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ナショナルセミコンが環境配慮のパワーエレクトロニクスに注力、新市場獲得へ

米ナショナル セミコンダクター社が、リチウムイオンバッテリの有効利用や、ソーラーパネルの出力低下の防止、LED照明システムの効率向上など環境を配慮したパワーエレクトロニクスに注力している。環境にやさしいソーラーやLEDとはいえ効率が悪くては環境にやさしいとはいえない。効率アップによる新市場は最終ユーザーのメリットも大きい。

図1 セルバランスをうまくとると無駄のない充電コストでEVが走る

図1 セルバランスをうまくとると無駄のない充電コストでEVが走る


リチウムイオン電池やソーラーシステム、LED照明に半導体エレクトロニクスを加えることで、無駄な電力が減り効率良いシステムができる、外部からのデジタル制御で設定を変えられる、安全性をより高めることができる、などメリットが多い。中でも消費電力をさらに削減するのに半導体を利用するというメリットを最大限に利用すると、最終ユーザーにとっても電力コストの低減、ソーラーなら売電量の増加といったメリットを享受できる。

リチウムイオン電池の有効利用では、セルバランスの問題に取り組んでいる。セル出力3.6〜4.1Vのリチウムイオン電池は、電気自動車やノートパソコンでは電圧を上げるため直列に接続することが多い。特に電気自動車は数十個〜100個直列に接続する。リチウムイオン電池メーカーがバッテリシステムメーカー(OEM)に納入する場合、初期的にはバラつきの少ないセルを選別しても使っているうちに個々のセルの容量がバラついてくる。充電容量の大きいセルに合わせて充電しようとすれば図1の左上のように、容量が減少してしまったセルは熱に変わり電力としては無駄に終わってしまう。逆に、容量の最も小さくなったセルに合わせて充電すると(図1の右上)、走行距離が短くなってしまう。

そこで、バラつきのある電池を使う場合でもそれぞれの容量に応じて、すべてフル充電できるように制御すれば、エネルギーを無駄にせずに十分な走行距離を走ることができるようになる。セル間の充電を再分配させるような方式を使えば、これが可能になる。ナショナルセミコンのキーマーケット部門兼ビジネス開発のシニアVPのマイク・ポラシック(Mike Polacek)氏(図2)は、「リチウムイオン電池は電気化学反応によるところが大きいが、エレクトロニクス技術を使って電池のセルバランスをさまざまなセルについて研究している」と述べる。


図2 ナショナルのシニアVP Mike Polacek氏

図2 ナショナルのシニアVP Mike Polacek氏


リチウムイオン電池は、充電と放電の経路が異なるヒステリシス曲線を描くため、充電方法を研究することは重要だとしている。ポラシック氏は、蓄電池をエレクトロニクス半導体で制御することをスマートストレージと呼んでいる。


図3 薄くなった第2世代のソーラーオプティマイザ

図3 薄くなった第2世代のソーラーオプティマイザ


ソーラーシステムについても以前、ソーラーオプティマイザと呼ぶ製品を出した(関連記事1)が、最近その薄型を発表している(図3)。これは太陽が曇ったり、日陰になったり、パネルにゴミが付いたりすることで、ソーラーパネルの効率がぐっと落ちる問題に対処するためのデバイスだ。

太陽電池のセルは0.7V程度しか発電しないため、これも直列に数十個〜100個のセルを接続する。基本的には太陽電池セルはフォトダイオードであるから、直列接続されたセルが1個でも不良だったり、電流が小さかったりすると、全体の電流が小さくなってしまう。このため従来はパッシブなツェナーダイオードを数個おきに設け迂回路を形成する方法が使われてきた。このソーラーオプティマイザは、電流が低下するのを電圧が増える最適な電力ポイントを追跡していくアクティブな方法である。パネルごとに1個設けるアクティブな補償デバイスであるが、パネル同士も直列につなぐ必要がある。並列に接続すれば、調整した電圧でパネル列間の最大電圧が変わってしまうためだ。

ただし、このソーラーオプティマイザは発電効率が最大に戻る訳では決してない。このデバイスを設置した実験では、失われたエネルギーの最大でも50%を取り戻すことができる程度にとどまる。これによってパネル全体の効率は5~20%改善され、パネルの寿命は9%伸びるとしている。

ナショナルはLEDチップを直列接続と並列接続して使うLED照明に関しても、定電流回路を設けたコントローラの製品を多数出している。最近は、ダイナミックに明るさを変えられるように、PWM(パルス幅変調)制御回路と、アナログ的な調光回路、熱フィードバック用インターフェースなどを集積したLEDコントローラ製品を4月にリリースしている。

ナショナルが力を入れる分野はセルやダイオードを直列、並列に多数並べる応用だ。定電流回路を基本とし、ユーザーの要求に応じて機能を追加するといった製品を開発することで立場を有利にしている。

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1) ナショセミ、太陽電池パネルの出力を最大化する小型のデバイスを国内で出荷開始 (2009/06/23)

(2010/08/10)
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