ファブレス半導体トップのNvidia、時価総額で世界全企業のトップに立つ
米ファブレス半導体トップのNvidiaの時価総額がMicrosoftを抜いて世界のトップに立った。米国時間18日のNvidiaの時価総額は3兆3350億ドルとなった。これは石油や金融などあらゆる産業を含めて首位に立ったという意味だ。時価総額とは発行された株式総数に株価を掛けたかけた数字。国内では理系女子枠を設けて女性技術者を増やす動きが出ている。

図1 シリコンバレーにあるNvidiaの本社
ファブレス半導体トップのNvidiaの株価が高騰している最大の理由は、生成AI向けの半導体需要によるもの。生成AIは巨大な学習データが必要で、チャットGPTのGPT-3の持つトークンなどのパラメータ数は1750億も必要とされ、学習させるのにGPUを数千台使ったコンピュータで数百日かかったと言われている。そこでGPUの性能を仮に10倍に上げれば数百日の学習時間が数十日で済む。100倍なら数日で済む計算になる。
だからNvidiaは高性能なGPUやAIチップの開発に力を入れている。加えて数量需要も高い。顧客は大量のGPUを購入する。市場で入手できる最高性能のGPU「H100」は、ボードに実装した段階で数百万円とも言われている。このチップを数千個求めるわけだから、Nvidiaの売り上げは急増する。Nvidiaが発表した2025年度第1四半期(2024年2月〜4月末)の売上額は前年同期比で3.6倍の260億ドルと驚異的だ。その前四半期(2023年11月〜2024年1月末)には226億ドルの売上額で5.27倍と同社の史上最高額を記録したばかりなのにさらに18%も伸ばしたのである。加えて、次の四半期売上額に関しても予想しており、280億ドル±2%、としている。さらなる史上最高額である。もちろん、利益も大幅増だ。最新の25年第1四半期の純利益は152.38億ドルとなっており、売上額に対する純利益率が58.5%と驚くほど高い。
GPUの単価も上昇傾向にある。6月17日の日本経済新聞によると、Nvidiaの前世代のGPU「A100」の単価は250万円程度だが「H100」のそれは571万円となり2倍強になっている。しかし、H100の計算能力はA100の6倍に相当する。能力あたりの単価はむしろ安いことになる。
Nvidiaの強みは単なるファブレス半導体に収まらないことだ。行列演算や数値演算に使う積和演算器をGPUに大量に集積しており、これらを同時に並列動作させるためのソフトウエア「CUDA(クーダ)」もゲーム用途に使われていた時代に開発している。つまりGPUを最適に動かすためのソフトウエアと、さらにAIのモデルライブラリ、それらを使うための開発環境ツールなど、GPUを正しく使うためのツールも全て提供する。ここまで充実したAI開発のプラットフォームを揃えているところはまずない。このため、CEOのJensen Huang氏は、自らを「AIファウンドリだ」と講演で述べることが多くなってきた。エヌビディアの日本法人は自分らをプラットフォーマーとも言っている。
生成AIは各データセンターで組み込まれることになるため、その需要は高まる方向だ。日本でも産業技術総合研究所は、東京大学柏キャンパスにスーパーコンピュータ「ABCI」を設置しているが、そのシステムを更新するためHPE(Hewlett-Packard Enterprise)のサーバーを大量に導入する。このサーバー内にNvidiaの新型GPU「H200」を数千個使うと6月19日の日経が報じている。ChatGPTは基本的に英語ベースでしかも2021年9月以前のデータを学習させているため、日本の情報に関しては乏しく、答えられないことが多い。このため国内のAIスパコンを利用して日本語のLLM(大規模言語モデル)を官民で構築するとしている。
国内では理系女子の採用枠を設ける大学が増えているという記事が24日の日経に掲載された。技術者不足が叫ばれる中、「女性は理系が苦手」という偏見や先入観を取り除き、多くの大学が女子学生歓迎のメッセージを出すようになった。ただし入試の点数を甘くするわけではない。試験の他に面接も加えたり、高校時代の推薦枠を広げたり、女性が偏見などで損をしない仕組みを作り上げていく。また入学してからも孤立しないように女子会を積極的に設ける大学もあり、女性の先輩学生や教員とも話し合う場で情報交換や相談できるようになっている。
技術者不足はまだしばらくは解消しないだろうが、最近では大学で半導体を学んだ学生が半導体企業に就職する機会も増えているようだ。京都大学でも優秀な学生がTSMCに就職が決まったという話を聞いた。かつては半導体の研究室から、コンサルティングや金融業に進み、半導体企業に進む学生がいなかったことから比べると少しは良くなったと言えそうだ。