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IMEC、「スケーリングは続かなければならない」

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「スケーリングは続かなければならないと確信します」。IMECのCEOであるLuc Van den Hove氏(図1)は、11月7日東京で行われたIMEC Technology Forum (ITF) 2016においてこう語った。これは、半導体技術がムーアの法則で終わる訳ではなく、半導体によるシステムの小型・高機能・高速・低消費電力の方向はこれまでと同様に続くという意味だ。その理由は?

図1 ITF 2016で講演するIMECのCEOであるLuc Van den Hove氏

図1 ITF 2016で講演するIMECのCEOであるLuc Van den Hove氏


ITや人工知能(AI)の業界では、1000億個と言われる人間の脳細胞の数に、ニューラルネットワークで作製するニューロンの数が2045年に追いつくだろうと予測を信じているフシがある。この追いつく時をシンギュラリティ(Singularity:特異点)と呼び、AI業界は沸いている。このニューロンを人工的に作り出す手段は今のところ半導体技術しかない。ということは、現在ブームになっているAIを進化させる半導体は1000億個のニューロンを集積するハードウエアを目指さなければならない。この要求がIT業界から求められているのだ。

現在、IBMが開発試作した、TrueNorthチップには54億トランジスタが集積されているが、100万ニューロンと2億5600万シナプスしかまだない(参考資料1)。この上に1000億個のニューロンを集積するとなると、集積度の向上はますます求められることになる。ムーアの法則は限界などと言っていられない。

そこで、ムーアの法則を再定義する必要が出てきた。従来は、市販の1個のシリコンチップ上に集積されるトランジスタ数は年率2倍で増加することになっていた。最近では年率ではなく18〜24カ月ごとに倍増と変わっていたが、増加の傾向は変わっていない。従来は1個のシリコンチップを前提にしていたが、3次元方向に集積することを前提とすれば、一つのICに集積されるトランジスタの数はまだまだ伸ばすことができる。メモリはHBM(High Bandwidth Memory)やHMC(Hybrid Memory Cube)のようにスタックとTSV(Through Silicon Via)で形成する。プロセッサのキャッシュもスタックし、プロセッサコアもスタックする。I/Oや周辺回路もスタックしたものを横に並べれば集積度は上がる。

IMECはこういった考えを示した。だからこそ、Van den Hove氏は「スケーリングは続くだろう」ではなく「スケーリングは続かなければならない」と言ったのである。これまでのスケーリングでは、FinFETから横型ナノワーヤ、さらに縦型ナノワイヤへ(図2)、3nmから1.8nmへと微細化は続くと同時に、3次元化も進む。


図2 デバイスの3D化は進む 出典:IMEC

図2 デバイスの3D化は進む 出典:IMEC


3次元化では、従来はDRAMをスタックした3次元メモリICの横にSoCを並べていたが、SoC内部をCPUやGPU、専用回路(ビデオコーデックやオーディオコーデックなど)、I/OインターフェースなどIC内の回路ブロックをそれぞれ3次元化した回路ブロックICをスタックする(図3)。SoC回路ブロックと3Dメモリは1枚のシリコンインターポーザ上に形成する。


図3 3D-ICをインターポーザ上に配置、高集積化を実現 出典:IMEC

図3 3D-ICをインターポーザ上に配置、高集積化を実現 出典:IMEC


もちろん、これだけではない。どのようなシステムでもメモリは必要であるが、DRAMとNANDフラッシュとの読み出し/書き込み時間のギャップは依然として大きい。それを埋めるためのストレージクラスメモリ(SCM)にはスピントロニクスを応用するMRAMなどのメモリは欠かせない。

コンピュータアーキテクチャも、従来のフォンノイマン型からニューロモーフィック型へと広がる。その場合はマイコンのような制御回路をぐっと小さくした基本回路ブロックを1ニューロンとして、ずらりと並列に並べるアーキテクチャをIMECは提案する(図4)。


図4 基本的なニューロン回路を並列にずらりと並べる 出典:IMEC

図4 基本的なニューロン回路を並列にずらりと並べる 出典:IMEC


コンピュータアーキテクチャがノイマン型からニューロ型に移るのではなく、広がると見るべきだろう。IBMは、感情を司る右脳にニューロ型を、論理を司る左脳にノイマン型を、それぞれ当てはめるコンピュータアーキテクチャこそが人間の頭脳に近づくものだろうと考えている。これまではノイマン型しか開発されてこなかったため、これからはニューロ型の開発が活発になることは間違いない。

これからも集積度の向上が見込まれる応用はニューロだけではない。医学的な治療の方法が大きく変わるとVan den Hove氏はいう。従来は一般的な患者を相手にしたジェネリック治療だったが、これからは人間一人一人の異なる遺伝子にあった治療に代わるという。そのために60億通りの特性を持つ遺伝子の解読技術の低コスト化が求められる。これはムーアの法則のようにコストが毎年下がっていくことを意味する。現実に、そのコストはムーアの法則と同様にカーブで下がっている(図5)。


図5 遺伝子の解読コストはムーアの法則のように下がっていく 出典:IMECとNIH

図5 遺伝子の解読コストはムーアの法則のように下がっていく 出典:IMECとNIH


Van den Hove氏は最後に、クルマ、特にコネクテッドカーとIoT、セキュリティにも触れ、クルマの140GHzのミリ波レーダーやLIDARなどのシステムに半導体が欠かせなくなってきたと述べた。特にクルマのイノベーションの80%が半導体技術に基づくとしている。クルマはインタリジェントなロボットとみなすことができるとしている。

IoTは直感的なシステムを目指すテクノロジであり、そのためにはニューラルネットワークとノイマン型コンピュータはますます欠かせないとする(図6)。IoTデバイスからのデータによって工場や小売り商店が賢くなり売り上げアップにつなげていく。


図6 IoTデータをフォグやクラウドに上げて顧客のシステムを賢くする 出典:IMEC

図6 IoTデータをフォグやクラウドに上げて顧客のシステムを賢くする 出典:IMEC図6 IoTデータをフォグやクラウドに上げて顧客のシステムを賢くする 出典:IMEC


最後に触れたセキュリティでは、バイオ認証をはじめ、AIや暗号化などハードウエアセキュリティを確立することになると述べた。これらのテクノロジ全てを組み合わせることで、IoTによって形成されるインテリジェントな社会が構築されるとした。このようなIoTシステムを構成する場合にはエコシステムが欠かせないことも強調した。

参考資料
1. IBM、54億トランジスタのニューロ半導体チップを開発 (2016/03/31)

(2016/11/09)

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