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英国特集2011・半導体に焼きつけられるソフトを開発しているベンチャーたち

MWC(Mobile World Congress)のUKパビリオンでは、自力で出展できないがテクノロジーは自慢できるものを持つベンチャーが並んでいる。いくつか拾ってみると、OSやゲーム機が違っていても変換して使えるソフトウエアを開発したAntixLab社、携帯機器をトントンと叩き、叩く場所でコマンドを使い分けられるソフトウエアを開発したInput Dynamics社、携帯で切符を購入、そのまま改札口も通れるソフトウエアのMasabi社などが出展した。

図1 InputDynamics社CTOのSimon Godsill教授(右)とエンジニアのJens Christensen氏(左)

図1 InputDynamics社CTOのSimon Godsill教授(右)とエンジニアのJens Christensen氏(左)


これらの3例はいずれもソフトウエアメーカーであるが、開発したソフトウエアを半導体チップに焼きこんでしまえば、それぞれ専用の機能になる。しかもソフトウエアを改良してバージョンアップすることもフラッシュなどのメモリーに焼きこめば簡単に変えられる。プログラマブルなソフトウエアを焼きこむSoCは、専用の半導体チップ(ASICやASSP)とは違い、ハードウエアを変えることなく、ソフトウエアの内容を書き直すだけでバージョンアップでき、将来の発展に備えることができる。

これらはたまたまソフトウエアメーカーであるが、いずれの企業も考案したソフトウエアを焼きこんだASSPあるいは組み込みSoCなど半導体チップに集積したいと考えている。ここでは、こういった半導体に焼き込むことを狙うベンチャー企業を紹介する。

AntixLab:どんなOS、CPUでもゲームソフトを使えるようにするコンバータ
AntixLabは、どんなゲームソフトも携帯用に(あるいはPC用に)コンバートできるソフトウエアを開発した。OSやCPUが違っても、ゲームソフトを使えるようになる。例えば、任天堂のゲームソフトをソニーのプレイステーションのゲームにも使えるようになる。さらにインテルのCPUを使ったパソコン用のゲームソフトをARMプロセッサ内蔵の携帯用にもそのまま使える。その逆もできる。このためゲームソフトを改めてC/C++などの言語で書く必要がない。

「AntixLabが開発したソフトはコードの形でコンバータとして持つのであり、決してコンパイルではない」と同社COO(Chief Operating Officer)のMike Foss氏は言う。同氏は、このソフトウエアを、バーチャルからリアルに変換するバーチャルプロセッサと呼んでおり、OSとCPUに独立のゲームソフトを変換するコンバータである。

OS やCPUが違っていても変換できるということは、コードコンバータを持つことであり、マシンレベル、すなわちバイナリコードレベルでの変換となる。同社はこれを3年がかりで制作した。

このコンバータは、例えばWindows 7パソコン用のゲームソフトをダウンロードすると同時にイニシャライズした後、コンバートして自分の携帯にとり込むことができる。プラグインする訳ではないという。

同社は、コンバータをチップの形で持ちたいと考えている。チップメーカー4~5社と組み、ASSPのようなチップを考えている。このコンバータはデザイン変更が少ないためだ。加えて、チップ製作用の開発ボードを設計するために半導体メーカーと一緒に共同開発したいとも考えている。AntixLabはマルチスクリーン用のゲーム開発キットは作っているが、半導体チップを開発するためのツールを求めている。

Input Dynamics:携帯機器をトントンたたく場所でコマンドを識別する
Input Dynamics社は入力コマンドをたくさん増やしたい、という携帯機器メーカーに向けたソフトウエアを開発している。TouchDeviceと呼ぶその技術は、これまでのタッチスクリーンやマウスなどの入力デバイスとは違い、携帯電話機の上や横をトントンと叩くだけである。
 
スマートフォンではない画面の小さな携帯電話で、入力コマンドを増やしたい、という用途や、アマゾンの電子ブック「キンドル」のような電子インクのディスプレイを使うような携帯機器に向く。コマンドというのは例えばメニューを選択する、画面をスクロールする、文字や画像をズームアップ、ズームダウン、カメラのパノラマ、スキップなどの動作を行わせるための命令の一種である。これらのコマンドを、携帯機器をたたく場所や回数によって使い分ける。例えば、電話がかかって来た時に「トン」と1回たたくと受話器を挙げる動作を表し、電話機からは1回バイブレーションでその動作を確認する。2回「トントン」とたたくと電話に出ないという行動を示し、電話機は2回のバイブレーションで動作を確認する。

トントンと叩く操作を検出するのはマイクロフォンだ。米国のKionix社がMEMS技術による3軸の加速度センサーで携帯電話の「上下左右表裏」の6カ所の振動を検出したのに対して、今回は音を検出する。マイクからの音をサンプリング周波数44kHzで検出し、1回の「トン」と2回の「トントン」も簡単に聞き分けることができる。今は携帯電話機の9カ所のポイントを叩くコマンドに対応しているという。

図2 叩くと音の波形はシャープに立ち上がる

図2 叩くと音の波形はシャープに立ち上がる


2008年にケンブリッジ大学からスピンオフして設立された同社は、この音を検出する信号波形からコマンド操作を対応させるためのソフトウエアを開発する企業だ。これまで海外の大手OEMやODM企業と共同開発してきた経験を生かし、起業した。このソフトウエアの開発と製品化に必要な資金を2009年10月に東イングランド開発局EEDAから10万ポンド(1500万円)、2010年7月にはケンブリッジ大学のTLO組織ケンブリッジエンタープライズ社(参考資料1)からも出資を受けている(参考資料2)。

信号波形とコマンドを対応させるソフトウエアがこの技術のカギとなり、このソフトをライセンス販売する。マイクの音質やA-Dコンバータにもよるが15カ所叩くようなコマンドも聞き分けられるとしている。操作ボタンを増やしたくないという携帯機器に向き、ソフトウエアをアップグレードすることで、コマンドの拡充も可能になる。潜在顧客は、携帯電話メーカー、タッチスクリーンメーカー、カーナビやDVD機器メーカー、タブレットや電子インク方式の電子ブックメーカーなど大手数社と話し合いを始めているという。

Masabi:切符を携帯から購入、改札も通過できるシステムソフトウエア
2001年創業のMasabi社は、携帯電話の画面から電車の切符を購入し、そのまま改札も通れるようにできるシステム向けのソフトウエアを開発している。同社は、英国のオンライン電車チケット販売会社のthetrainline.comと共同で、主な携帯電話の機種に使えるようにしたと発表した。ブラックベリーやノキア、ソニーエリクソン、サムスンなどの携帯電話機とスマートフォンおよびアンドロイドベースのスマートフォンでこのほど使えるようになった。

図3 携帯電話から切符を購入、そのまま改札も通る バーコードリーダーさえあれば自動改札システムを構築できる極めて低コストな切符システムとなる

図3 携帯電話から切符を購入、そのまま改札も通る バーコードリーダーさえあれば自動改札システムを構築できる極めて低コストな切符システムとなる


切符売り場に並ばずとも携帯電話で購入できる「電子切符」は、携帯の画面に切符を表示したり、その情報を2次元バーコードに表示したりできる。このシステムでは一切の紙は出力しない。改札口ではバーコードリーダーさえ備えれば通過できるため、改札口のシステムを極めて安価にできる可能性がある。

ブースで説明していた同社Will Morley氏によると、鉄道のほか、バスや飛行機のチケットなどいろいろな交通システムに使いたいとしている。今のところ、英国のthetrainline.comとパートナーを組んでまず英国からサービスを始めるが、これを各国へ展開したいという。何よりも導入コストを安くできることが最大の特長で、改札口ではバーコードリーダーさえあれば、安価な開閉システムを設けるだけで乗客を誘導できる。さらに窓口業務を減らせることもできる。

参考資料
1. 特集:英国株式会社(10)大学がベンチャーを支援 (2008/04/04)
2. Teaching old phones new tricks

(2011/03/22)

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