ラピダス、IBMから2nmプロセスのGAA技術を導入、ソニーのセンサ新工場投資
日本発のファウンドリ企業、ラピダスがIBMから2nmプロセスのGAAトランジスタ技術(図1)の開発推進で提携した。ソニーはAppleのTim Cook CEOの訪問直後に、熊本県内に新工場設立と日本経済新聞が発表した。中国のNANDフラッシュメーカーであるYMTCを禁輸リストに加えたと米商務省が発表した。
図1 IBMが開発した2nmプロセスのGAAトランジスタのテストチップ セミコンジャパンに来日したIBMのシニアVPでIBM ResarchのディレクタであるDario Gil氏がその300mmテストウェーハを持っている
2021年にIBMは2nmプロセスノードと称するGAA(Gate All Around)トランジスタを試作開発している(参考資料1)。2nmプロセスを開発する以上、GAAトランジスタを開発しなければならなかった。今回の提携に至った背景にはIBMがラピダス社のGAAトランジスタのライセンス購入を持ち掛けたことがある。「渡りに船」だった。ラピダスの小池社長は、「今回、IBMからGAAを一緒に開発しないかという打診をいただき、幸運だった」とセミコンジャパン2022のオープニングキーノートパネルディスカッションで語っている。つまり、GAAトランジスタのライセンスを購入することで合意した。
GAAトランジスタを今ゼロから開発するよりは、すでに開発した企業と組む方が早く量産に持ち込める。しかし、これまでの国家プロジェクトはオールジャパン体制だったため海外企業とのコラボはできなかった。今回、経済産業省は過去の反省として海外と手を組むことを推進し、台湾のTSMCを誘致、ラピダスのimec提携(参考資料2)も支援してきた。これまでの国家プロジェクトとは大きく違う。
IBMとの技術提携によって、米国の半導体開発拠点の一つであるアルバニーのナノテクコンプレックスのエコシステムにラピダスが参加し、ここでIBMおよび日本IBMの研究者と協働する。Rapidusの特長は製品化のスピードが速いことだとしてRapid(迅速な)という形容詞から企業名を名付けたと小池社長は述べている。
先週、セミコンジャパンのさ中に、ソニーは熊本県内にイメージセンサの工場を新たに設立する検討を始めたと12月16日の日本経済新聞が伝えた。ソニーはすでに熊本県でCMOSイメージセンサを生産しており、加えてTSMCとの共同出資によるJASMの工場建設が進んでいる。JASMではイメージセンサからのデータを処理するロジック半導体を生産するという。これに対して、新工場はイメージセンサそのものを生産する。
実はその3日前の13日にAppleのTim Cook CEOがソニーグループの吉田憲一郎社長と共に熊本工場を見学している、と14日の日経が報じた。この記事では単なる訪問しか伝えていないものの、15日の日経には、ソニーがAppleに納めるイメージセンサの製造工場で2030年までのカーボンニュートラルを実現したことで合意した、と報じている。Appleは自社開発工場だけではなく、サプライチェーンすべての業者に渡ってカーボンニュートラルを求めているが、ソニーグループも自社工場が2030年までにカーボンニュートラルにするという目標を掲げている。Apple の要求も満たしていることから、この先の生産能力を高めるために新工場を建設するのであろう。
ただ、スマホ市場がこの先さほど伸びないために生産能力を上げて供給過多にならないだろうかと心配する向きもあろう。しかし、ソニーの半導体グループであるソニーセミコンダクタソリューションズは、スマホ向けだけではなく車載事業にも力を入れており、車載向けの受注が取れればソニーの事業はさらに伸びる。クルマ1台にはアラウンドビューモニターに4台、前方に1台ないし2台(ステレオ画像による自動ブレーキなど)、バックモニターに1台、ドアミラー用左右各1台ずつは必要になる。クルマ1台に10台近くのカメラが載るようになるわけだから、車載用途は今後の大市場になる。
車載用では、信号や外部ディスプレイなどのフリッカー(LEDドライバがLEDストリングごとに順番に点滅するように設計されていることによる表示欠け)対策をはじめ、暗いトンネルから出たり入ったりする時の輝度の広いダイナミックレンジなど、車載独自の要求があるが、ソニーの車載事業部はそのような問題を解決するイメージセンサをすでに持っている。車載用の広い温度範囲も製品には欠かせない。AppleがEV設計、量産を始めても十分に対応できる技術がある。このことからAppleがクルマを生産する可能性は十分ありうるし、ソニーがその準備をしているという読みも十分ありうる。
米商務省は対中貿易でYMTCを含む30以上の中国企業・団体を事実上の禁輸リストに加えると発表、16日の日経が報じた。バイデン政権は、半導体が最新兵器の能力(例えば命中率など)の優劣に直結することを理解しており、中国の軍事技術につながる半導体そのものの輸出や半導体製造装置の輸出をより厳しくしている。これまでは特にApplied MaterialsやLam Research、KLA、東京エレクトロンなどは全売上額の中国比率が20〜30%もある。米国政府は日本とASMLのオランダにも輸出制限を求めているが、米国内の半導体製造業界からの反発が予想され、ロビー活動が活発になりそうだ。日本も米国の装置産業と共にロビー活動を繰り広げてはどうだろうか。日本だけが不利にならないようにするためだ。
参考資料
1. 「IBM研究所が2nmプロセスで500億トランジスタのICチップを試作」、セミコンポータル (2021/05/07)
2. 「ラピダス、2nmノードの研究開発でimecと戦略的技術提携」、セミコンポータル(2022/12/07)