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多ビット/セルNANDフラッシュのSSDが30nm台で書き換え6万回を達成

多ビット/セル方式(MLC)のNANDフラッシュメモリは書き換え回数や保持特性(リテンション)が微細化と共に低下していく(図1)。NANDの将来は大丈夫か、といった心配を払拭するようなSSD(ソリッドステートドライブ)が登場した。SSDビジネスに特化してきた米STEC社はMLC NANDフラッシュをSSDに実装した製品レベルで30nm台の製品なら6万回、20nm台の製品でも4万回という耐久性を確保した。

図1 MLC NANDフラッシュは微細化につれ寿命は短くなる 出典:STEC

図1 MLC NANDフラッシュは微細化につれ寿命は短くなる 出典:STEC


NANDフラッシュを搭載したSSDは、HDDと比べて消費電力が少なく、データセンターでの占有面積も少ないことから採用が加速している、とSTEC社テクニカルマーケティング担当バイスプレジデントのScott Stetzer氏はいう。データセンターではマルチテナントの環境に加え、クラウドコンピューティングが主流になり、さらに仮想化が進んでいく。このため、大容量に加え、多くのI/O数やそのアクセスしやすさが求められる。

高い信頼性はデータセンター用途には欠かせない。機械部品の多いHDDは高い信頼性という点でシリコン半導体よりも不利であるが、大容量・低コストという点でHDDがこれまでは主流を占めていた。SSDはキャッシュ的に利用される用途が今後伸びていくと予想されている。SSDはHDDと比べ、仮想化に向いた多数のI/Oという点において有利になっている。従来なら300 I/OしかないSSDを仮想化により8万I/OのSSDに変身させることが可能になる。STEC社の計算では、HDDだけで構成する10TBのストレージシステムは4000 I/Oを設置する場合、1 I/O当たり3.90ドル。SSDキャッシュ構成では同じ構成で1 I/O当たり0.01ドル以下だとしている。

MLC NANDフラッシュは、SLC(1ビット/セル)NANDフラッシュと比べて信頼性と書き込み速度が劣っていた。そこでSTEC社は、書き込み速度と信頼性をSLC NANDフラッシュに近づけるCellCare技術と呼ぶ技術を開発してきた。今は第4世代に入ったという。この技術を使えば、SSDを半導体チップレベルで信頼性を評価するのではなく、データセンターなど実際に使う環境で評価できるとしている。

CellCare技術の基本的な考えは三つある。一つはフラッシュメモリのパラメータをチップごとに追跡すること、これにより劣化を少なくし制御する。二つ目は設定している耐久年数を通してSSDを管理し続けること、これにより劣化を少なくし性能を上げ、レイテンシを減らしている。三つ目は、誤り訂正回路を強化したこと、これによりデータの信頼性を上げ、再読み込みをできるだけ少なくした。ただし、そのアルゴリズムなどの詳細は語らない。

STEC社は、MLC NANDフラッシュの寿命が減っていくことを前提として、新たに耐久性(endurance)を評価する尺度を導入した。これまではフラッシュメモリ単体の書き換え回数を尺度としてきたが、実際のSSDの尺度として書き換え回数は適切ではないと考えているからだ。いわばオーバースペックにならないような実際の使われ方を前提とした尺度である。例えば100GBのSSDの場合、1日10回書き換えると1000GB/日(1TB/日)のメモリを使うことに相当すると考える(図2)。MLCフラッシュだけでは20日間、すなわち200回しかもたないとすると、SSDの寿命は20TB分に相当する。セルを平均化するアルゴリズムを追加して500日間は持つとするなら、500TB分の容量を使えることになる。さらに、開発したCellCare技術を使えば1800日以上として1.8PB分の容量を使えることになる。


図2 SSDの寿命が尽きるまでの書き込める最大の容量で評価 出典:STEC

図2 SSDの寿命が尽きるまでの書き込める最大の容量で評価 出典:STEC


この考え方はコストにも影響する。TB当たりの平均書き込みコスト($/TBw)が、MLCだけでは12.8ドル/TBwになり、500日分のMLCなら0.85ドル/TBwになる。さらにCellCare技術を使えば0.24ドル/TBwと計算できる。

安価なcMLCと高価な企業グレードのeMLCについて耐久性の目標値を設定、耐久試験を行った。耐久性を高める基本的な考え方は、例えば企業グレードでは、24/7(24時間7日間休みなくという意味から、常時休みなく、という意味)5年間ずっと使うことを前提とする。これは、STEC社がSSDを5年保証していることによる。1日27回書き換えるとして5年間、400GBのSSDを動作させると19.7PB分の容量を使えることに相当する。そこで27×365×5=4万9275回として、eMLC SSDは6万回を目標にした。同様に民生グレードの安価なcMLC SSDは1日10回のランダム書き込みを行うとして、4万回の目標を設定した(図3)。


図3 SSDの実際の耐久性は伸ばせる 出典:STEC

図3 SSDの実際の耐久性は伸ばせる 出典:STEC


CellCare技術を利用して、30nm台のeMLCフラッシュのSSDで6万回のサイクルをクリア、20nm台のcMLCフラッシュSSDで4万回のサイクルをクリアしたという。書き換え耐久性の実験では、30nm台のeMLCフラッシュメモリを搭載した量産ドライブを35台テストし、CellCare技術を使わないSSDも比較用に5台試験した。この結果、CellCare技術を使わないSSDは3.3万回から修正不可能なエラーを発生した。この後行ったデータ保持特性試験後には5台全て稼働しなかった。データ保持特性は、書き換えの耐久性試験を行った後で評価した。ここでは、40℃で3ヵ月間保存し、記憶内容が消えずに維持されているかどうかを評価した。

同様に20nm台のcMLCフラッシュでは、CellCare技術を適用しないSSDはわずか3000回でエラーを起こしたが、CellCare技術のSSDは4万回をクリアした。

以上の結果から、MLCのNANDフラッシュは、微細化によって書き換え回数が劣化するものの、SSD側の工夫によってSSDとしての書き換え回数を4万回、6万回と伸ばすことができ、商用レベルに達しているといえそうだ。

(2012/05/25)
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