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TSMCの2023年3Q決算は前期比10%増で回復基調に、BISの規制一段と強まる

2023年第3四半期(3Q)におけるTSMCの業績が発表され、売上額は172.8億ドル、営業利益率41.7%という結果だった。前年同期比で14.6%減だが、前期比で10.2%と徐々に回復基調にある。また、米国商務省BIS(産業安全保障局)は10月17日(米国時間)、対中貿易を念頭に置き、これまでよりも一段と強い輸出制限を発表した。キオクシアとWestern Digitalの統合にSK Hynixが反対を表明している。

TSMCが発表した3Q23の決算情報を見る見方が分かれている。10月19日の共同通信が「TSMC、純利益24.9%減、7〜9月、半導体市況低迷」と題して、「2四半期連続で減収減益となった」、と結論付けたのに対して、20日の日本経済新聞は「TSMC、業績底打ち iPhone15向け出荷伸びる 7〜9月24%減益、4〜6月比は増収増益」と題して、底打ったと表現した。

TSMCの四半期実績を、昨年から追いかけてみると、2022年3Qでは202.3億ドル(6131億台湾元)、同4Qには199.3億ドル(6255億台湾元)、23年1Qには167.2億ドル(5086億台湾元)、23年2Qには156.8億ドル(4808億台湾元)、そして3Qには172.8億ドル(5467億台湾元)と推移している。ここでは2023年2Qを底として、3Qは明らかに上昇しており、前四半期比でみると米ドルベースでは10.2%増、台湾元ベースで13.7%増と増加傾向が見える。

ただし、TSMCの3Q23業績は、減収減益ではあるが、営業利益率(売上額に対する営業利益の割合)は41.7%と極めて健全な決算状況だ。むしろこれまでが「儲けすぎ」といえる状態だった。例えば3Q22、4Q22の営業利益率はそれぞれ50.6%、52%もあった。


3Q23 Revenue by Technology / TSMC

図1 TSMCの売上額の内訳 先端ノードが全体の59%を占める 出典:TSMC


TSMCの3Q23の売上額の内訳をみると、3nmノードが6%、5nmノードが37%、7nmノードが16%となっており、これらの先端ノードの合計が売上額の59%を占めている(図1)。このことがラピダスの小池社長が「微細化する方が儲かる」と述べている根拠となっている。ただし2nmノードでこの法則が成り立つかどうかはまだ結論できない。また、3Q23で初めて3nmノードの売り上げが立った。この売り上げはAppleのiPhone 15のSoCによるもの。

iPhone 15のSoCにはその前から簡単なAI専用回路(AIエンジン)を集積してきたが、エッジAIをはじめとしてSoCには簡単なAIエンジンを集積するようになり始めている(参考資料1)。すでにAMDのパソコン向けSoCであるRyzen PRO 7000シリーズ(参考資料2)では、Apple Siliconと同様、モノリシックICにAIエンジンを集積しているが、IntelのCore Ultraではチップレットを多用する先端パッケージにAIエンジンを搭載している。これはエッジでも簡単な学習が可能な状況が生まれてくるようになったからだ。エッジでのAIは推論だけではなく、学習も基本ベースはクラウドからダウンロードし、追加学習はエッジ側で行う。これにより学習がもっと手軽にできるようになっている。


また18日の日経が報じたように、米国商務省は、これまでよりも一段と厳しい対中国輸出規制を発表した。エンティティリストは、Beijing Biren Technology Development社やその子会社であるGuanzhou Biren Integrated Circuitなど13社に拡大した。半導体IC会社が含まれていることが特徴だ。厳しい規制を追加するのは抜け道を回避するためで、中国向け製品の輸出には必ず届け出ることが義務付けられている。今回、エンティティリストを追加した狙いは、半導体は軍事用にも使えるデバイスであるため、次世代兵器開発に必要な先端半導体(AIやコンピュータチップなど)の開発を阻止すること。そのために半導体ICチップだけではなく、ICチップを製造するために必要な製造装置も規制するため、米国技術を含む製造装置を使って外国がチップを製造し中国へ輸出することを規制している。電子兵器やレーダー、インテリジェントな信号処理装置やジャミング(妨害電波発信機)などにも使うAIやコンピュータ技術を規制する。


10月19日から21日、22日の日経は、キオクシアとWestern Digitalとの統合状況を個報じているが、金融機関が1兆9000億円の融資を確約した、と日経が報じた。キオクシアとWDは四日市や北上工場を共同で運営し、半導体プロセス工場に共同で投資してきた。完成したNANDフラッシュ製品はそれぞれが自由に販売するだけではなく、フラッシュコントローラはそれぞれが開発している。

ここにキオクシアの株主であり、NANDフラッシュのライバルでもあるSK Hynixが統合反対を主張している。もともとDRAMには強いがNANDフラッシュ技術は弱かったSK Hynixは、キオクシアの持つNANDフラッシュ技術が欲しくて出資したという経緯がある。ここにWDと統合すると、HynixにとってNANDフラッシュの技術の入手は一層困難になる。これまでIntelの大連工場を購入することでNANDフラッシュを強化しようとしてきたが、中国工場を強化しにくくなる。少なくとも米国に工場を作っても政府の支援は得られにくい。HynixにとってはWDとの統合は何のメリットもなくなるため、今後の統合の行方は混とんとしている。

参考資料
1. 「生成AIだけがこれからのAIではない〜Intel、AMD、IBMの戦略から見えるAI」、セミコンポータル (2023/10/03)
2. 「AMDの新Ryzen PRO7040、AIエンジンやセキュリティプロセッサを集積」、セミコンポータル (2023/09/22)

(2023/10/23)
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