Semiconductor Portal

» セミコンポータルによる分析 » 技術分析 » 技術分析(半導体応用)

「技術で何ができるかが重要」というジョブズ氏の言葉を反映したクアルコム

ファブレス半導体メーカーのクアルコム(Qualcomm)が、民生エレクトロニクスの展示会であるCES(Consumer Electronics Show)で存在感を見せつけた。スティーブ・ジョブズ氏の「技術が重要なのではなく、技術で何ができるかが重要なのだ」を反映している。半導体チップのSnapdragon S4についてはあまり触れず、チップを使ってできる機能を見せた。

図1 Snapdragon S4プロセッサのイメージ図

図1 Snapdragon S4プロセッサのイメージ図


クアルコムは最新の28nmプロセスによるモバイルプロセッサSnapdragon S4を展示はしたが、その詳細については多くを語らない。S4のCPUコアはARMv7の命令セットアーキテクチャ(ISA)を使いながらARMコアを改良したもので、Kraitと呼んでいる。デュアルコアを集積しただけではなく、GPU(グラフィックスプロセッサ)や、LTE/HSPA+/EV-DOモデム、GPS、Wi-Fi、Bluetooth、など通信用のモデム回路や汎用DSPコアも集積している。

クアルコムは応用技術に注力しており、今回のCESではさまざまな応用を示した。Snapdragon S4とマイクロソフトの新OSであるWindows 8を搭載したタブレットやノートPCなどを示したが、それらの機器はAT&TのLTEネットワークでインターネットと接続できる。Snapdragon とWindows 8を組み合わせて機器を作るメーカーは、モデムチップを追加する必要がないため機器を小型化できる。


図2 ノキアのスマホWindows Phone Lumia 800

図2 ノキアのスマホWindows Phone Lumia 800


その一つの例がマイクロソフトのWindows PhoneとSnapdragonを搭載した、ノキアのスマートフォンである。ノキアが今回展示したスマホLumia 900、Lumia 800、Lumia 710が全てSnapdragon + Windows Phoneである。ノキアは特に発展途上国市場に強いため、この市場向けのSnapdragonにクアルコムは期待している。

さらにSnapdragonはレノボが今回発売を決めたスマートテレビにも使われる。このスマートテレビでは、音声認識によるリモコンや、ビデオオンデマンド(VoD)機能、Android 4.0などを搭載し、Snapdragonがスマートテレビを制御する。

Sanpdragon以外にも携帯技術
携帯機器なら何でも扱う、とクアルコムCEOのポール・ジェイコブス氏は述べたが、携帯機器に搭載するディスプレイの消費電力を下げるため、液晶に変わるディスプレイを求めてMEMSディスプレイメーカーのミラソル(Mirasol)を数年前に買収した。この新型ディスプレイは、反射光を変調することで、光の波長が変わり反射光の色が変わるという原理を利用する(参考資料1)。反射光を変調するのがMEMSで作る光学キャビティである。動作原理を以下で述べるが、光は自然光を利用し電力は反射膜を動かすことにしか消費しないため、消費電力が小さい。液晶の1/5程度だという。

この光学キャビティは、光を反射し変形する薄いメンブレン膜と、反射ミラーとして働く多層膜でできている。このMEMSデバイスに光が当たると、光はメンブレン表面と多層膜表面で反射される。光学キャビティの間隙を変えることによって、メンブレンで反射される光の波長は、多層膜で反射される光の波長とは位相がずれてくる。位相の差によって、積極的に干渉を起こす波長があるが、逆に干渉をなくしてしまう波長もあるという。


図3 Hanvonが発売した電子ブックリーダーのミラソルディスプレイ 出典:Hanvon

図3 Hanvonが発売した電子ブックリーダーのミラソルディスプレイ 出典:Hanvon


人間の目は、光の波長が強め合うと色として認識する。ミラソルディスプレイ上の画像は、メンブレンの状態を変えることで、選択された色と真っ暗(黒)との間をスイッチする。メンブレンの状態は、多層膜に電圧を加えることで変える。多層膜に電流は流れるが絶縁膜で保護されている。電圧をかけるとメンブレンは静電気の力によって凹む。

光キャビティが変化する結果、紫外線領域で積極的に干渉が起こるが、紫外線は見えないため黒くなる。フルカラーディスプレイは、赤と緑、青のそれぞれの波長を反射するMEMSデバイスを画素ごとに配置することで得られる。

このミラソルディスプレイを利用した電子ブックリーダーC18を韓国のHanvon社が昨年11月に発売した。これは5.7インチのXGAディスプレイで、アンドロイド2.3とSnapdragon S2で動作させ、1日に30分間の読書を楽しむとして1カ月間電池が持つという。屋内よりも光の強い屋外で使う方がきれいな色に見える。

クアルコムはWireless Reachと呼ぶ一種の市民活動を推進することにも力を入れており(参考資料23)、その中核は医療・ヘルスケアや教育などの分野だ。ジェイコブス氏のCESでの基調講演(参考資料4)ではセサミストリートを運営するセサミワークショップCEOのMelvin Ming氏も登場し、タブレットを使ったAR(拡張現実)の教育への応用を示した。これはタブレットでおもちゃの人形の写真を撮るとその人形がアバターとなって動きだすという教育ゲームである。

クアルコムの応用技術へのフォーカスは、さらにジェスチャー認識にも向けられている。GestureTekというジェスチャー認識のエキスパート企業から認識IPとエンジニアリング資産を2011年7月に買収している。今後、Snapdragonにこの機能を集積する計画だ。

応用にフォーカスするのなら、クアルコムはなぜ微細化も進めるのか、応用と微細化の関係を明らかにしてほしい、と筆者が質問すると、モバイルプロセッサにウェブ動作やスクロール、画像撮り込み・映像再生などの動作をさせる場合には性能にはまだ不満が残るからだ、と同社は記者会見で答えた。微細化は高速化、高集積化を推進するが、現在の機能はまだ不十分だからこそ、微細化がさらに必要なのだとしている。

参考資料:
1. Mirasolホームページ
2. クアルコム、血圧測定データを医師に届ける通信機器の実用実験を開始 (2010/07/23)
3. スマートフォンによるデジタル授業開始、早くも効果ありの声 (2011/07/28)
4. ジョブズ氏亡き後のカリスマリーダーは誰か、がCESでの業界人最大の関心事 (2012/01/16)

(2012/01/27)
ご意見・ご感想