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IBM、54億トランジスタのニューロ半導体チップを開発

IBMが54億トランジスタからなるニューロ半導体IC「TrueNorth」を試作、共同開発していたLawrence Livermore National Laboratoryに納入した。このICチップには100万デジタルニューロン(神経細胞)と、2億5600万シナプス(配線接続ノード)を集積している。0.8Vで46G(ギガ)シナプティック演算/秒でリアルタイム演算を、わずか70mWで実行する。

図1 1600万ニューロンを搭載したボード 出典:IBM

図1 1600万ニューロンを搭載したボード 出典:IBM


IBMがこのチップを16個並べたニューロモーフィックシステム(図1)は、1600万ニューロン、40億シナプスを搭載した「頭脳」に相当し、わずか2.5Wというタブレットコンピュータ並みの電力しか消費しない。このボードの総トランジスタ数は、864億個になる。

IBMがニューラルチップを開発したのは、同社が推進している人工知能、コグニティブコンピュータの能力を上げるため。IBMはコグニティブコンピュータを次世代のテクノロジと位置付けている。IBMが得意とする企業向けや公的機関、社会向けのシステム開発・サービスを提供するカギとなるテクノロジがコグニティブコンピュータである。そのコグニティブコンピュータのカギとなるのがニューロ半導体だ。

IBMがニューロ半導体に力を入れるのは、従来のノイマン型アーキテクチャでコグニティブコンピュータを製造すると、消費電力が高すぎてしまうためである。ニューロ半導体なら、2桁も少ない消費電力で演算できる。

IBMのゴールは、ニューロコンピュータと従来型のノイマン型コンピュータを統合させて、最強のコンピューティングインテリジェンスを確立すること。人間の左脳が言語や分析的な思考を司る理性的なノイマン型コンピューティングであるのに対して、右脳は感情やパターン認識などを司るニューロモーフィックコンピューティングに相当する。だから、IBMは両者を統合した最強のインテリジェンスを実現するために半導体に力を入れているのである。半導体の量産工場をGlobalFoundriesに移譲したように、量産はしないが、開発は続ける。

ニューラルコンピュータのシステムは、大雑把に言えば、多入力・1出力の等価回路で表されるニューロン(図2)を膨大な数つないだものである。入力には学習の強さを表す電気抵抗を挿入している。学習によってこの抵抗値を自動的に変えていくことで、正しい答えに近づけていく。図2では2個のニューロンしか載せていないが、TrueNorthではこのニューロンが1チップに100万個、●で表されているシナプスが2億5600万個集積されていると考えてよい。


図2 多入力・1出力で学習強度抵抗を備えたニューラルネットワークシステム

図2 多入力・1出力で学習強度抵抗を備えたニューラルネットワークシステム


従来のノイマン型コンピュータと比べて、消費電力が圧倒的に少ないのは、クロックを使わずに、イベントが起きるたびにコンピュータが立ち上がるシステムだからである。従来のコンピュータは、人間の生活時間と同じようにクロック時間で仕事が実行されている。しかし、クロックは常にパルスを送り続けるためCMOS回路では電力を消費する。消費電力を減らすためにクロック周波数を下げる(クロックゲーティング)とか、使っていない回路を一時的にオフにする(パワーゲーティング)などの工夫を行ってきた。さらに消費電力を下げるためにクロックを使わないイベントドリブン方式や、イベントが立ち上がった時に相手にも連絡するハンドシェイク方式なども出ているが、アイデア止まりとなっており使われてきていない。

IBMのニューロモーフィックアーキテクチャは図2のニューロンとシナプスをひたすら並べたものではない。コアを呼ばれるブロックを構成し、そのコアを64×64個=4096個並べたもので、各コアの中にメモリと演算器、通信器を入れている。そのコアがたとえ間違った答えを出したとしても、人間の頭脳と同様、そのコアが不良(故障)している訳ではなく、アーキテクチャは正常に動作している。1チップに4096個のコアを集積しているので、そのコアをシームレスにつなげることで、ニューロンを増やすことができる。

人間の小脳には1000億個、大脳には数百億個のニューロンが入っているという(参考資料1)。IBMは長期的な目標として、100億個のニューロンと100兆個のシナプスを搭載したコンピュータを作るという目標を持っている。これを体積2リットルの筐体に実装しても1kWの消費電力で済むと見積もっている。

IBMはこういった新しいニューロモーフィック半導体チップを開発するために、エコシステムを構築してきた。シミュレーションやプログラム言語、アルゴリズム、アプリケーション、ライブラリ、教育研修などを開発する。

参考資料
1. 理化学研究所「脳は神経細胞の巨大なネットワークである

(2016/03/31)
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