマ)などがこれから導入されるカーエレクトロニクスの分野だという。2019年におけるクルマの部品価格における半導体の割合は4%だったのが2030年には20%にも膨らむと見る。自動運転のレベルが上がるにつれレベル 1~2の0.1~10Tops(Trillion Operations Per Second)からレベル5の1000~5000Topsまで高まっていく。スーパーコンピュータのレベルに近づく。

自動車産業はこれまでのOEM(自動車メーカー)からティア1メーカー、ティア2メーカー、などと降りていたものが図2のように水平分業化になっていくと予想する。


Accelerate Innovation / imec

図2 自動車産業も水平分業化へ 出典imec


これを実現する半導体技術は、モノリシックな高集積化の追求は2Å未満に匹敵するサブA2プロセスノードまでCFET(nチャンネルGAA型MOSFETの上にpチャンネルをスタックした相補型構造)のロードマップを描いている(図3)。CNT(カーボンナノチューブ)やグラフェンのような再現性のない技術は排除した格好だ。


Potential roadmap extension / imec

図3 2Å未満のプロセスノードまで描かれたロードマップ 出典:imec


一方、チップレットや3D-ICのようにD2W(Die to Wafer)やW2W(Wafer to Wafer)のような先端パッケージによって高集積化を目指す方向についても示している(図4)。


D2w, W2W / imec

図4 D2WやW2Wなどで高集積化を目指す技術の可能性 出典:imec


いずれの場合も、単独で進むのではなく、互いに互いの技術を採用しながら進展していく、というシナリオを描いている。

昨年のITF(参考資料1)では、DTCO(Design Technology Co-Optimization)からSTCO(System Technology Co-Optimization)へという技術の転換を示していたが、今年のITFではSTCOという言葉は出てこなかった。概念がまだしっかり固まっていないからではないだろうか。というのは、昨年STCOではシステムのどこをハードウエアが受け持ち、どこをソフトウエアで処理するかということをその説明に使っていたが、実はこのソフトとハードの切り分け、すなわち、システムパーティショニングは昔からシステム設計で行われてきたからだ。

ソフトウエアはフレキシビリティがあるが、性能はハードウエアよりも劣る。ハードはその逆。つまり機能を将来拡張したいと思われる機能はソフトウエアで実行し、性能を優先したい機能はハードウエアで実現していた。

今年のITFは、明確な方向はないものの高集積化で複雑になるシステムをどう設計し、製造していくかが問題となっている、ことを表現したといえそうだ。

参考資料
1. 「imec、『ムーアの法則はこれからも止まらない』、STCOでA2世代まで続く」、セミコンポータル (2022/11/09)

(2023/11/17)
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